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ホームレスが路上販売するビッグイシュー「ボヘミアン・ラプソディ」特集号が異例の増刷 ビッグイシュー発祥の英国に残る階級社会の名残りと貧困の現実

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超ヒット映画「ボヘミアン・ラプソディ」の特集をした、ホームレスが販売する雑誌「ビッグイシュー日本版」351号(1月15日発売)が異例の増刷となり、大きな話題となっている。

表紙には映画でその半生を描かれた英ロックバンド「クイーン」のボーカル、フレディー・マーキュリーがマイクを持つ姿が掲載されている。フレディを演じたラミ・マレックの特別インタビューも入り、増刷後でも売り切れ寸前となっているというのがうなづける。

「ビッグイシュー」の発祥地はイギリスだ。日本では近年、「格差社会」の問題が指摘されているが、上流、中流、労働者階級と言った階級制の名残が強いイギリスはまさに格差社会だ。

ヘンリー英王子と米女優メーガン・マークルさんの夢のような結婚式、そこに招待された世界中の有名人といった光景は確かにイギリスの一部だが、その一方で、食べ物の確保にも苦労する貧困にあえぐ人も少なくない。住む家を失い、野宿せざるを得ない人もいる。

路上生活の厳しさが特に身に応える冬、ホームレスについての痛ましい報道が相次いだ。

野宿者は国内で5000人以上

1月28日夜、英イングランド地方中部ウェストミッドランズ州コベントリーのある公園で、男性2人が野宿中のホームレスの手にライターのガス液を注ぎ、火をつける事件が発生した。ホームレスの男性はやけどを負ったが、実行犯はまだ捕まっていない。

その前日には、同じ州のバーミンガム市で、同じく野宿状態にあった別の男性が亡くなっていることが発見された。死因は公表されていないが、この男性が死んでいることを発見した、同市の「ホームレスを助ける」プロジェクトの担当者は、「この男性に見覚えがある」と述べている(BBCニュース、1月30日付)。冬期の野宿者を助けるため、バーミンガム市は寝袋や温かい食事を配布しており、この男性は過去にそのサービスを利用したことがあったという。

英国家統計局の調べでは、イングランド・ウェールズ地方で2017年に亡くなったホームレスは597人で、2013年の482人から24%増加。死者の平均年齢は男性が44歳、女性が42歳(人口全体での寿命は男性が76歳、女性が81歳)。死因の半分以上が薬物中毒、肝疾患、自殺であった。

この3つの死因は「絶望の病気」とも言われており、国家統計局によると、人口全体でこの部類の死因で亡くなる人は3%だ。 英政府による最新の調査によると、イングランド地方で路上野宿をしていた人の数は昨年秋時点で4677人に上る。前年の同様の調査よりも全体の数では74人減少していたが、ロンドンやイングランド地方中部では増加していた。10年前との比較では3000人以上の増加だ。

北のスコットランド地方や西部ウェールズ地方での数字を入れると、住む場所を失ったために野宿生活者になった人は5000人を超えるとみられている。

しかし、野宿者の数をどうやって数えるかが地方によって異なり、ホームレスを支援する慈善団体は、実際には何倍もの数字になると主張している。

例えば、イングランド地方の場合、毎年10月か11月の特定の日の夜、地方自治体の職員が通りに出てホームレス・野宿者の数を数える。地方自治体によっては、地域の慈善団体が集めた数字を提出したり、農地や森林地域が多い場所では土地が広大なために職員が隅々まで出かけるのは不可能に近かったりする。したがって、公表される数字にはあくまで、「ある日のスナップショット」的な意味合いがあるのだという。

薬物、ケガ…ホームレスたちの声

BBCがバーミンガムの路上生活者の声を拾っている(BBCニュース、1月31日付)。

ジェームズさん(41歳)は、昨年6月から路上で生活している。暴行罪で有罪となり9か月後に出所。アパートに戻ったところ、滞納家賃が5000ポンド(約75万円)に達しており、この金額を払えなかったジェームズさんは家主に追い出された。「昨日の夜、簡易宿泊所に泊まろうと思って出かけてみたら、満室と言われた。床で寝てもいいと言われたが、『それなら外で寝たほうがまし』と思った」という。

29歳のルイスさんは、6年前に家を出された。犯罪行為や薬物吸引に手を染めて、愛想をつかされた格好だ。「人生をめちゃくちゃにしてしまった」。バーミンガム市の職員が温かい飲み物やサンドイッチ店で売れ残ったパンを持ってきてくれるという。

「生活するために、お金が欲しい。9時5時の仕事がしたい。今、休職中なんだ」。コーヒーカップを片手に、BBCの記者に笑顔を見せるルイスさん。しかし、過去の犯罪歴や定まった住所がない状態で仕事は見つかるだろうか、と筆者は心配にならざるを得なかった。

人はなぜ、ホームレスになるのだろうか?

