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「夫婦の姿は幻想が生まれやすい」渡辺ペコ氏が公認不倫漫画を通して描く現代の夫婦のかたち

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夫婦の姿は幻想が生まれやすい

渡辺さんがこの作品を発表したのは、出産を経て復帰直後のタイミングだったといいます。なぜこのテーマを選んだのでしょうか?

「ドラマなどでは、不倫モノは結婚生活のつらい側面や喪失していくという部分がよく描かれています。また、家族をテーマにした作品では、崩壊したところから修復するという幸せになるというプロセスがフューチャーされるものが多いと思います。ただ、実際の夫婦も家族も密室のようなコミュニティになりやすいので当事者しかわからないことも多く、ドラマなどを通じて幻想や偏りが生まれる危険も含んでいるなと感じていました」

夫婦の姿は幻想が生まれやすい――。そう渡辺さんが感じる背景には自分が育った家庭環境も影響しているといいます。

「私の親は婚姻関係にはありましたが、夫婦関係は破綻していたんですね。子ども心にはわからなかったのですが、大人になるにつれ、“破綻しているけど、名前としては家族として存在している”という矛盾を含んだ環境の中で自分が育ってきたというのはどういうことなんだろうと疑問に思うようになりました」

「それがだめだとか絶望するということではないのですが、“何をもって夫婦や家族を破綻とするのか、また、何をもって維持するのか”という、ファンタジーではない日常生活の営みについて色々な角度から考えてみたかったという思いもあり、今回、家族の一番小さなユニットとしての夫婦を描くことにしました。結婚してしばらく経ち自分の中でも経験がたまってきたこともあり自分自身の中で整理するために描いているという部分もありますね」

不倫批判に「みんなルールを守ってやっているんだから」という意識

“公認不倫”という強いキーワードは、連載開始直後からネットやメディアなどで大きな反響を呼びました。渡辺さんは当時を振り返り、「不倫というものに対する否定的な反応が、想像以上にありました」と話します。

「そこにいたる経緯を最低限は描いたつもりでしたが、『不倫をした夫』ということで公認不倫をしているおとや(夫)が、ひたすらクズといわれ続けています(笑)。私は不倫を推奨するつもりは一切なく、肯定も否定も自分の中では出さないようにと思って描いているのですが、『不倫を肯定するなんてけしからん』とか、『不倫の認知を広げる危険性がある』という声もあり、否定的に捉えられることも多いです」

世間の不倫に対する批判はときに当事者よりも厳しいことがあります。昨年も、妻の婚外恋愛を許可する“セフレ容認契約書”を夫婦間で交わしていた政治家夫婦が週刊誌にスクープされ炎上。夫は「人間関係に関して夫婦なりの判断」と明言しているにもかかわらず、批判の声が寄せられました。

渡辺さんはこうして第三者からのバッシングの声が上がる背景に「『自分たちがルールを守ってやっているんだから、みんな守るべき』という気持ちがあるのではないでしょうか」と話します。

「ただ、結婚後に『私たちはメンタルでもフィジカルでもずっと充足したパートナーです』と言える人たちは幸福だと思う半面、それをみんなに求めるというのは少しハードルが高い気がしますし、あまり最初にすべてを完璧にこなそうとすると、しんどくなってしまうかもしれないなとも感じています」

「私は、結婚したら“いい夫婦”、そして子どもが生まれたら“いい家族”を常にこなすことができて当たり前ではないし、むしろ取りこぼしはそれぞれあって当然というところから始めたほうがいいと思っています。個人で取りこぼすところもあるし、夫婦という関係性を営んでいくうえで不足する部分もでてきます。大切なのは、そうした変化の中で取りこぼしたり、できなくなっていくことがあるという前提で、それでもやっていきたいと思える相手なのか。そのときに解決しようと動ける相手を選ぶことなのではないかと」


「この『できないところはお互いにある中でそれでも向き合うこと』はこの漫画の大事なテーマでもあるので、完全に諦めないで欲しいと思い、登場人物たちはパートナーからも読者からも完全に見放される人ではないようにと意識して描いています。ただ、それでもおとや(夫)が“クズ”と言われ続けてしまうのですが…(笑)」

“セックスがなければ家族になれない”は幻想

作品の中で公認不倫が始まるきっかけになったのはセックスレス。日本では夫婦の2組に1組がセックスレスとされ人口減少や少子高齢化が国としての課題となるいま、少子化を招く“問題”として語られます。夫婦という個人のレベルで捉えたとき、必ずしもセックスレスは“問題”になるのでしょうか?渡辺さんにたずねました。

「子どもを産んで家族を増やすという一連の流れの中にセックスがあり、もちろんそれがメジャーな流れだと思います。でも、セックスなしで妊娠することも医療的に可能ですし、家族のかたちが多様化するいま、養子など色々なかたちがあって、たとえ産んでなくても親子になることは可能です。その意味でも、性的な行為はなくても信頼関係は作れると思いますし、“セックスがなければ家族になれない”とか、“唯一無二になれない”というのも幻想なのかなという疑問があります」

「それは同時に“男女間にはセックスが必須”“子どもがいれば幸せ”というイメージが必ずしもそうではないということでもあると思います。先日、新聞の人生案内を読んでいたところ70〜80代の女性が『夫とのセックスがすごく嫌だった』と告白する投書を見かけました。昔は今ほど娯楽もないし、女性の力も弱かったので“セックスを拒否”することすらできない女性も多かったのではないかと思います。もちろん“子だくさんで幸せ”という人もいたと思いますが、そうではない人もいます。家族も時代とともに多様化するいま、もっと色々なつながり方を模索してもいいのではないでしょうか」

国が定める「標準世帯」は大黒柱の夫、主婦の妻、そして子ども2人というモデルですが、渡辺さんのおっしゃる通り、同性婚や事実婚などの多様なパートナーシップのかたちが公に語られ始めています。多くの人たちが“夫婦のかたち”を改めて見つめ直す潮目にきているのかもしれません。

渡辺さんにとっての“1122(いい夫婦)”とはどのようなかたちなのでしょうか?

「人と違うことをやっていたり、それが明るみに出たりすると色々と言ってくる人もいます。でも、結婚という制度は社会的なもので時代や社会的背景で変わっていくものなので合わせても意味はないですし、夫婦のかたちを作っていくのは構成要員の2人です」

「そのためにも、良き家族、日本の家族とか、結婚情報誌にあるような幸せな愛し合う夫婦とかというイメージは置いておいて、自分たちがどうしたいか、とかどう生きていきたいかというのを面倒ではあるけれども2人で探っていくしかないと思います。私自身でも、『いい夫婦とは?』という問いに対する答えは出せていません。そうした意味でも、いい夫婦やいい家族が先立つものではなく、作りあげていくものなんだなと実感しています。この作品が、そんなことを考えるきっかけになれたらうれしいです」

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