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深刻化する米中対立の行方と日本の立ち位置

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今後の行方はどうなる  ――中国の世界観の限界

 各氏が米中対立の本質をそれぞれ指摘する中、工藤は米中対立の今後の展開を厳しく問い直しました。「現状は中国がどう変わるかにボールが移っているが、皆さんは妥協が成立すると見ているのか、世界は分裂するしかないのか。貿易摩擦の影響が昨年末から出ているが、対立が激しくなると世界の経済システムのリスクに繋がりかねない」と、各パネリストに問い掛けました。

 「中国が今の体制を変えることはない」と言うのは三浦氏。「知的財産権でも、中国はできる範囲で努力はしている。中国が発展する権利を放棄することはないので、米国の危機感は募り、問題は長期化するしかない」だろうとの見解を示しました。一方で、「中国が体制を変える気がなくても、中国共産党のトップを年配者が占める中で、若い人たちとは、世界に対する価値観が通じ合える印象がある。長い目で見れば、そういう人々が政府を担う段階になった時に、体制のことを考え直してみる可能性はある」との希望を示すものの、現段階では判断はつかないと語りました。

 「どこに行くのか、どう落ち着くのか全く想像がつかない」と言うのは西氏です。「中国が培ってきた社会観、世界観と言えるのは、東アジアにおける中国の支配的な世界観であって、西欧を含めたグローバルなイメージまで発展するのは無理、そこに中国の世界観の限界が出てくる。そこをどう乗り越えるか、若い人たちが突破するものを見つけるのか、見つけられなければ混迷の時代に入るのか、わからない」と西氏は、これまで中国人と接触してきた感触から語ります。

国家のてこ入れはアンフェア

 山﨑氏は、「中国は国家主導で国有企業を中心に産業を発展させてきたが、途上国ではやむを得ないとしても、世界のトップクラスの経済レベルで、補助金など国家のてこ入れによる経済の育成をやると、自由な資本ルールで動いている時にフェアではない。ここが問題の本質であり、追及すべき問題で、安全保障は別の次元のもの」と答えます。

 西氏と同様に、「中国のイデオロギー、世界観がまだわからない」と首をひねるのは宮本氏です。「欧米は中国とのイデオロギーの対立と言うが、果たしてその前提は正しいのか」と指摘した上で、仮に、中国に世界観があって、世界中に広げようとして、ついてくる国があるのか、と疑問を投げかけます。さらに、「中国の国内をそのまま国際社会に置き換えて、誰がついてくるのか。全ての国が反対し、中国が国内でやっている普遍的なものはゼロになる可能性がある」と語り、中国を人一倍知る宮本氏からも中国の世界観は見通せないとの見解が語られました。

 もっとも宮本氏は、中国の変化の可能性についても言及。「共産党の一党指導体制でなければ中国のシステムは動かせないからこれまでそうしてきたが、米中衝突によって『この仕組みはおかしいのではないか』という声は中国内部からも出てきている」と内からの変革の可能性を指摘。また、米国側の視点として「ペンス演説でも、『改革開放の精神に戻り、自由や政治的権利を尊重するようになれば米国も中国を歓迎する』と言っている。共産党の統治そのものを否定しているわけではない」とし、中国が西側世界に入るためのドアは常に開かれていると語りました。

 これらの議論を受け、工藤は最後に、日本がとるべき立ち位置について、各氏の見解を問いました。



今、日本は何をすべきなのか

 三浦氏は、既存のルールに歪みがあるのも事実であるため、それを修正するための議論に中国を引き込むべきと主張。中国も既存のルール全てに反対しているわけではないため、歩み寄りの余地はあるとし、日本は中国を議論に招き入れるための努力をすべきと語りました。

 山﨑氏も、米国がマルチでのルールづくりに背を向ける現状では、日本が音頭を取ってルールづくりを主導すべきと主張。そこでは「バイの交渉で米国に攻め続けられるよりはマルチの枠組みに入った方が得だ」と中国に思わせることがポイントになるとし、それができれば中国は自然と国際協調的になってくるだろう、と語りました。

 こうした議論を受けて西氏は、「問題は中国がルールづくりに乗って来ない場合のサンクションをどうするか」と問題提起。続けて、IMFが2016年に人民元を特別引出権バスケットに採用したことを振り返り、これを「西側の中国に対しておべっかを使ったものであり、異様なこと」などと断じ、こうした甘い対応をもうするべきではないと主張。それと同時に、「(甘い対応を)しなかったら中国はどうするのか。それはまだ未知数であり、一つずつ試していくしかない」とし、日本にとっても手探りの状況は続くとの認識を示しました。

 一方藤崎氏は、中国に国際ルールを遵守するように求めたとしても、その先導者だった米国自身がルールを軽視している現状では説得力に欠ける、と述べると同時に、米国がそういう状態の中ではルールの抜本的な見直しは難しいと指摘。したがって日本としてもルールが揺らいでいるからといって焦って着手するのではなく、「時間をかけて取り組むべき」と注意を促しました。

 五百籏頭氏は政治外交史の観点から提言しました。米中対立が米中戦争に発展するという事態は言うまでもなく日本にとって最悪の状況であるとした上で、かつて第2次世界大戦後の世界秩序を構想する上でイギリスが果たした役割を紹介。すでに昔日の大英帝国の面影はない「斜陽のイギリス」であったものの、米ソ間の調整役として重要な役割を果たしたと回顧し、現在の日本も米中の間に入って当時のイギリスと同様の役割を果たし得ると主張。安倍政権の安定性は世界では高く評価されているとした上で、これを強みとして積極的に調整役として乗り出していくべきだ、と提言しました。

 宮本氏は、経済構造の抜本的な改革なくして中国の明るい将来はない、との見方は多くのエコノミストの衆目の一致するところであり、WTOをはじめとする国際機関が中国に求める改革案もそうした問題意識に基づいていると指摘。同時に、中国国内にもこうした見方に共鳴する人は多いことを改めて紹介しつつ、「それが中国を内側から転換する力になり得る」と期待を寄せました。
さらに宮本氏は、西氏と同様の視点からこれまでの中国へのエンゲージ戦略が失敗したのは「飴だけのエンゲージ」だったからと分析しつつ、今は「トランプ氏による鞭も入った」状態であり、新たなエンゲージによる局面打開の好機であると主張。そこでの日本が果たすべき役割としては、米国に鞭を振るわせながら、中国をあるべき方向に誘導していくことである、と語りました。

 議論を受けて最後に工藤は、現在の状況はリベラル秩序を新しいバージョンにアップデートさせるための好機であるとの認識を示しつつ、そのための流れを3月3日の「東京会議2019」からつくり出したいと意気込みを語り、3回にわたるプレフォーラムを締めくくりました。

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