- 2019年03月07日 14:40
ゴーン氏保釈が、検察、日産、マスコミに与える“重大な影響”
2/2ゴーン氏保釈による「重大な影響」
今回のゴーン氏の保釈には、監視カメラの設置等の異例の保釈条件が付されている。しかし、保釈条件は不変のものではない。今後の公判前整理手続や公判審理の状況に応じて、不要となれば、条件が解除されることもあり得る。
美濃加茂市長事件では、現職市長だった藤井浩人氏は、収賄容疑について現金の授受を含めて全面否認していたが、4回目の保釈請求が許可され、逮捕以来62日間の身柄拘束で保釈された(【藤井美濃加茂市長ようやく保釈、完全無罪に向け怒涛の反撃】)。このときは、副市長を含む多くの市役所職員との接触禁止等の保釈条件が付され、保釈に水を差したいマスコミは、「市長職を務めることは事実上困難」などと報じた。しかし、公判前整理手続の中で、「罪証隠滅のおそれ」が全くないことが客観的に明らかになり、弁護人の保釈条件変更申請で接触禁止は順次解除されていった。
ゴーン氏についても、今後、公判前整理手続や公判審理の中で、検察が提示する事実や証拠、それに対する弁護側の対応によって、「罪証隠滅のおそれ」がないことが明らかになれば、保釈条件の変更の可能性もある。そういう意味では、保釈条件は、被告人にとって決定的な問題ではない。
重要なことは、いかなる保釈条件が付されていても、拘置所での身柄拘束が続くのと、社会内での活動が可能になるのとでは、その拘束の質が決定的に違うということだ。
今回の保釈によって、今後、ゴーン氏の刑事事件の公判対応や、マスコミへの対応、ゴーン氏が関わる企業の経営などに、大きな影響が生じる可能性がある。
第1に、公判前整理手続や公判に向けて、弁護団と十分な準備ができるということだ。言語の違いに加え、関連資料も膨大なため、拘置所での弁護団とゴーン氏との打合せは困難を極めたはずだ。保釈されたことで、検察の開示証拠を踏まえて、効果的で綿密な打合せを行うことが可能となる
第2に、ゴーン氏は、今後、検察や日産側のリークによる夥しい数の「有罪視報道」にくまなく目を通し、弁護士らとともに、事実無根の名誉毀損報道に対して法的措置を講じる準備を始める可能性がある。それは、ゴーン氏事件の報道の流れを変え、これまでの報道で生じた世の中の認識を是正することにつながる可能性がある。
第3に、軽視できないのは、日産自動車・ルノー・三菱自動車の経営に与える影響だ。
ゴーン氏は、日産自動車・ルノー・三菱自動車の3社で会長職は解職されたが、今も取締役の地位にはある。ゴーン氏が、各社の取締役会に出席すれば、これまで全く弁明の機会を与えられず、一方的に「不正」とされている、起訴事実以外の「不正」についての弁明を行うことも(少なくとも、ルノー・三菱自動車においては)可能となり、今後の3社の取締役会での議論に大きな影響を生じる可能性がある。
ゴーン氏の取締役会への出席の可能性
そこで問題となるのが、今回のゴーン氏の保釈条件の中には、事件関係者との接触禁止のほか、日産自動車の取締役会・株主総会への出席には裁判所の許可が必要というのが含まれていることが、ゴーン氏の取締役会への出席にどのように影響するかだ。
まず重要なことは、取締役は株主総会で株主に選任され、会社のために、善管注意義務を果たし、忠実に職務を行う立場だということだ。会社法上、「取締役会への出席義務」は明記されてはいないが、格別の支障がない限り、取締役会に出席することは取締役の義務であると言えよう。ゴーン氏も、格別の支障がない限り、取締役として日産の取締役会に出席するのは当然であり、健康上の理由など出席できない事情がない限り、取締役会に出席すべく裁判所の許可を求めることになるであろう。