ホームレスを支援する慈善団体「シェルター」のウェブサイトには、いくつもの体験談がつづられている。

突然、住む場所を失いそうになったクリスさん(「シェルター」のウェブサイトから)

何十年も職人として生活してきたクリスさん。ある日、屋根に最後の塗装をしようとしたところ、思いがけず落ちてしまった。首と脳に損傷が発生した。入院後に家に戻ったが、働けなくなったため家賃が払えなくなった。地域の自治体に緊急支援措置の適用を申請したが、却下された。ホームレスになるかと思われたクリスさん。兄がシェルターの存在を知り、自治体と掛け合い、廉価で入れる住居を探してくれた。

クリスさんは幸福な結末となったが、誰もがあっという間にホームレスに転落する可能性がある。

病気、肉親の死、介護の必要性、離婚、人員削減など人生に大きな影響を及ぼす突発的な出来事が発生したとき、住む家があり、仕事があり、家族がいるという安定した環境は激変する。

普段、私たちの多くは深く考えることがないが、「家・住む場所」を失うことによって、人生そのものが崩壊してしまうのである。

人口の2割が貧困 政府の貧困対策は

1990年代初頭のメージャー政権以降、貧困問題の解決はイギリスの政治家にとって大きな課題の一つとなってきた。

英政府は、その年の平均世帯収入の60%未満の収入を得る家庭を「相対的貧困」とし、2010-11年度の平均世帯収入の60%未満の収入を得る家庭を「絶対的貧困」と定義づけている。いずれの場合も、さらに細かく「家賃を払う前」と「家賃を払った後」を分けて分類している。

貧困撲滅のための慈善組織「ジョゼフ・ラウントリー財団(JRF)」の調査によると、2016-17年時点で、イギリスの中で「相対的貧困」(家賃を払った後。以下、同)に分類される人は約1430万人(イギリスの人口は約6000万人で、日本の半分)。これは人口全体の22%に当たる。

約1430万人の中で、820万人が労働年齢にいる成人、410万人が子供、190万人が年金生活者だ。目立つのが子供の貧困者で、過去5年で50万人の増加。子供全体の人口増は同期間では3%だが、貧困児童は15%の伸びとなった。

英政府は、路上野宿をなくすため、今後2年間で1億ポンドを拠出予定だ。このうちの3000万ポンドは路上生活者の心の健康支援や薬物誤用の治療に使われる。ロンドン郊外に簡易宿泊所から次の段階に進むための住居の確保に5000万ポンドが投資される。

これまで英国では、ホームレスに公的な住居が永久的に提供される場合、まず簡易宿泊所かそのほかの一時的住居に住んでいることが必要条件だった。路上にいた人に、すぐに直接住居が提供される道ではなかった。

しかし、フィンランド・ヘルシンキではまさにこれを実行し、大きな成果を上げたことから、イギリスでも政府が2800万ポンドを投入して「ハウジング・ファースト」のパイロット・プログラムを実施中だ。これによって、1000戸が提供される予定だ。

ホームレスを支援する「クライシス」のジョン・スパークスCEOは、対処策3つを挙げている(BBCラジオ4「ブリーフィング・ルーム」、1月31日放送)。「1つ目はすぐに実行できることで、それは福祉手当を厚くすることだ。現状でも地方自治体から低所得者層への家賃援助は出ているが、これは実際の家賃をカバーできていない」

「2つ目は、低家賃の『ソーシャル住宅』をもっと建設すること。現状では、イングランド地方だけでも年間9万3000万戸を建設する必要がある」

「3つ目は、路上生活者やホームレスが生活を改善できた実例を集め、これをほかの人にも実施すること」。

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