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日本の官僚が"不祥事リーク"を始めた背景

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日本の政治が崩れつつある。政治家だけでなく、官僚機構からも不祥事が相次ぎ、国民は政治への関心を失っている。問題はどこにあるのか。東京大学の牧原出教授と東京工業大学の西田亮介准教授が徹底対談した――。/構成=稲泉 連

2018年12月11日、行政改革推進会議で発言する安倍晋三首相。いったい「改革」はいつまで続くのか。(撮影=時事通信フォト)

■なぜ「サマータイム」は大失敗だったのか

【西田亮介・東工大准教授】今回、牧原先生の新著『崩れる政治を立て直す 21世紀の日本行政改革論』(講談社現代新書)を興味深く読ませていただきました。

【牧原出・東大教授】ありがとうございます。

【西田】この本を読んでユニークさを感じたのは、前作『「安倍一強」の謎』で分析されたテーマを踏まえながら、一般的な政治学の手法にとどまらない試論や視点を数多く取り入れていることでした。とりわけ本書の骨子となっている「作動学」という概念は、近年の政権のあり方を分析する上でとても面白い視点ですね。

【牧原】90年代以降の政と官の関係を見るとき、自民党も政権交代時の民主党も常に「改革」をキーワードに政権を運営してきました。ただ、情報化やIT化が急速に進んだ近年は、冷戦期のような「制度を壊して新しく作る」というやり方が機能しなくなっていると思うんです。そんななか、「制度をどのように作るか」ではなく、「制度をどのように動かすか」という視点が重要になってきているのではないか。それが「作動学」を提唱した理由です。

【西田】かつては改革が行うにあたって、作り込んだ制度の青写真を作ることがまずは重要だとされてきたところがありました。橋本行革などが典型的かもしれません。

【牧原】ええ。まずは反対勢力を押し切って、「改革」をどんな形でもいいから実現させ、その運用については後で考えようというやり方だったと言っていいでしょう。そのような時代には「改革」が実際に制度化されたとき、それをどう「作動」させるかはあまり考えられていなかったんです。しかし、近年は運用を考えない「改革案」には最初から軋みが生じるようになっています。にもかかわらず、どのようにすれば官僚が動くのか、制度が機能するかのシミュレーションを政治の側が行っているようには見えないんですね。「サマータイム」をめぐる混乱などは、その顕著な事例の一つでしょう。

■かつては「反応を見てみよう」という気楽な雰囲気もあった

【西田】なぜ、近年の「改革」にはそのような軋みが生じるようになったとお考えですか。

【牧原】「政治主導」と官僚の働き方の変化によって、「政」と「官」の関係が本質的に変わってきているからでしょう。例えば80年代ぐらいまでの行政においては、官僚たちに「行政改革を自分たちが主導している」という意識がありました。もちろん改革のアイデアは社会のどこかにあるもので、彼ら自身が思いつくものではありません。

でも、彼らは海外や国内の学識者などから、それを見つけ出してくる役割を担っていたわけです。改革のアイデアを社会から発見して、制度をデザインする一連の仕事を自分たちはしている、と。「作動学」の観点からすれば、「まあ、新しいものを出してみて、社会の反応を見てみよう」という気楽な雰囲気もあったと思います。

■官僚は改革に身を投じる余裕がなくなった

【西田】現在はそういうわけにはいかなくなってきているのは自明ですよね。行政を動かそうとしても、あらゆることが加速化しています。結果がすぐに求められますし、インターネット上での世論や評価についても考えなければならない――。

【牧原】ええ。ただでさえ業務が忙しくなり、ゆったりと改革に身を投じる余裕が官僚たちにはありません。それこそ私が学生時代から90年代ぐらいまでは、官僚の政治家へのレクチャーと言えばA4数枚、箇条書き形式のものを資料として出している印象でした。田中角栄が「紙は一枚ですませろ。それ以上を持ってくるな」と言っていたように。今はA4にして何枚もの図表などのついたパワーポイントの資料を用意して、与党にも野党にも多くの説明コストをかけている。官僚たちが「俺たちが政治を回している」というよりも、「政治家に言われるがままに資料を作っている」と見えてしまう実態はあるでしょう。

