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経済成長の終わりと贈与経済の始まりについて

平松邦夫さんの新しい政治運動のためのシンポジウムがあった。

労働組合や既成政党が土台という「ふるい」タイプのムーブメントはもう賞味期限が切れていると思うけれど、それへのオルタナティブがみつからない。

「オルタナティブがみつからないで困ったよ」という全員の困惑がはっきり前面に出ていたという点で、私にはなんとなく新鮮であった。

平松さんの市長時代の最後のパーティは選挙応援のためのものだった。3000人くらい集まった集会で、たいへんな熱気だったけれど、労組、政党、業界団体が集票マシンになるという、「ふるいタイプ」の集まりだった。こういうやり方では変化の激しい時代には対応がむずかしいだろうという気がした。

そのときよりはるかに人数は減っていたけれど、昨日のシンポジウムでは明らかに「みんな戸惑っていた」。
これはよい徴候だろうと私は思った。

戸惑うときには、しっかり戸惑った方がいい。

今までのやり方じゃダメだ。オルタナティブをみつけなければいけない、ということについて、まず合意形成が必要である。
それが合意できれば、あとはみんな自由に考えればいい。

思考の自由度と、思考の精度は相関する。

身体の自由度が身体運用の精度と相関するのと同じである。

がちがちに固まった身体で精密な運動をすることはできない。

同じように、自由度のない思考は、精密な思考をすることができない。

状況の変化は微細な徴候として予示される。 それに感知し、適切に反応するためには、思考の精度が必要である。
精度を上げるためには、とにかく「囚われない」ということが必要である。

新しく立ち上げる公共政策ラボ(Public Policy Labo)というシンクタンクがそういう自由な発想のための培養基になってくれるとよいのだが。

シンポジウムでは、平川くんが「経済成長しない社会」をどう生きるか、という話をしてくれた(15分くらいだから、「さわり」だけ)。それを聴きながらいろいろなことを考えた。

1945年に戦争が終わり、55年から72年までの高度経済成長期は成長率が年率9%~10%だった。そのあと73年からの14年間が3%。そのあと1%になり、2008年のリーマンショックからあとゼロ成長、マイナス成長になった。

これは経済政策の成功失敗の結果ではなく、ある種の自然過程だというのが平川くんの考えである。 たしかに高度成長した時期があったが、それは国民に購買力があったからである。

「購買力」というのは欲望である。実体があるわけではない。とにかく、ものが欲しかった。だから必死で働いて、稼いで、使ったのである。

今の中国と同じである。

ひとわたり欲しい物が手に入ったら、購買力は落ち、経済成長は鈍化する。 欲望が身体を基準にしている限り、欲しいものには限界があるからである。

一日に三食以上食べることはむずかしい(してもいいが身体を壊す)。洋服だって一度に一着しか着られない。テレビだって一度に一台しか見られない。家を何十軒も買っても住めるのはそのうち一軒だけである。自家用ジェット機を10機所有していても、いちどきには一機にしか乗れない。

かように身体が欲望の基本であるときには、「身体という限界」がある。ある程度以上の商品を「享受する」ことを身体が許してくれない。そのとき経済成長が鈍化する。

そうなると、人間は「身体という限界」を超える商品に対する欲望を解発しようとする。

80年代に「ほしいものが、ほしい」という画期的なコピーがあった。これは身体的な欲望がほぼ膨満状態に達し、経済成長が鈍化せざるを得ない現実を活写した名コピーだったと思う。

そのあと、市場は消費者たちの「満たされない欲望」に焦点化して商品展開を試みた。 それが「象徴価値」を価値の主成分とする商品群である。

その商品を購入することが、そのひとの「社会的な立場」を記号的に示し、他者との差別化機能を果たすような商品群(いわゆるブランド品)である。アイデンティティ指示商品といってもいい。

自分が何ものであるかということは実定的には指示できない。記号は「それが何でないか」を言うことしかできないからである。

そして、私たちが「自分が何でないか」を言うために参照することのできる記号は原理的に無限である。

欲望の対象を記号に特化したことによって、商品は身体という限界を乗り越えた。

この「象徴価値を主成分とする商品群」は、最初のうちは「帰属する社会階層を指示する」ものであった。 だが、帰属階層への指示は、何度か繰り返されるともうしだいに緊急性を失う。

