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萩本欽一"若くいる秘訣は気づかないこと"

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急増していく高齢者。不安視されるのが「生きがい」の喪失だ。しかし萩本欽一氏は70歳を超えて大学入学。キャンパスライフを謳歌している。どうすれば人生の後半戦を楽しく過ごせるのか? 小池百合子東京都知事と語り合った。

■欽ちゃんが大学に入学した理由

【小池】萩本さん……いや、欽ちゃんと呼んでもいいのかしら?

(左)東京都知事 小池百合子氏(右)コメディアン 萩本欽一氏(Getty Images=写真)

【萩本】もちろん。欽ちゃんと呼んでもらえたほうが僕は嬉しいんですよ。

【小池】(笑)。じゃあ、改めて、欽ちゃん。今は駒澤大学に通っていらっしゃるんですよね。

【萩本】そうです。こう見えて、大学4年生ですから。

【小池】どうして今になって大学に行こうと思ったんですか?

【萩本】70歳になって、いよいよ爺さんになってくるなと思ったとき、どういう人生を送ろうか、改めて考えたんです。年を取ったら、だんだん自分の仲間もいなくなっていくでしょ。ちょうど同じころに東日本大震災もあって、「明日会える人がいるということが、人にとっての大きな幸せなんだ」という思いを抱きましてね。

【小池】それは本当にそうですね。

【萩本】でも、ぼくのようなおじさんが、明日も会える人がいる人生ってどんなものだろう? そう考えていたら、ずいぶん前、野球解説者の中畑清さんに呼ばれて駒澤大学で講演をしたことを思い出したんですよ。そのとき、大学のスタッフに冗談で「この大学、来ちゃおうかな」と口約束をしちゃったの。70歳になったころにそのことを思い出して、大学生になってみようかなあ、とふと考え始めたんです。

2019年4月に開講する「プレミアム・カレッジ」の概要を説明する小池都知事。それに対して現場を知る欽ちゃんが述べた感想を、興味深く聞き入っていた。

【小池】受験勉強はなさったんですか?

【萩本】知り合いに予備校の先生がいて、家に教えに来てもらいました。「先生の教え方が悪いから、なかなか覚えられない」なんて注意しながら勉強に打ち込むと、すごくはかどることがわかった(笑)。

【小池】大学に入られてから、授業にはどれぐらいの頻度で出ているんですか。

【萩本】授業は休んだことがほとんどありません。タクシーで通っているんだけれど、以前に運転手さんがぼくに気づかず、「欽ちゃんは来ているかい?」と聞いてきたことがありました(笑)。「来ているよ」と言ったら、「へえ、遊びじゃないんだねえ」と驚いていましたよ。賑やかしで大学に行くのは嫌だし、みんなへの裏切りになるから、授業は一切休まないんです。

【小池】それは立派!

【萩本】この前嬉しかったのが、野球を観にいったら、窓口で「学生料金ですね?」と聞かれたんです。これまでは「シニア料金」を払ってましたから。

【小池】窓口の方は欽ちゃんが大学生だって知っていたんですね。

【萩本】そうなんですよ。まあ、その話をテレビ局のプロデューサーにしたら、「これからギャラもシニア料金ではなく学生料金でいいですか?」なんて言うふざけた奴もいたけれど(笑)。

■名刺がないと自分を証明できない?

【小池】実は東京都でも今度、首都大学東京に「プレミアム・カレッジ」というコースをつくるんです。だから、今日はぜひ欽ちゃんにお話を聞きたかったんですよ。

2015年4月、約2000人の新入生とともに、駒澤大学の入学式に出席した欽ちゃん。学生との記念撮影にも気さくに応じた。(時事=写真)

【萩本】プレミアム・カレッジ――。何だか舌を噛みそうな名前だなァ。

【小池】あまりシニアとか高齢者とかつけるとどうかなと思いまして……。変えたほうがいいかしら(笑)。「100歳まで学べる」というコースなんです。

【萩本】それはまた、どうしてそういうコースをつくろうと思ったんですか?

【小池】ある人から「日本の男性のアイデンティティは、スーツとネクタイと名刺です」と言われたことがあったんですよ。定年を迎えてそれらがなくなると、誰かに会っても名刺を渡せないし、自分の社会的な立場を証明できない。それで「居場所がない」と不安になる人たちが多いそうなんです。

【萩本】ぼくは名刺なんて持ったことがないからなァ。でも、長いあいだ、サラリーマンとして働いてきた人たちは、そういう気持ちになるのかもしれない。

【小池】肩書がなくなった途端、急にエンジンが切れたみたいになって、喪失感を抱く社会というのは寂しいじゃないですか。それなら、欽ちゃんみたいに大学に行き直してみてはどうかなと。

【萩本】学生証があって、居場所があって、人との出会いもある。これほどいい場所はないですよ。

【小池】1度、社会人になった方が大学に戻って学び直し、再び社会に出て仕事をする「リカレント教育」という考え方があるんです。そうやって生涯にわたって学び、働いていく新しいサイクルを進めていく。駒澤大学で学ぶ欽ちゃんは、その素晴らしいモデルの1つだと思います。

【萩本】ぼくも大学に行って学ぶことを、自分のテレビの仕事にもぜひ生かしたいと考えているんですよ。今、仏教学科に通っていて、仏教の中にあるたくさんの「良い言葉」を学べば、自分のお笑いのアドリブやセリフにも新しい何かが生まれる気がするので。

■セーフティネットとして大学をつくる

【小池】日本では65歳以上の方を高齢者と呼びますが、今、国の高齢化率は27.7%。4人に1人が高齢者なんですね。

【萩本】東京でもお年寄りがどんどん増えてきていますよ。

【小池】ええ。東京の高齢化率はまだ23%で全国より低いんです。だからといって若い人が多いわけではありません。むしろ、これから戦後のベビーブームの世代が一気に75歳を超えてくるのが2025年に迫っています。

【萩本】それがオリンピックの5年後の東京の姿なのか。

【小池】年齢って、嘘をつきませんからね、私もよく38歳だと言い張ってるんですけど(笑)。

【萩本】知事の見た目なら38歳でもいけると思いますよ。

【小池】ありがとうございます。でも心理学者によると、出まかせの数字を言うときは3と8の数字が入るそうですよ(笑)。冗談はさておき、超高齢社会の到来は避けられない事実です。だから、東京都でも医療や介護の不安をどうするのかが大きな課題で、さまざまなセーフティネットをつくっていかなければなりません。そのなかで私が大事だと思っているのが、お年寄り自身に居場所や「社会から求められているんだ」という実感を持ってもらうこと。その中でさまざまな活躍をしていただくことなんです。そのために都はいろいろなサポートをしてまいりますが、「プレミアム・カレッジ」はその重要な試みの1つなんです。

【萩本】病院や老人ホームをつくるのと同じように、大学をつくるというのは面白いですね。

【小池】最近、大企業の技術者の方がリタイアした後、アジアの企業から「知識を提供してほしい」と退職金の何倍ものお金で雇われる事例も多いんです。せっかくの知識や経験を、日本のために生かしてもらえたら、なお素晴らしい。だから、こうした大学での試みと合わせて、技術や知識を持つ方々の起業支援も行っていきたいんですよ。

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