ゴーン氏が取締役会への出席の許可を求めた場合、株主に選任された取締役として、職務を行う上で必要と判断して出席を求めているのであるから、裁判所としても「必要性がない」と判断する余地はないだろう。裁判所は、保釈条件の一つである「接触禁止」に違反する可能性があるかどうかによって可否を判断することになると思われる。
保釈条件としての「接触禁止」というのは、起訴事実についての「罪証隠滅」が行われないようにするため、外形的に、その「おそれ」がある場面を作らないようにすることを保釈の条件にするという趣旨だ。
取締役会の出席者のうち西川廣人社長が、金商法違反との関係でゴーン氏が接触を禁止されている「事件関係者」の一人だと考えられるし、他にも「事件関係者」が含まれている可能性がある。問題は、取締役会への出席について「西川氏らとの間での『罪証隠滅のおそれ』があると言えるかどうか」だ。
裁判所は、ゴーン氏が許可を求めた場合、検察官に意見を求めることになる。弁護人側は、ゴーン氏に対する「反逆者」の西川氏を含め、日産関係者に対するゴーン氏の影響力はなくなっており、発言がすべて記録される取締役会への出席による「罪証隠滅のおそれ」は皆無だと主張するだろうが、検察官は、ゴーン氏の取締役会での発言が西川社長らにも影響を与え得ること、ゴーン氏が取締役会に出席していることや発言すること自体が公判立証に影響を与えるなどとして、出席に強く反対するであろう。
ここでの裁判所の判断は、結局のところ、現時点でのゴーン氏の立場について、「推定無罪の原則」を尊重し、株主に選任された取締役としての職務の履行として取締役会に出席することを重視するか、「罪証隠滅」が公判審理に影響を与える可能性を最小化することを重視するかという観点から行われることになり、そこでは、保釈の可否と同様の枠組みでの判断が行われることになる。
ちなみに、前記の美濃加茂市長事件で藤井市長が保釈された直後、保釈条件として副市長を含む多数の市役所職員との接触が禁止されている状況で、藤井市長が、起訴された収賄容疑についての説明を求める市議会に出席できるかどうかが問題になった。しかし、藤井市長は、市議会に出席して、自らが潔白であることなどを、公判での主張に支障を生じない範囲で説明した。その際、藤井市長と副市長とは離れた席に座らせ、直接の話をすることがないよう配慮した。
この市議会への藤井市長の出席は、当然、検察・警察も把握していたが、それが「接触禁止」の保釈条件に反するとして保釈取消請求されることはなかった。
仮に、日産の取締役会への出席が許可されないとしても、ルノーと三菱自動車の取締役会への出席は話が別だ。両社は、本件起訴事実と直接の関係はないのであり、三菱自動車の取締役会への出席、ルノーの取締役会への電話やビデオ会議システムでの出席が制限される理由はないだろう(三菱自動車の日産出身取締役が「事件関係者」に該当する場合には、日産取締役会と同様の問題が生じる。)。
ゴーン氏が、両社の取締役会に出席しようとするかどうかは不明だが、自己の潔白を主張し、会長解職の不当性を訴えるために出席したいと考えた場合には、出席が可能となる可能性が高い。
大鶴弁護士が記者会見で予測していたように「第一回公判まで保釈が許可されない」ということであれば、ゴーン氏は、日産の臨時株主総会で取締役を解任され、ルノー・三菱自動車の定時株主総会で両社の取締役も解任され、3社への影響力を完全に失った後に、ようやく保釈されるということになっていたであろう。
そういう意味で、「検察と戦う弁護士チーム」に一新された弁護団の保釈請求によって、それまで拘置所で検察の支配下に置かれていたゴーン氏の身柄が弁護団の元に奪還されたことが、今後のゴーン氏の検察・日産やマスコミ等に対する「反撃」に、極めて重要な意味を持つことは間違いない。



