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貧困若者の「プライド」に語りかける

■「貧困」に伴う事件

児童養護施設の施設長が刺殺され、その容疑で逮捕された同施設出身の青年について、ネットでもさまざまな記事が書かれ始めた。

たとえばこの記事(児童養護施設長を刺殺した青年は、なぜ「大人」になり切れなかったかなどは、現時点での少ない情報の中から問題を一般化し、18才以降のアフターケアがわが国では皆無な点など問題を深く論じている。

同じ筆者が書いたこの記事(貧困に殺された九大オーバードクターはなぜ生活保護に頼らなかったか)では、46才のオーバードクターの非業な死について報告・論じている。

いずれも個々のケースにおいては単独的で複雑な事情があるだろう。

が、両者やそれ以外の「貧困」に伴う事件全般に共通すると僕が感じるのは、当事者の「プライドと孤独」という問題だ。

情報としては、当事者のほとんどは「生活保護」という言葉を知っていただろう。9ヵ月の家賃補助や住宅の初期資金の貸付制度までは知らないかもしれないが、資金的な支援(エグい奨学金ではなく社協等からの福祉的援助)は完全ではないものの存在はする。

■現実には「知らない」

けれども実際は、上記事のライター氏が書くようには、知識としての「生活保護」と現実に自分が受け取る可能性がある「生活保護」のおカネはすぐにはつながらない。

自分は困窮している。が、この困窮をしのぐ方策として「生活保護」制度があり、そのおカネを実際に使ってもいい権利と資格が自分にはあるということにまで想像力が及ばない。ややこしくはあるが役所に行っていくつかの手続きをすると、実際に10万円といくらかをゲットすることができ、その10数万円でその月を乗り切り、身体の調子が悪ければ無料で病院が利用できることを(知識としてはどこかで聞いたことがあるものの)そのことが自分とはつながらない。

つまり、現実には「知らない」。

知らないというよりは、自分とは関係のないものだと最初からシャットダウンしている。

その雰囲気に飲まれてしまい、支援者のほうも、実は生活保護制度とその当事者を結びつけることを忘れていたりする。あるいは生活保護をその当事者に提示したいのだが、当事者のナイーブさと、同時にもつ独特の「明るさ」や笑顔に押し切られて、生活保護の提示がどうしても後回しになる。

もう少しアルバイトをがんばれば、あと数万円上積みして稼げば、生活保護程度の収入を得ることはできる。だからもう少しがんばってみよう。あるいは違うバイト先を探そう。あるいはセカンドワークしよう。

当事者とともに、支援者も同じ次元のなかで、自助努力の限界を模索する。

■生活保護は「悪いもの」?

この、生活保護の提案が後回しになる、あるいはタブー化してしまう背景には、貧困当事者が抱く「プライド」の問題が大きいと僕は思っている。

生活保護は最強のセーフティーネットであるにもかかわらず、わが国では何か「悪いもの」のように扱われ、それを利用することは「人生の敗北者」であるというような社会通念が定着しているように僕には感じられる。

支給側(国・自治体)によるネガティブキャンペーンや「水際作戦」もその社会通念の形成を担っているだろうが、人々が内面化する価値の一つとして「生活保護は負け」的価値が深く深く浸透していると思う。

ここに、貧困当事者の独特の感覚と価値がくっついている。いくら経済的に苦しくなっても「セイホを受けてしまったら完全な負け」的価値が当事者を覆う。この「負けるのがいや」という感覚を言い換えると、

プライド、ということになる。

プライドは個人の尊厳につながり、また児童虐待被害者は自己尊重できないため、プライドの確立は虐待サバイバー支援には必須の要件だと思う。

けれども、支援も受けながらなんとか確立したそのプライドが、「生活保護」受給への決断を邪魔する。

誰もが日々の生活費や家賃はほしい。けれども、その生活するための最低限のおカネを「タダで」もらってしまっては、自分は終わるんじゃないか。

あるいは、生活保護を受給しつつそれをギャンブルに使い、同時に自分を虐待していたあの親たち(義理親含)と結局は同じ存在になってしまう。セイカツホゴということばは、そうした日々と直結している。

そうした複雑な気持ちは誰からもたぶん理解されないだろうと、勝手に当事者は思う。そして、その複雑な気持ちを抱え込み、孤独に日々を過ごす。

■「居場所の支援者」

この硬さ/リジットさと、その孤独感を溶解させるものは、結局はこの問題に理解ある「他者たち」の粘り強い言葉しかないのかな、と僕は思う。

その理解ある「他者」は、やはり身近な支援者、具体的にはざっくばらんにいろいろ語ることのできる「居場所の支援者」ではないだろうか。たとえば、「高校内居場所カフェ」で出会った、あの変な大人たちのような。

この当事者には生活保護が必要だとやっと気づくことのできた身近な支援者が、粘り強く「いま生活保護を受ける意味」について語り、それは受給者の尊厳を傷つけることではないということを、静かに語りかけ、そしてその語りかけを粘り強く続けていく。

それは数ヶ月以上にわたる語りかけかもしれないが、信頼/trustの上で響く静かなことばは徐々に貧困当事者/虐待サバイバー/アフターケア当事者のプライドを少しずつ丸いものに変えていくようだ。

そして、丸くなったプライドと、少しだけ開きかけた孤独感を抱えながらも、貧困当事者の若者たちは、その「変な大人」支援者とともに、役所の生活支援課(たとえば大阪市)の窓口に立つ。

僕はそんな感じで支援する。

※Yahoo!ニュースからの転載

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