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秋吉 健のArcaic Singularity:技術革新とコモディティ化のジレンマ。フォルダブルスマホのトレンドからテクノロジー企業に求められる資質について考える【コラム】


フォルダブルスマホの登場からテクノロジー企業のあるべき姿を考えてみた!

今年に入り、モバイル業界界隈で「フォルダブルスマホ」という新しい言葉が頻繁に聞かれるようになりました。聞き慣れないフォルダブルという英単語について辞書を引いてみると、「折りたたんで収納できる」という意味だそうです。つまり、フォルダブルスマホとは「折りたたみスマートフォン(スマホ)」のことです。

すぐに「なんて略せばいいんだろうか……フォルスマ?フォルホ?フォマホ?」などと考えてしまうのは筆者の悪い癖ですが、それはさて置き。2月25日から28日までスペイン・バルセロナにて開催された、モバイル端末の総合展示会「MWC Barcelona 2019」(旧「Mobile World Congress」)では、サムスン電子やファーウェイがフォルダブルスマホを発表したことが大きな話題を呼びました。

素人考えでは「スマホを折りたたむ必要ってあるの?」などと考えがちですが、実はここにもテクノロジー企業が業界で生き残り、リーディングカンパニーとしてのブランドを確立するために必要な、様々な要因と思惑があるのです。

感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回はフォルダブルスマホの存在意義や目的などを考察します。

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フォルダブルスマホの登場が意味するものとは

■OLEDが可能にした未来のディスプレイ技術

市販された(もしくは市販予定の)折りたたみ式スマホは、今回MWC Barcelona 2019で発表されたサムスン電子製「Galaxy Fold」やファーウェイ製「HUAWEI Mate X」が初ではありません。歴史を紐解けばNEC製の「MEDIAS W N-05E」がNTTドコモより2013年4月に発売され、さらにZTE製の「M Z-01K」もNTTドコモから2018年2月に発売されています。

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当時大きな話題を呼んだ「MEDIAS W N-05E」

しかし今回のフォルダブルスマホの大きな特徴は、単に折りたためることではありません。画面に折りたたむヒンジ部の隙間がない、1枚の繋がったディスプレイであるということです。

ディスプレイを折り曲げてスマホサイズとタブレットサイズを両立させる、という離れ業を可能にした技術は有機EL(OLED)ディスプレイです。OLEDは液晶と違い、画素自体が発光するためバックライトを必要としません。そのためディスプレイ素材を柔らかなフィルムで構成することが容易なため、折り曲げたり巻き取ったりできるディスプレイを製造できるのです。

巻取り式のOLEDディスプレイと言えば、LGエレクトロニクスが今年1月に巻取り収納が可能なテレビ「LG Signatures OLED TV R」を発表し、こちらも大きな反響を呼びました。OLEDは単に四角形以外の自由な形に整形しやすいだけではなく、このように変形させることもまた得意なディスプレイ素材なのです。


LG SIGNATURE OLED Rollable TV Lifestyle
動画リンク:https://youtu.be/br9yftCP9Mg

■フォルダブルスマホに需要はあるか

技術的な要素や可能性は理解できたとしても、問題は「需要」です。

かつてNTTドコモがMEDIAS Wを発売した際、それは間違いなく奇異の目でしか見られていませんでした。発表会にいた記者たちからは「キワモノガジェット」と呼ばれ、発売後も「技術はすごいけど別にいらない……」と大衆の反応は冷ややかで、正直あまり売れませんでした。

その後2018年に登場したMでも人々の反応はほぼ同様で、いわゆる売れ筋からは程遠い販売数です。

フォルダブルスマホのメリットは、たためばコンパクトなスマホとして、開けば大きな画面のタブレットとして活用できる点にあります。しかしその変形ギミックの構造上、スマホとしてはかなり厚く重い端末となってしまいます。

また価格が高額化する点もネックです。Galaxy Foldでは1,980ドル(約219,000円)、HUAWEI Mate Xに至っては2,299ユーロ(約289,000円)と、超高額スマホとしてネタにすらされたiPhone XS Maxが霞んで見えるほどの超高級端末です。

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スマホとタブレットの2台持ちよりも高額になる可能性も

このような超高級フォルダブルスマホに飛びつくような購買層が、先端技術や最新技術を真っ先に試してみたいというイノベーター層であることは想像に難くありませんが、その層へ訴求する商品が利益を上げることはほぼありません。半ば技術の実証実験であり、実際に製品が作り出せるという証明をしたに過ぎません。

しかし、その証明こそがテクノロジー企業には必要なのです。

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モバイルクラスターのイノベーター層にとって、現在のフォルダブルスマホは所持すること自体がステータスに近い

■それでも技術革新は続けなければいけない

テクノロジー企業にとって、新技術の開発や商品化は命綱とも呼べます。商品は大量生産による低コスト化が進まなければ売れることはありませんが、その大量生産によって技術は急速にコモディティ化され、瞬く間に陳腐化されます。つまり技術と普及には強いジレンマの関係があるのです。

だからこそ、テクノロジー企業は新技術を生み出し続ける必要があります。新技術や新たな商品アイデアを世に送り出せなくなった企業の進む先は凋落のみです。たとえ最新技術を投入した商品が途方もない超高額だったとしても、それが生産ラインに乗って製造されて世に出た、という事実が何よりも重要だからです。

新技術を生み出し、それを世に出せる企業力(≒資金力やマーケティング力)こそが、市場を牽引するテクノロジー企業に課せられた至上命題と言っても良いでしょう。

逆に言えば、そういった新技術の披露を行うことこそが、「やあやあ我こそはリーディングカンパニー也」と市場へ宣言していることと同義なのです。

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常にチャレンジャーであり続けることがトップ企業の証明となる

旭化成の元会長、宮崎輝氏は、かつてこう述べたそうです。
「企業は実力の範囲内で健全な赤字部門を持たなくてはいけない。」
営利企業である以上、利益を生まない部門など切り捨てるのが当然です。新技術の開発そのものは全く利益を生みません。しかしそれでも尚その部門がその企業の実力や目標に見合ったものであると考えるなら、赤字であっても持ち続けるべきなのです。

また、結果として赤字となった部門を持ち続けることと、始めから赤字を覚悟して持ち続けているのでは意味合いが全く異なります。敢えて赤字で良いと割り切って投資し続ける。それが業界を牽引するテクノロジー企業の自負や気概とも言えます。

韓国や中国の企業が相次いでフォルダブルスマホを世に送り出すのを横目で見ながら、果たして今の日本企業に健全な赤字部門を持てている企業がどれほどあるだろうかと考えざるを得ません。

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赤字の続くソニーのXperia部門の行方も気になる

記事執筆:秋吉 健

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