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書評:橘玲著『もっと言ってはいけない』〜 IQの高さと社会的成功は正比例?

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『言ってはいけない』シリーズの2作目。

前作が面白かったので期待して読んだのですが、事実誤認も含めて(ある程度は仕方ないとしても)残念なところが目立ちました。

1作目。こちらはたいへん興味深かったです。再度読み直してみましたが、やはりこちらのほうが知的好奇心を刺激されます。

なぜ2作目が残念な結果に終わったのか、私自身の経験も交えながら考えてみたいと思います。

1.学力優秀な人が専門職として成功を収めるのと、真のイノベーターや起業家が成功するプロセスも内容も違うが、どちらも社会的成功とひとくくりにされている。

本書では日本人や中国・韓国人など東アジア系の人々の遺伝子の中に、内向的かつこつこつと勉強するような努力型遺伝子をもつ人が多く、そのためアメリカでは東アジア系の移民やその子孫に弁護士や医師などの高学歴専門職として成功する人が多いとしています。確かにこれは真実でしょうし、加えて「タイガーマザー」など教育に非常に高い価値を置く東アジア文化の影響(環境要因)もあるのでしょう。

いっぽう、世の中に圧倒的なインパクトを与えるイノベーション型の天才には、このような類型に当てはまらない人が少なくありません。アインシュタインは工科大学受験に失敗するほど劣等生でしたし、スティーブ・ジョブズも大学中退。ヴァージン・レコード&航空の創立者のリチャード・ブランソンに至っては、ディスレクシア(難読症)で高校中退です。

確かに高級官僚や高給の専門職には前者のようなタイプが多いかもしれませんが、平均的な人々を凌駕する圧倒的なボリュームのお金や影響力をもつ社会的成功者たちには、むしろ学生時代の学力など関係ない人々のほうが多いのではないかと感じます。

さらに言えば、知的専門職よりも金銭的な成功を達成しやすく、かつそこそこ数が多いのは、中小企業も含めた企業経営者です。私もずっと経営者をしていますのでよくわかりますが、経営者としての成功不可欠条件に学歴は入りません(サラリーマン経営者は別)。もちろん勉強家の方は多いですが、それはあくまで仕事の専門分野に関することで、有名大学入学や狭き門の資格試験に合格するための受験勉強は彼らにとってはまったく無意味なのです。もしどうしてもそのようなスキルが必要であれば、自分で勉強するよりそういう人を雇ったほうがいい、というのが経営者の発想です。

この区別が本書の中ではきちんと整理されておらず、知能が高い→学力が高い→社会的成功、という図式が大前提になっているところが私には一番の疑問でした。

2.そもそも知能テストで測定できるIQとは何か?

私の前職ではスタッフ採用の際の筆記試験に、簡単な敬語や計算能力などをテストする一般教養テストの他、市販の知能テストや性格テストを利用していました。知能テストは、自分でもやってみたことがありますし、20年近くの間に数百人の人たちの試験結果もみてきました。その結果いえるのは、知能テスト≒学習能力が高いかどうかをみるテストだということです。

例えば、2つの文を読んで差異や共通点を探す、とか、立体図形の展開図を選ぶとか、とにかく意識を集中して問題を読み、短時間に機械的に同じ回答作業を繰り返していく、というのが基本。途中で文章の続きを考えてみたり、正解と違う展開図からその形を想像してみたりと余計なことをするとすぐに時間がなくなり、がくんと成績が落ちます。

これはまさしく、詰め込みの受験勉強に対処するやり方と同じで、想像力や創造力はまったく必要とされず、言われた通りに作業を遂行する秀才は選別できても、これまでの常識を打ち破るイノベーションを起こす天才型の才能は決して捕捉できません。

いっぽう、Wikiによると、知能テストの元祖ともいえるビネー法をアメリカで標準化したスタンフォード・ビネー法開発者ルイス・マディソン・ターマンがこの試験を行ったところ、本書で言及されるような人種間による有意な得点差が認められたが、同時に男女間でも差が開き、女児のほうが男児より得点が高かったといいます。

ターマンは男女差はテストの不完全さに起因するとして得点の修正を行ったが、人種間ではただの事実と考えて修正しなかったそうです。まるでどこかの医大の入学試験のようでありますが、真面目なこつこつ型を知能テストによって選抜試験したら、女性のほうが圧倒的に成績がよいというのは、スタッフ採用に常に頭を悩ませている経営者だったらほぼ誰でも異論はないと思います。

では、女性のほうが男性に比べて平均的に頭がいいのか? たいへん残念ですが私はそう思いません。本書で事実とされる人種間の知能格差についても同様です。

男女間の差異という問題について、橘氏は男性のほうがばらつきが多い「標準偏差」が大きい、つまり平均より能力が高い人も低い人も男性のほうが多いという説明をしていますが、ここで紹介されている表を見るかぎり、明らかに平均をとったら女性のほうが知能テストの結果はかなり高くなるはずで、それについてのクリアな説明はありません。

人種間では何ポイント高い、低いというような詳しい説明があるのに、この点の説明が不十分なのは、あえてそこを論点にするのを避けているのではないかと疑います。

3.AI時代に生き残る地頭の良さとは何か?

1で例として挙げた3人に共通する点があります。それは、3人ともADHD(注意欠陥多動性障害)が疑われているということです。

我が家の娘も重度のADHDなのでよくわかるのですが、彼らには自分が興味のないことには集中できないという共通した特徴があります。ですので、このような人たちに上記の知能テストをやらせたらどういう結果になるか、火の目を見るより明らかでしょう。彼らは自分にとってどうでもいいことには全くといっていいほど無関心なのです。

娘の場合、もちろん学校の成績は悪く、テストを受ければ得意の英語でも合格ぎりぎりでそれ以外はすべて赤点。というのも、ほとんどの場合、途中で回答を放棄していて(たぶん何か別のことを考えている)、読解問題に至っては問題文を読んでさえいないらしいのです。

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