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『翔んで埼玉』ヒットの裏に、原作者・魔夜峰央が攻めた「逆手に取る」笑い

●CGに近いGACKT&確かな演技力の二階堂ふみ


1982年に発表された未完の作品ながら、2015年に復刊され、"埼玉dis"漫画として突如ブームとなった『翔んで埼玉』がまさかの実写映画化となり、現在全国で公開されている。埼玉県人が東京都民からひどい迫害を受けている世界を舞台に、東京都知事の息子・壇ノ浦百美(二階堂ふみ)が、アメリカ帰りの謎の転校生・麻実麗(GACKT)と惹かれ合うも、実は埼玉県人だった……。22日に公開されると、週末興行収入ランキングで1位を記録。さらに埼玉での興行収入が記録的数字となったことで、ますます注目されている。

同作を生み出したのは、『パタリロ!』『ラシャーヌ!』などで知られる漫画家・魔夜峰央。耽美な絵柄で破壊的なギャグを繰り出し、45年間現役で漫画を描き続ける同氏だが、この作品のヒットには「意味がわからない」と首をひねっているという。今回は「埼玉だから許された」という同作について、話を聞いた。



○新しい作品だったら、成立しない可能性も

――『翔んで埼玉』が、原作のヒットからまさかの映画化ということで、話を聞いた時の心境を教えてください。

おかげさまで本がヒットした後に、まずはアニメの話があったんですよ。アニメの方が現実的だなと思っていましたが、いつの間にか「無理だろう」と思っていた実写映画の方が完成してしまいました。だって、この作品をどう実写化するのか……「正気ですか? 誰が責任を取るんだ」「私は知りませんよ」という感じでした(笑)。

――映画化に関して、内容には何かご意見などされたんですか?

全くタッチしていませんし、「好きにやってください」と言わざるを得なかったです。何も考えてなかったですから(笑)。最初に武内監督とプロデューサーが会いに来てくれて、「どうやら本気らしい」と思ったんですが、キャストにまず「GACKT」という名前が出てきて、びっくりしました。その場にいた人は全員のけぞったけど、次の瞬間にはうなずいてたわけですよ。

よく考えてみたらこういう巨大な虚構作品の主役を張るからには、本人が相当なキャラクターでないと太刀打ちできません。GACKTさん自身、異世界の存在みたいなところがありますし、生きてる人間よりCGに近いし、試写を見せていただいて、最初に飛行機から降りてきた時に「これだ」と思いました。



百美役の二階堂さんはコスチュームから何からそっくりで、ここまで似せる必要があるのか、と思ったくらいによくできてました。原作ではほとんどお人形さんみたいな扱いだったところにキャラクターを肉付けして、人間にしてくれた。監督は、二階堂ふみの演技力を最初から買ってたらしいので、さすがだなと思います。

――『翔んで埼玉』という作品は、なぜ30数年ぶりに受け入れられたのでしょうか?

私にとっては全く謎で、理解できません(笑)。

――私自身も埼玉出身なので、すごく笑えるところが多かったです。

埼玉の人は、逆に遠慮なく笑えると思います。他の県の人たちは、遠慮するんですって。本当に笑っていいのかな、差別にならないのかな? と。それはもう、遠慮しないで笑って欲しいですよね。

――県民ならでは、というネタも多かったと思いますが、元埼玉県民としては、映画版はどのようにご覧になったんですか?

「元埼玉県民」って、初めて言われましたね(笑)。私はまだ埼玉に住んでいたとしても、もっといじめて欲しかったかもしれない。やっぱり監督も千葉出身だから、遠慮したのか、最後の方はかなり気を使って、埼玉を持ち上げてましたね。逆に終盤は監督が千葉のことを放りっぱなしだったので、千葉の人の反応が怖いです(笑)。他のどの都道府県でも成り立たなかった作品だと思います。埼玉県民だけが鷹揚なんですよ。





――たしかに、故郷ではあるけど、埼玉という名前がなくなってもいいや、くらいのゆるい感覚ですね。

結局、そこに行き着くんですよね。郷土愛があるとかないとかじゃなくて、「たまたまここに住んでる」みたいな感覚だから、きっと許されるんですね。これが京都だったらと思うと、想像しただけで怖いです。

