記事

ヒッチハイク中学生と「美人は辛いよ」炎上に見る、数字の奴隷となった人たち - 網尾歩 (コラムニスト)

中身のないインフルエンサーに価値が付与され続けるSNSバブルの時代。


(CASEZY/iStock/Getty Images Plus)

「たくさんの人に勇気や夢を与えたい!!」

先日、「ヒッチハイク中学生」がツイッター上の大きな話題となった。国内をヒッチハイクしてまわった中学生(15歳の少年)が、今度は同じ手段でアメリカを横断すると宣言。すぐに「無謀だ」といった意見が多く寄せられ、実際に彼はその後数日で未成年であることを理由に保護され、保護者の迎えによって日本に帰国している。

中学生が批判されたのは、事前準備の少ない無謀な旅のように見えたことに加え、「1000RTで#裸足でアメリカ横断します」「1いいねにつき10分間靴を履くことができます」など、ツイッターのRT数やインスタグラムの「いいね」数を稼ぐために安全を切り売りするような投稿を重ねていたことだった。

根は素直な少年らしく、アメリカ横断が失敗に終わりツイッター上で炎上したことについても自分なりに分析している。彼は炎上の理由について「中学生という若さによる心配」「アメリカ、ヒッチハイクの危険さ」「無計画による心配」「親はどうなっているんだ系」の4点をツイートしているが、それに加えてツイッターおじさんやツイッターおばさんがイラッとしたのは、アメリカ横断の理由を「同世代に限らず、たくさんの人に勇気や夢を与えたい!!」とツイートしてしまう自意識のぶん回し行為だろう。

見てみて、オレオレ!すごいでしょ!……すごくない? 多くの大人が、程度の差はあれど一度や二度はそうやって自意識を振り回し失敗したことがある。当時ツイッターやインスタグラムが存在しなかったのが幸いだと感じている大人は少なくないはずだ。ヒッチハイク中学生は、痛い青春の記憶を蘇らせる存在でもあった。

SNSで肥大化する自意識

さて、この中学生に優しい苦言を呈したのがAV女優の戸田真琴さんだった。彼女は「SNSで死なないで」(https://note.mu/toda_makoto/n/n71be988f6b05)というタイトルで2月16日にブログを更新している。

ヒッチハイク中学生のプロフィールが、いわゆるインフルエンサーと呼ばれる人たちや最近話題のオンラインサロン運営者のそれと酷似していることを指摘。中身が見えず、ただ「注目されたい」「有名になりたい」欲が勝っているように見えることをズバリと刺している。

そうなのだ。「何でもいいから情熱大陸に出たい」系の人は昔からいた。10年ほど前まではせいぜい身近な人に対して自意識を振り回すぐらいですんでいた「何者かになりたい人たち」が、SNSを通じて可視化される社会になっている。

戸田さんは、SNSで大成功を収めた有名人ももちろんいるし、だからこそ夢を持つ人も多いのだろうと続ける。そして、

「だけれど、どうしてネットの世界ではそんなにみんな『特別』になりたがっているのだろう?」
と続ける。

「フォロワーぜんぜんいなくても、友達ぜんぜんいなくても、町中でだれもあなたのことを知らなくても、いいねが一個もつかなくても、そんなことは、どうでもいい。あなた自身の価値は、あなた自身とあなたが大切にしている人たちだけの中で柔らかく、情けたっぷりに愛情加点たっぷりにくだされるべきもので、それ以外は、べつにどうと思わなくていい。あなた自身の評価は、人生が終わった後にやっともらうくらいで丁度いい」(「SNSで死なないで」より)

乾いた中年の心に染み渡る、清廉なひとしずくのごとき文章だ。これがヒッチハイク中学生にも響けばいいが、このような文章の価値に気づくのは、自分が子どもとして愛され保護されていた時期があることを振り返れるようになってからなのかもしれないとも思う。

ZOZO田端氏「おーい、ブスども聞いてるか?」

数字で可視化されることの意味は現代人にとって刺激が強い。フォロワーの数をいったん気にし始めたら、その指標から逃れることはなかなか難しい。

ヒッチハイク中学生騒動の少しあとに、「美人は辛いよ」炎上があった。これは、元外資系金融社員の女性が全身写真とともに「美人は辛いよ」などとツイートしたもの。彼女のツイートは何気ないものだったが、これをZOZOのコミュニケーションデザイン室長・田端信太郎氏(フォロワー数約19万8000人)が引用し「おーい、ブスども聞いてるか? 美人の告白ポエムだぞ!」と煽りツイートしたことで炎上。

今年からスタートしたばかりの女性のアカウントのフォロワー数は急増したが、炎上後にアカウント自体が削除されてしまった。実は、田端氏のツイートはもともと計算されたもの。女性が現在役員を務めるPR会社社長の過去ツイートから、女性を「インフルエンサーとして育てる会議」が行われ、田端氏がメンターに就任していたことが明らかになっている。この社長のツイートは「働く強い女のリアルを呟き続けるよ。乞うご期待!!年内に3万フォロワー目指します!!」といたって無邪気だ。

大人でさえ、こうやって数を数えることに夢中になる。子どもにこの遊びに気づくなと言う方が難しいだろう。「SNSで死なないで」の文章は、自分の価値を人の指標に委ねるのはとびきりダサいことだと教えてくれるのだが、目の前にあるバブルしか見えていない大人たちは、まだ踊ることをやめられないでいる。バブルはいつ弾けるだろうか。

あわせて読みたい

「炎上」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    埼玉県でマスク30万枚が野ざらし

    SmartFLASH

  2. 2

    中韓が日本産盗む?対立煽る報道

    松岡久蔵

  3. 3

    コロナにゲイツ氏「100年に1度」

    ロイター

  4. 4

    よしのり氏 休校は英断ではない

    小林よしのり

  5. 5

    安倍首相の暴走許す自民党は末期

    田原総一朗

  6. 6

    ひろゆき氏 五輪の開催は難しい

    西村博之/ひろゆき

  7. 7

    新型コロナで公共工事中止は愚策

    近藤駿介

  8. 8

    石破氏 船内対応巡る発言を反省

    石破茂

  9. 9

    在宅勤務に賛成して休校否定の謎

    やまもといちろう

  10. 10

    マラソン決行 主催の説明に呆れ

    WEDGE Infinity

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。