東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院 准教授・西田亮介氏

【西田】だからこそ、官僚のモチベーションをどのように引き出すか、言い換えれば政策の「作動」「不作動」について、あらかじめ議論しておかなければならない、しかし当の行政システム自体は十分に変化に対応できておらず、官僚も変化を適切に認識できていないかもしれないというわけですね。もうひとつですが、「作動学」の理論的な基礎として、ドイツの社会学者ニクラス・ルーマンの言葉を挙げられている点にも目を惹かれました。初期の頃は行政学者でもあったルーマンが「行政改革は行政の自己改革能力の改革」と指摘している、というものです。

■「政治主導」が全ての課題を解決していく、という価値観

【牧原】社会システム理論の論者であるルーマンは、行政を外から一気に変えることはできないというシステム理論特有の認識のもと、行政自身が自らを変える論理をつかみ、外からはそれがより適切に機能するよう働きかけるべきだと言ったわけです。この指摘は、第二次以降の安倍政権で問題になった「モリカケ」問題や自衛隊の日報問題など、「政」と「官」の関係を見る上で重要なものだと思います。

【西田】「政」と「官」の関係のあり方や「行政改革」というものには、ラディカルな方向転換的はあり得ず、むしろ連続的に移り変わっていくようなイメージを牧原先生はお持ちのように見えます。では、そうした「作動学」の視点から見ると、現在の安倍政権はどのように評価できるのでしょうか。

【牧原】私は第二次以降の安倍政権は、ある意味で民主党政権と非常によく似ていると考えています。安倍政権と民主党政権に共通しているのは、首相や大臣の強力なリーダーシップと指示があれば、官僚たちが動いて状況を突破できる、という考え方でしょう。当然、政策に反対する勢力は野党だけではなく、党内にも存在する。しかし、大臣が組織を掌握していれば、組織はその批判に耐えることができ、大臣とともに動いて改革を推し進められるという想定が彼らにはあったと思います。

【西田】両者に共通するのは「政治主導」が全ての課題を解決していく、という価値観であるわけですね。当時の民主党政権も改革の大鉈をふるおうとしてうまくいきませんでした。

■「モリカケ」問題は、強すぎる官邸への反発

【牧原】ええ。当時は私もその想定は正しいと考えていました。しかし、「作動学」という視点から見ると、その想定がそもそも非常に危ういものであったんですね。安倍政権では首相と首相周辺の人物による不祥事として、その軋みが表れたと言えるでしょう。

【西田】それが森友・加計問題だった、と。

東京大学 先端科学技術研究センター 教授・牧原出氏

【牧原】はい。この「モリカケ」問題で明らかになったのは、書類を抜く、部分的に書き替える、といった公文書の改ざんがかなり日常的に行われていたのではないか、という疑念でした。公文書管理制度が根付いていたはずなのに、これはおかしいじゃないか、と。彼らは首相の答弁に合うように文書を直してしまっても、問題にはならないと思っていたわけです。

もう一つは、検察の動きに関連してその資料が出てきたことです。これには官僚内部のリークがあった。私はこの一連の流れの中に、政権のリーダーシップが強化され過ぎたことが生み出した歪みを感じました。各省に対するコントロールが強まったことへの反発が、官僚たちのリークという形で表に出てきたといえるでしょう。

■「政治主導」に対する官僚の反発は日本以外でもある

【西田】安倍内閣と民主党の共通点で言えば、土台部分も似ているな、という気が常々していました。例えば、選挙における公募制の導入などは、最初に取り入れたのは小泉内閣のときですが、民主党も積極的に活用しました。たとえばいまの安倍政権の文部科学大臣である柴山昌彦氏などは、いわゆる公募活用の第一事例でした。言い換えると公募候補が大臣にまで上り詰めてきた時代になってきた。

それからもう一つ、ネットの活用についても、インターネット選挙の解禁を2000年代前半から主張してきたのは民主党の方でした。2000年代前半の民主党は、インターネットを武器に政権交代にたどり着きたいと考えていた節があります。それに対して自民党は後手にまわり、主流派は反対していました。しかし2012年に第2次安倍内閣が発足して、真っ先に手を付けた改革のひとつがネット選挙運動の解禁でした。

【牧原】そうした経緯を振り返ると、安部政権と民主党政権的なものには重なる部分が確かに多いです。そのなかで、同じく共通しているのが、「政治主導」下での官僚の反発を受けてきたことです。結果として、政と官の関係が壊れてしまっていくことで、「改革」が思うように進められていない。でも、実はそうした形での「反発」というのは、日本以外でもめずらしくはありません。

【西田】牧原先生はイギリスに留学なさっていましたが、欧米でも政権交代時などに同じようなことが起こるようですね。

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