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「女性脳は何より共感を求める」←この使い古された雑知識 - 網尾歩 (コラムニスト)

「男(女)はこういうもの」って決めつけ、平成で卒業しませんか。

(fizkes/iStock/Getty Images Plus)

女をディスエンパワーメントする「女性脳は共感」

ツイッターで「女性 共感」と入れて検索すると、たちまち恋愛指南をつぶやくアカウントのツイートが複数ヒットする。それらの語っていることは、ほぼ同じ。

「男性は解決策、女性は共感を求めます」

「女性はアドバイスを求めているのではなく、共感がほしいだけなのです」

とかいう例のアレである。

好きな相手と初めて手をつないだばかりの中学生であるなら、こういった一見わかりやすいマニュアルにひかれる気持ちもわかる。最新の研究では「性差よりも個体差の方が大きい」と言われるようになり、いわゆる「男性脳・女性脳」の話は否定されつつある。血液型占いと同程度に楽しむならまだしも、これを根拠に実生活や恋愛の手ほどきをされるのはなかなかキツいものがある。

知人に、いわゆる水商売のアルバイトをしていた女性がいる。彼女が店のママから最初に教えられた“接客のコツ”は「ウケるぅ~!」「すごーい!」「それでそれで?」、そして拍手だったという。

こんな例を出すまでもなく、男性だって共感を求める生き物である。愚痴をつぶやいて正論や解決策で返されたときに「なるほど」と受け取れる男性ばかりではないこと、むしろ逆ギレする人もいることは、ツイッターを3秒ほど眺めるだけでもわかるではないか。

さらに筆者がこの使い古された雑知識「男は解決策、女は共感」に大きな違和感を持つのは、このメッセージを発信する人の多くから「しょせん女は問題を解決する気がない(笑)」的なディスエンパワーメントを感じるからである。男であれ女であれ、こんなディスエンパワーメントをしてくる人と仲良くなるのはそもそも無理ではないか。

「グチを打ち明けて“あげよう”」という奇天烈なアドバイス

さて、なぜこんなことを書いているのかといえば、男性脳・女性脳の違いを知ることで夫婦間のすれ違いをなくそうと発案された江崎グリコのスマホ向けアプリが炎上し、グリコが公開を終了したからである。

アプリは、ママの気持ちがわからないパパのために、ママのセリフをキャラクターの「こぺポン」が「翻訳」してあげるというものだった。

たとえば、ママが「仕事と家庭どっちが大事なの?」と言うのは、「私は何より家庭を優先してるのに、あなたは仕事ばかりなのが寂しいわ……」というメッセージなのだそうだ。こぺポンは、「寂しい思いをさせてごめん、と謝って。ママに仕事のグチを打ち明けてあげよう」とアドバイスする。「グチを打ち明けて“あげよう”」である。

ママの言う「好きにすれば?」は、「それをやったら、もう知らないから!」の意味で、こぺポンからのアドバイスは「このセリフを言われたパパは、『見放さないで』と甘えてみましょう」。「“甘えて”みましょう」である。

この翻訳やアドバイスに怒っているのは「ママ」が多いが、実は「パパ」の方もかなりバカにされている。というか、自立した大人であるはずの夫婦のコミュニケーションを、極めて幼稚なレベルに落とし込んでいる。江崎グリコが考える日本の夫婦像は、こういったものなのだろうか。

さらにこぺポンは、「ママ」たちに向けてこんなことも言う。

「段取り上手の女性脳と比べて、男性たちはあまりにも段取りが悪い」

「男性脳には『察する機能』がついていないと思った方がいいよ!」

こぺポンの言う通りなら、社会において段取りや忖度が必要とされるあらゆる仕事は女性が一手に引き受けた方が良さそうだ。一方で「パパ」向けのアドバイスはこうである。

「女性脳は何より共感を求めているの。話を聞いてくれて、共感さえしてくれればOKなの」

「『言わなくても』察してもらえることで、大切にされていると実感できるのが女性脳」

こぺポンはママに対してパパの段取りの悪さや察する機能のなさについて告げ口してディスるが、パパに対してはそれを指摘することなく、例の「共感さえしてくれれば」を言い立てる。夫婦げんかを仲裁すると見せかけてお互いの悪口を言ってくるこういう人、いますよねって感じがする。

さらにこぺポンは、「段取り上手」のママのイライラについて、パパが段取りスキルや家事スキルを上げることではなく、「共感してあげる」ことで解決しようとしている。いやまず、段取り力を上げてくれ。

このアプリを監修したのは『妻のトリセツ』という著書を持つ女性だという。トリセツ=取説(取扱説明書)のことである。マニュアルは面白いこともあるが、面白い読み物だから実用的であるかといえばそうではない。目の前の個人に向き合わず、「女ってこうだから」「男ってこうだから」という斜め上から目線で取り扱われることを、自立した大人は普通嫌がるものだ。これが性別ではなく、たとえば出身地や人種、体型、年齢であってもそうだし、そのような場合は差別や偏見と認識されやすい。

夫婦げんかの際、相手から「これだから女は」「これだから男は」という空気を醸し出され、イラッとこない人がいるだろうか。アプリは夫婦間の溝を埋めるものなどではなく、断絶に拍車をかけるものに見えてしまう。別れさせたい夫婦に使用を勧めるという利用方法を思いついたが、早々に公開終了してしまって残念である。

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