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人口が減るというのは、生産し、消費する時間が減るということ。特に、消費のための時間は現代の最も希少な資源です - 「賢人論。」第83回藻谷浩介氏(中編)

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著書『デフレの正体』(角川oneテーマ新書)で「経済を動かしているのは、景気の波ではなくて人口の波である」と指摘し、生産年齢人口=現役世代の数の減少によって危機に瀕している日本に3つの提言をした藻谷浩介氏。前編ではその提言のひとつ、「高齢富裕層から若者への所得移転」について現在の状況を検討してもらったが、中編ではそれに継ぐ提言「女性の就労と経営参加を当たり前に」「労働者ではなく外国人観光客・短期定住者の受入を」について、検討してもらうことにしよう。

取材・文/ボブ内藤 撮影/公家勇人

日本の子どもは四半世紀で半減してしまった

みんなの介護 現在、政府は「ニッポン一億総活躍プラン」を実行し、女性の社会参加を促す働き方改革を進めています。「女性の就労と経営参加を当たり前に」という藻谷さんの提言がまさに実行されつつあると思いますが、どう評価していますか?

藻谷 安倍首相が、第一次政権と第二次政権で一番豹変したのがこの点でしょう。世の中が否が応にも女性が活躍する方向に向かわざるを得ない状況になっているということに、彼もようやく気付いたのです。奥様が居酒屋をやっておられるくらいですし、言行一致であることは評価できます。

ただし、現在の人手不足を「アベノミクスの成功」の結果だと思っているとすれば、それは彼のまったくの勘違いです。人手不足は多年放置されている間に進行した極端な少子化の結果であり、経済政策の成果であるどころか、戦後自民党政治の大失敗の産物なのです。

団塊の世代が生まれた直後の1950年当時、日本には0~4歳の乳幼児が1,135万人いました。団塊ジュニアが生まれたばかりの1975年は1,000万人。それが2015年には499万人にまで減ってしまった。1973年をピークにして、毎年生まれる子どもの数が、半分以下に減ってしまったからです。

乳幼児が減れば、十数年後には新卒就職者の数が減ることになりますね。他方で高齢になって退職する人の数は、60~70年以上前の出生者数に連動するわけですから、少子化が進むほど「退職者数>新卒就職者数」となって、働き手がどんどん減っていくことになる。これが、今の人手不足の正体なのです。

首相は「若者の就職環境が改善した」とことあるごとに自慢していますが、高齢者の大量退職が起きている以上、ずっと数の少ない新卒者の取り合いが起きるのは当たり前。

その新卒者も年々減っているので、日本の15~39歳の就業者は、2012年に2,411万人だったのが、2017年には2,298万人へと、113万人も減りました。これからも減ります。その分、消費も落ち込んでいく。これを「好景気だから」と勘違いしていると、後世から見たときに「笑止千万」と言われても仕方ないでしょうね。

みんなの介護 このままの勢いで子どもが減っていけば、今後の四半世紀の間に日本から子どもがいなくなってしまうかもしれませんね…。

藻谷 この40年余りで急に出生数が減ったというのは、生物としての日本人の生存環境に、重大な欠陥が生じているということです。これは景気だの安全保障だの福祉だの、通常重要視されているすべての事柄に先立って、日本にとって圧倒的に重要な問題であるはずなのに、産・学・官・マスコミ・ネットからほぼ無視されたままです。

さて、このような少子化に伴う人手不足に、全国に先駆けて直面しているのが過疎地域です。その代表ともいえる島根県では、25~39歳の女性の就業率は82%と、47都道府県で第1位。これは、共働き家庭の子育て支援が充実しているからです。それも行政だけでなく、企業が進んで社内保育所を設置している。

ちなみに、「女性が働くと仕事が忙しくなって子どもの数が減る」という言説はまったくの誤解です。東北大学高齢社会経済研究センター算定の数字では、島根県の合計特殊出生率(1人の女性が15歳から49歳までに産む子どもの数の平均)は1.87で、沖縄県に次いで都道府県2位。子育てでも、女性就労でも、島根県はトップクラスなんです。

女性就労も子育て支援も現時点では「序の口」です

みんなの介護 島根県のことをよく知らない人にとっては、とても意外な事実です。

藻谷 実は東京のこともよく知らない人が多いのではないでしょうか。東京の25~39歳の女性の就業率は70%で、47都道府県で37位。出生率は1.20で最下位なのです。

もし、2020年時点で、日本全国の25歳以上の女性の就業率が今の島根県と同水準になるとすると、日本の就業者の総数は、2015年より371万人も多くなります。

ところで2018年12月、安倍政権は入管法(出入国管理及び難民認定法)改正案を衆院でスピード可決させました。今後5年間で外国人労働者を35万人増加させると言います。

しかし、日本の在留外国人数が2012年末の203万人を底に2018年6月末には264万人と、過去5年半で既に60万人以上も増加しているのに、人手不足は深刻化する一方です。

先ほど述べたように39歳以下の就業者は、外国籍の人も入れて最近5年間だけで113万人も減っているのです。1年に23万人減というペースですね。ここに年に7万人の外国人労働者を新たに入れたところで、人手不足が解消するはずもありません。

それより、同年代の男性に比べて就業率が低い若い女性の活躍の場を広げる方が、はるかに社会的なコストも少なく、かつ数百万人単位の数業者数増加を実現できるわけです。おまけに消費も活性化することは確実ですし、島根県のように出生率だって上がるかもしれません。

みんなの介護 確かに外国人を受け入れるためのコストを考えたら、女性の労働力を借りるほうが圧倒的に容易です。

藻谷 もし日本の女性の就労率が東京都並みに下がったら、どうなるでしょうか。2020年時点の就業者数は、2015年の実数より349万人も減ることになってしまうのです。

みんなの介護 そんなことになったら、若い世帯の所得が減って、少子化もさらに進みそうですね。

藻谷 ですから、やるべきことは明らかですよね。都会の企業の就労条件と子育て支援環境を、島根県並みに改善することです。

とはいっても、通勤時間も長く生活費も高く、「働くことが子育てなんかより大事」という価値観の深く染みついた東京に、急速な改善を求めるのは無理です。

そうとなれば、若者が都会に一方的に集まる今の社会状況も、何とかしなければなりません。都会に行った若者は、高い住居費や食費を払い、長時間残業をした末に、地元に残った場合に比べて少ない数の子孫しか残せないのですから。

結局のところ、女性の就労についても、子育て支援についても、あるべき水準に達しているかと言えば、「まだまだ序の口」というのが私の評価です。

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