「あの人はあの階層の人だ」という情報は商品購入を繰り返すごとに確実に周知範囲を拡げ、いずれ不要になるからである。もう帰属階層への記号的指示のために商品を購入する必要がなくなる。

それにあまり指摘されないことだが、高い社会階層に属し、大量の可処分所得を得ている人間ほど誇示的浪費を好まないという傾向がある。

「安物買いの銭失い」という言葉があるが、その反対で、大金持ちは「いいもの」だけを選択的に買うので、ひとわたり「いいもの」を買いそろえた後は、もう買い換え需要が発生しない。

かように「帰属階層を指示する記号」を商品の価値にしてみても、やはり需要は鈍化した。 しかたがないので、市場はターゲットを「帰属階層」からさらに不安定な「流行に対する感度」に切り替えた。

階層は惰性が強く、急激な階層上昇も下降もむずかしい。それに比べると、「流行感度」ランキングはうまくすると月単位くらいで下克上的にさわがしく昇降が行われる。これならほぼ無限の需要が期待できる。そう思った人たちがいた。けれども、思いがけないピットフォールがあった。

それは「流行に対して感度がいい」というふるまいが高く評価されるのは、若年層だけであり、若年層は可処分所得が少ないということである。

結局、この市場も、ユニクロをはじめとする「たいへん安価なので、月単位で全取っ替えできる」商品を提供できるメーカーが巨利を得ているうちに、さらに貧乏になった若者たちが「流行に対する感度」にさえ興味を失って、失速することになった。

商品を購入することへの欲望が失われた状態。それが成熟期の資本主義の実相である。

そして、資本主義を領導し続けた「満たされない欲望」が最終的に安住の地を見出したのは、「どのような商品であっても買おうと思えば買える財力を持ちながら、あまりに満たされてしまったので、それが放出される対象を見出すことのできないでいるポテンシャル過剰状態」そのものであった。

つまり、資本主義は最終的に人々を「金を持っているが、使い道がない」という、ニルヴァーナ状態へと差し向けることになったのである。

マルクスが言うとおり、貨幣は商品である。 その商品性格は「何かと交換したいという意欲をどのような商品よりも強くかき立てること」である(だって、貨幣なんか持っていても食べられないし、着られないし、洟もかめないからである)。 だからこそ交換を加速するため最高の商品として選択されたのである。

だが、貨幣は今やその極限において、「交換したいもの」を失ってしまった。 貨幣が交換できる商品はだいぶ前からもう貨幣しかなくなった。 「金で金を買う」というのがこの20年ほどの支配的な経済活動である。

貨幣で株を買い、国債を買い、不動産を買い、年金を買い、保険を買い、貴金属を買う。

自分の尻尾を囓るウロボロスの蛇のように、今、貨幣は貨幣を食って、それを「資産運用」と称している。ただのバクチである。 どこかで誰かが貨幣を失い、その分を誰かが儲けている。それだけのことである。

胴元が寺銭を稼いでいるが、「胴元」(銀行や保険会社やファンドや格付け会社)はもう何も生産していない。賭場に目を血走らせてやってくる素人から銭を巻き上げているだけである。私たちはいまその状態に来ている。

経済成長は「貨幣で買えるものが貨幣以外にない」状態に到達して終わるのである。そして、たしかに終わったのである。
いい加減、そのことに気づいたらどうだろう。

平川くんの話を聴きながら、そんなことを考えた。 これからは違う経済システムに切り替えるしかない。 それは「贈与経済」である。

とりあえず使い道のない金があるなら、いまだ身体的需要が満たされていない人たちに贈与すればよろしいではないか、というのが私の主張である。

贈与のためのシステム作りはけっこう骨折り仕事である。社会的成熟に達していない人間は「商品を買う」ことはできるが、「贈与する」ことはできない。 贈与は人間的成熟を要求する。

私たちの社会システムは「適切に贈与を果たしうるような成熟した市民の育成」を目標として制度設計のやり直しをしなければならない。

私はそんなふうに考えている。

「贈与経済システム」については、これからもっと詳しく語る機会があるだろう。

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