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隠喩としての放射能、ヒロシマ・ナガサキそしてフクシマ

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 しかし、残念ながら私のような俗物は宗教的にはとてもなれそうもない。こうして放射能のことについて偉そうに書いているが、実際は、いつプルトニウムが飛んでくるかとびくびくしている小心者だ。私のような愚かな衆生たちは、一体、どうすれば良いのだろうか。

個人的には先ずは原発の建設・稼働には反対し、自然代替エネルギーの活用を推進することを支持しようと心に決めている。が、その他のことでは放射能への対応について何も選択肢が無いというのが現実だ。

今の仕事は東京でしか続けられないし、自宅には他人にはなつかない人見知りの激しいネコ2匹と老いた肉親も居るので地方に疎開するわけにもいかず、これまで通りの暮らしを淡々と続けていくしか無い。もっとも、現在のような非常時の日本にあって、これまでの暮らしを続けられること自体が極めて恵まれたことといえるのだが・・・

政府が発表しているように現状レベルの放射能で「直ちに影響が無い」のだとすれば、今後、数十年の余生の中でガンになるリスクが数パーセント上がることを甘んじて受け入れるしかないと思っている。ただし、将来、出産する可能性のある娘たちには、このままの状況が続くなら、東京から逃げ出せといっている。

 「日本がひとつになってこの難局をのりきろう」「日本人は強い」「被災地の人々の気持ちになろう」といったメッセージがメディアや政治家からも垂れ流されてくるが、「放射能」と対峙するということは、そんな薄っぺらなヒューマニズムで片が付く話ではない。国の避難指示や放射能の安全基準に従っていれば、何とかなるものではない。今般の輪番停電ファシズムを経験してわかったように、日本国民といわれる人々が平等に救われることなどはあり得ない。安心・デマゴーク情報をまき散らしているだけの国や御用学者やメディアなどはあてにせず、それぞれが、それぞれの立場で考えて生き延びるしかないのだ。

「メメント・モリ(Memento mori)」(死を想え)の教えの意味



 放射能の下で生きることを強いられる「3.11フクシマ」以降の世界において、いったいどんな光景が広がるのだろうか。

福島原発の避難指示地域から移動することを拒否する住民がいる。放射能で汚染された町、土地であっても、あえてそこに留まることを選択する人間が、私も含めこれからはたくさん出てくるだろう。人々は、線量計で日々放射能を計測しつつ自分がどれくらい死に近づいたのかを確認しながら生きていく、そうした姿は確かに異常かもしれないが、よくよく考えれば、放射能で死なずとも、死(Pluto)は、いずれ、老若男女、金持ち貧乏に関わらず、等しく訪れる。

そして、誰もが等しく放射能に晒される、3.11以降の世界では、我々の生が常に死とともにあり、放射能が毎日蓄積されていくように、少しづつ死にゆく存在であることが常に意識させられることになる。

「メメント・モリ(Memento mori)」(ラテン語で「死を想え」)が、「放射能」が持つもうひとつの隠喩だ。

「死を想え」などというと、暗すぎるといわれそうだが、中世ヨーロッパで「メメント・モリ」という言葉が広がったのは、逆にcarpe diem(今を楽しめ)ということで、我々は「明日死ぬから」今を精一杯生きようではないかという教えであった。

イベント、パーティーはもちろん花見までダメなどと言っている、今の東京で蔓延している「自粛ファシズム」のような程度の低い社会キャンペーンとは全く違うということをいっておこう。

パンドーラの箱の底に残されたもの



隠喩としての放射能に関して、もうひとつの寓話を紹介しよう。

ギリシア神話に登場するプロメテウスは、火の神として知られているが、天界から火を盗み人類に与えたことでゼウスの怒りをかう。ゼウスはプロメテウスを罰する一方で、人類に災いを与えるために「女」というものを作るように神々に命令し、泥から「パンドーラ」という女性を作り、人間界に送る。神々はパンドーラを遣わす際に彼女に決して開けてはいけないと言い含めて「箱」を持たせるが、ある日パンドーラは好奇心に負けてその箱を開けてしまう。すると、そこから疫病や犯罪、貧乏や悲しみといった、ありとあらゆる災いが飛び出してきて、世界には災厄が満ち、人々は苦しみの世界を彷徨うことになった。

深い後悔と絶望に打ちひしがれたパンドーラが箱の底を見ると、そこにはエルビス(ελπις)が残されていたという。

全ての災厄が飛び出した後に残されたエルビスとは一体何を意味していたのかについては、実は諸説あるようだが、この寓話を引用する後世の人々は、しばしばそれを「希望」と読み替えている。

原子力という「火」を与えられた人類が開けてしまったパンドーラの箱が、今日の福島第一原発であったとしたら、その底に残されているのは、この寓話にいうエルビスなのだろうか、そしてそれは人類にとって希望とよべるものなのだろうか。

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