2019年2月25日よりスペイン・バルセロナで開催された携帯電話の総合見本市イベント「MWC 2019」に、日本の携帯電話キャリアとして唯一出展したのがNTTドコモだ。現地では5Gが話題で、日本でも2020年に商用サービスが開始される。そんななか、ドコモは5Gでどのような成長戦略を描こうとしているのだろうか。代表取締役社長の吉澤和弘氏に話を聞いた。
5Gではパートナー企業との連携を重視
通信業界では今、次世代のモバイル通信規格「5G」が大きな盛り上がりを見せている。日本の携帯電話会社も2019年の9月頃からプレ商用サービスを開始し、東京五輪を迎える2020年には本格的な5Gの商用サービスを開始する予定だ。
そうした中で開催されたMWC 2019では、キャリアやネットワークベンダー、スマートフォンメーカーなど各社が5Gへの取り組みをアピールしているが、国内の携帯大手3社の中で唯一、ブースを出展して5Gに対する取り組みを発信しているのがNTTドコモだ。
MWC出展の狙いについて、吉澤氏は「パートナーと連携し、5Gをしっかり活用しながらユースケースを作ってきていることをPRしていきたい」と話す。単に5Gのネットワークを提供するというのでは意味がなく、それをどう活用して社会課題を解決できるかという、具体的な事例を見せることが出展の大きな狙いになっているそうだ。

中でも吉澤氏が重視し、強調していたのがパートナーとの協力関係で、「ドコモだけでできることはほとんどない」と言い切る。遠隔医療やライブ中継など、5Gで実現される要素の多くは、それぞれの事業でノウハウを持つパートナーの協力が欠かせない。
そのためNTTドコモとしてはパートナー、そしてNTTグループと密に連携を取りつつをしつつ、AIなどの最新技術を積極活用することで5Gに向けた取り組みを推し進める考えのようだ。
海外で先行する5G、日本は本当に遅れているのか
ただ5Gの動向を見る上で気になるのが、今年のMWCでは「日本は5Gで遅れている」という声が多く聞かれるようになったことだ。実は世界的には2019年が「5G元年」とされており、既にサービスを開始している米国のほか、中国や韓国、そして欧州などでも、2019年に5Gの商用サービス開始を予定するキャリアが増えているのだ。
一方で日本では、先に触れた通り2020年の商用サービス開始を予定しているため、電波の割り当てもこれからという状況だ。5Gの取り組みで諸外国と比べ1年ものブランクが発生してしまうことは、通信事業に関する国際競争を考える上で、非常に懸念されるところだ。

そうした日本の5Gに対する取り組みの遅れに対して、吉澤氏は「実際にお金を頂いて提供できるサービスがどこまでできるのか。5Gというネットワークを提供するだけでいいのならすぐできるが、それを活用したビジネスができていることの方が重要なのではないか」と話す。
単に5Gの”土管”を用意するのではなく、そのネットワーク上で収益を上げられるサービスとビジネスモデルを構築した上で、商用サービス化を推し進めたいというのがNTTドコモの考え方だと吉澤氏は説明する。
テクノロジー面で後れを取っている訳ではないことから、”多少の遅れは気にしない”との考えのようだ。「世界2200のパートナーとサービスを作りこんでいるキャリアは他にいない」と、吉澤氏は5Gでの充実したサービスの実現に強い自信を示している。
5Gではスマートフォンに依存しないビジネスを構築
5Gの新たなサービスを披露する場として現在準備が進められているのが、2019年に日本での開催を予定しているラグビーW杯に合わせた、5Gプレ商用サービスだ。プレサービスということもあり、いくつかの制限はあるものの、商用と同じ5Gの電波を射出してサービスを体験してもらう場を提供する。
プレサービスでの具体的な取り組みとして、吉澤氏はこれまでの実証実験で取り組んできた「ARグラスを活用した多視点でラグビーの試合を楽しめるスタジアム上でのソリューション」を提供するとしているほか、遠隔で試合を楽しんでもらうパブリックビューイングなども計画しているとのこと。
またエンタープライズ分野での取り組みとして、やはりこれまでの実証実験で取り組んできた遠隔医療や建設機械の遠隔操作などを、商用サービスに近い環境で実証していくことも明らかにしている。
だが5Gを普及していく上で大きな課題となるのが、特に一般消費者で顕著なのだが、”5Gならではのサービスをイメージしにくい”ことだ。4Gの時はスマートフォンの通信速度が速くなるという明確なメリットがあったが、5Gではそうした明確な進化を体験できる要素が薄い。
吉澤氏も「5Gによるデジタルトランスフォーメーションが、企業には理解してもらいやすいのだが、消費者にはイメージしづらい。見える形にしないと伝わらないかもしれない」と話す。
一方で吉澤氏は、5Gだからこそできるサービスは「スマートフォンやタブレットだけでは表現しきれない」と話す。5Gでは4Gまでのように単にスマートフォンを販売し、その上でコンテンツやサービスを提供するというだけにとどまらず、VRやARなどの「xR」と呼ばれる技術や、ウェアラブルデバイスなどさまざまな技術を取り入れて、より臨場感のある音楽やスポーツのライブ体験を提供するなど、5G自体を直接コンテンツやサービスに結び付けたビジネスを展開していく考えを示している。

スマートフォンを超えた5Gの体験を提供することで、5Gに対する消費者の理解を高めていきたいというのが、NTTドコモの考えのようだ。そのためにも吉澤氏は「技術でできることは限られてくる。コンテンツを提供する事業者とさらに連携した取り組みを推し進めていく」と話し、コンテンツホルダーとの連携を拡大していく考えを示している。
5Gといえば技術的な側面が注目されがちだが、吉澤氏の発言から、NTTドコモは技術そのものを前面に押し出すのではなく、技術を生かしたユーザー体験に注力することで5Gの普及を促そうとしている様子がうかがえる。
行政が分離プランの導入をキャリアに要求する緊急提言を打ち出し、NTTドコモも4月に分離プランを軸とした新料金プランの導入で対応するなど、スマートフォンを中心とした4Gまでのビジネスが大きな転換期を迎えている。NTTドコモは将来、5Gの時代にはスマートフォンに依存しないビジネスを開拓することで、次の成長を狙っているようだ。