ただ、それも30数年前の作品だから、許されたのだと思います。これが新しい作品だったら、出版されることもなかっただろうし、まして映画化なんて。ある程度時効になっているから許せるということで、現実化しているんじゃないかな。それをとやかくいう人も、今のところはいないですし。まあ、言いたいことがあって、やりたいことがあるならやればいいし、反対意見があるなら堂々と言えばいい。なんとなく「いけないんじゃないか」で終わらせていたら、始まらないとは思います。

●ギリギリを超えない感覚で攻める

――この作品は先生が埼玉に住んでいた頃に書かれて、埼玉から引っ越した時に「ただのディスになるから」と辞められたんですよね。そこの感覚もすごいな、と思ったんですが。

実際、自虐ネタなんですよね。自分がよそに出たら自虐じゃなくなるから、そこはちょっと。まあ、続きも考えていなかったですし(笑)。



――でも改めて、この面白さってどこにあるんだろう、と思いながらも映画を観ました。

人間には、誰にでも差別意識はあるし、ごくつまらないことでも人と比べたがるし、比べられてしまう。それを逆手にとって笑い飛ばそう、というのがこの作品なんです。だから遠慮なく笑ってもらいたいし、この冗談が否定される世界だったら、その方が怖いでしょう。

――差別意識をおちょくる、みたいなところが。

冗談は、ある程度まではきつければきついほど面白いんですよ。それを超えるとダメなんですけど、『パタリロ!』も、結構ギリギリのところまでやるタイプですから。

――そういう感覚は、どこで培われたんですか?

生まれつきですね(笑)。反射神経で、勝手に出てくる。そう考えると、やっぱり今回はもうちょっとやっても良かったかなと思います。大抵の埼玉県民からは、物足りなかったという話を聞きます(笑)。

――改めて、映画の中で印象的だったシーンをぜひ教えてください。

面白かったですよ。監督と感性が似ているんだなと思いました。印象的だったのは、埼玉と千葉のカードバトルと、群馬県の空を飛ぶプテラノドン。私だったら、UFOを飛ばすかもしれないですね(笑)。





○実は家族で映画に出演

――映画の冒頭には先生も出演されていたんですが、ご家族と聞いて驚きました。マシュー・ボーンの『白鳥の湖』のパロディのような雰囲気で……。

監督は、なんとなくその雰囲気を出したそうです(笑)。「この作品はフィクションです」というナレーションが必要で、私がやることになり、気がついたらああいう風になっていました。

周りの男性ダンサーについては、プロデューサーがあちこち電話したら、所沢のNBAバレエ団が埼玉つながりで引き受けてくれました。息子以外の方はみなさん、トッププリンシパルやプリンシパルだったんですよ。自分よりはるかにえらい方達が、センターに出してくださるので、息子が恐縮していました。

――ご家族で出演されて、思い出にもなりましたか?

それは、そうでしたね。でもバレエの発表会など、4人が同時に出る舞台はしょっちゅうやっているんです。初発表会の時は、人生で一番緊張して3日間は頭の奥がぎゅっとなっていたんですが、だんだん数を重ねて、今年1月の会では一番楽しくやれました。奥さんがシンデレラで、私が意地悪なお姉さん役でした(笑)。

――それはぜひ観てみたいです。最後に、映画を楽しみにしている方へのメッセージをお願いします。

とにかく楽しい作品ですから、もう何も考えずに見ていただきたい。「ここで笑ってはいけないんじゃないか」とか、そういうことは一切気にしないで、ただただ、おかしかったら、遠慮なしに笑っていただければ嬉しいです。

■魔夜峰央

1953年3月4日生まれ。73年に『デラックスマーガレット』(集英社)でデビュー。78年、『花とゆめ』(白泉社)にて代表作『パタリロ!』の連載を開始。『パタリロ西遊記!』などのスピンオフ作品を生む大ヒット作となり、82年にはCX系列でテレビアニメ化もされる。現在、『別冊花とゆめ』『MELODY』(ともに白泉社)にて『パタリロ!』を連載中。また、『まんがライフ』(竹書房)では年に1回、『眠らないイヴ』を掲載している。15年に本作の原作にあたる「翔んで埼玉」(82)がネット発で話題となり、約30年ぶりに宝島社から復刊された。

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