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トランプ〝心ここにあらず〟だった?「ロシア・ゲート」米朝会談に大きなカゲ - 樫山幸夫 (産經新聞元論説委員長)

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見せ場に欠けただけでなく、あっけない幕切れの〝政治ショー〟だった。2月27、28の両日行われた第2回米朝首脳会談は成果をもたらすことなく終わった。合意文書への署名も見送られた。決裂に等しいというべきだろう。交渉再開の見通しはたっておらず、実現したとしても、かなり先になる見込みだ。

双方とも体勢の立て直しに時間がかかることに加え、ここにきて米国側に〝不確定要素〟が生じてきたからだ。トランプ大統領の〝ロシア・ゲート〟スキャンダルだ。時あたかも、ハノイ会談の最中、ワシントンでは大統領のスキャンダルについて元顧問弁護士が証言。米朝首脳会談を押しのけてメディアはこれを大々的に報じた。トランプ氏のスキャンダルは、米朝関係に広く、濃くカゲを落とす。

大統領、証言に神経とがらす

ハノイで北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と再び相まみえたトランプ米大統領、心ここにあらず、だったのではないか。関心はキャピトル・ヒル(ワシントンの米議会議事堂がある)地域)に注がれ、視界には金正恩ではなく、政敵、民主党のナンシー・ペロシ下院議長(民主党)の姿が浮かんでいたかもしれない。

首脳会談が唐突に終わったのは、想像をたくましくすれば、コーエン証言で動揺した大統領が不用意な譲歩をするのを恐れた側近が、制裁全面解除という北朝鮮の過大な要求を理由に、打ち切りを進言したのではなかろうか。トランプ氏が会談前、コーエン証言のテレビ放映を注視していたといわれること、会談後の記者会見で議会を強く非難したことからも、大統領が神経質になっていたことがうかがえる。大統領は「重要な会談の日に、このようなウソの証言をさせるとは恐ろしい。2、3日遅らせるか、来週に延期することもできたはずだ」と愚痴っぽい口調も隠さなかった。 

関心を惹いたのは、会談後の3月1日未明、北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相が突然行った記者会見だ。北朝鮮の要求は制裁の一部緩和であって、全面解除ではなかったーと説明するのが目的。その主張をにわかに信じるのは危険としても、米側が北朝鮮の要求を逆手にとって会談を中止したという見方とは平仄が合う。仮定のうえの仮定、あくまでも個人的な推測ではあるが……。

トランプ氏は「ペテン師、詐欺師」

米下院での元顧問弁護士、マイケル・コーエン氏の証言は7時間の長丁場に及んだ。氏は袂を分かったトランプ大統領にまつわる疑惑について詳細に語った。

2016年の大統領選で対立候補のヒラリー・クリントン氏(民主党)陣営の電子メールが大量に暴露されたことについてコーエン氏は、大統領が事前にこのことを知っていたと証言した。ロシアがサイバー攻撃で入手したといわれるこれらメールはクリントン陣営に不利になる内容で、トランプ大統領はこれまで、知らなかったと主張しており、コーエン証言と真っ向から対立する。

トランプ氏とロシア側が共謀した証拠はないとしながらも、氏の長男が16年6月、クリントン陣営への不利な情報に関してロシア側と接触した際、親子の間で打ち合がなされていたことも明らかになった。

不倫相手だった元ポルノ女優にトランプ氏が〝口止め料〟として1400万円を支払った際、コーエン氏はトランプ氏の要請で一時、立て替えたことをあらためて認め、弁済された際のトランプ氏のサイン入り小切手を証拠として提出した。選挙中のこうした資金の支出は選挙法に抵触するため、トランプ氏は発覚を避ける目的で替えを要請したとみられる。

コーエン氏はトランプ氏の指示で個人や団体への「脅迫」を繰り返してきたと驚くべき告白をし、その回数は「500回」にものぼるという。トランプ氏についてコーエン氏は、「人種差別主義者でペテン師、詐欺師」と口を極めて非難した。

トランプ疑惑については、ミュラー特別検察官が近く捜査報告書を議会に提出する予定といわれ、このなかで、大統領の違法行為関与が明らかになれば、民主党は弾劾訴追へ動きを強めるだろう。

金正恩は交渉への意欲失う?

ハノイでの会談に話を戻す。交渉が物別れに終わった経緯については、すでに繰り返し報じられているので立ち入るのは避ける。問題解決へ進展をみなかったのは残念としても、トランプ大統領が安易な譲歩をするのでは、という当初の懸念が解消されたことは歓迎すべきだろう。

国務省で北朝鮮との交渉に当たったエバンズ・リビア元次官補代理は3月2日付けの産経新聞で、譲歩せず席を立った判断を「賢明」と評価。1994年の「枠組み合意」の米側首席代表、ロバート・ガルーチ氏も同様の見解を示している(3月1日のABCニュース)。

ハノイ会談の物別れで事態は膠着状態に陥ると予想される。それを打開できるかどうかは、北朝鮮が今回表明した寧辺周辺に加え、ウラン濃縮を含む他の施設について、どの程度、廃棄、凍結に応じてくるか、それを米国がどう評価するかにかかってくる。

トランプ大統領は第3回会談の見通しについては明言を避けているが、ポンペオ国務長官はきびしい見方を隠していない。気になるのは、李容告外相の会見に同席した崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官の発言だ。崔女史は、「金正恩委員長は米国の損得勘定について理解に苦しんでいるようにみえた」「委員長が今後米朝交渉への意欲を失うのではないか、という印象を受けた」と述べた。

独裁国家で、外務次官ごときが最高指導者の胸の内を忖度、公言すること自体驚きだが、金正恩の指示を受けての発言としたら、第3回会談の早期開催の可能性は遠のく。一度失われたモメンタムは回復するのが難しい。今回、米国も北朝鮮ともに、得たものはなかった代わりに失ったものもなかった。失地回復の必要がないとすれば、このことも次回首脳会談を不透明なものにするだろう。

疑惑の展開では米の内政は大混乱

米朝双方は実務者協議で話し合いを継続する構えだが、トランプ大統領にまつわる疑惑が今後どういう展開をたどるかは、事態を左右する大きな要素になってきた。

コーエン証言は主観が少なくなく、客観的な物証にも乏しく、これだけでは弾劾など、とうてい実現し得ないが、特別検察官による捜査報告とも相まって、弾劾訴追に向けた動き、議論が高まる可能性は十分にある。そうなれば、米国の内政は混乱、大統領は防戦に追われて、北朝鮮の核問題解決に費やす時間とエネルギーは大きく失われるだろう。

1972年に発覚したウォーターゲート事件では、ニクソン大統領がベトナム戦争終結に努力を傾注、国民の関心を逸らそうとしたが効果なく、1974年に下院司法委員会で弾劾訴追が決まったのを機に、「もはやこれまで」と辞職を表明した。

ハノイ会談が最後の首脳協議?

大統領選は来年秋に迫っている。今秋から出馬予定者の運動が本格化し、来年の年明け早々、各州で候補者選びの予備選・党員集会が始まる。選挙の結果次第で北朝鮮は新政権との間で、あらためて交渉を始めなければならない。選挙前に大きな決断、譲歩をするにはリスクが伴う。膠着状態が長く続くほど慎重にならざるを得ないだろう。 

ハノイ会談がトランプ氏と金正恩による最後の会談になるのか。トランプ疑惑の今後の展開にかかっている。

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