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現実にAIに仕事を奪われ始めた弁護士

「法務格差なくしたい」 AIで起業した現役弁護士の挑戦

ふむふむ、大変興味深い記事である。

山本さんは2017年にGVA TECHを創業。AIによる契約書レビューサービス「AI-CON」を開発した。

AI-CONは、AIを使って契約書の作成から交渉までをサポートするサービス。ユーザー企業は、複数の質問に答えるだけで契約書のドラフトを作成可能。契約書のファイルをアップロードすると、1営業日以内に条文ごとのリスク判定と修正案が提示される。秘密保持契約(NDA)や業務委託契約、ライセンス契約などさまざまな契約書の条項リスク判定に対応する。

 AIがレビューした内容を弁護士がチェックすることで、契約業務を効率化。弁護士に直接契約書のレビューを依頼するよりも費用を抑えられるとしている。

同社のウェブページによれば、対応している契約は以下のようなもので、主としてB2Bの、それも秘密保持契約のようなやや特殊なものも含まれたコンテンツとなっている。

売買契約

業務委託契約

秘密保持契約(NDA)

投資契約

アドバイザリー契約

システム開発・保守契約

コンテンツ制作契約

人材紹介契約

オフィス賃貸借契約

広告代理店契約

SaaS利用規約

販売代理店契約

ライセンス契約

製造委託契約


さて、AI技術を用いた契約書チェックでは、実際のところ何をしてくれるのかというと、契約書の作成者と受領者とのいずれに有利な規定かをチェックし、修正提案なども行うということである。

契約書とはお互いに合意した契約内容を明文化したもので法的拘束力が伴います。AI-CONではその契約書の内容を「法律条項」「ビジネス条項」「手続き条項」の3つに分類しそれぞれ判定を行なっています。「法律条項」については有利・不利、「ビジネス条項」についてはビジネス的な判断で確認してください、「手続き条項」については簡易・複雑と判定を表示しています。

さらに、不足している項目を指摘する機能もある。

大量の契約書から弁護士が最終判断した契約書類型ごとのパターンを元に必要な条項が不足している場合に表示されます。これにより契約書内容の記載漏れがなくなります。

弁護士が行う契約書チェックで最初にイメージされるのは、適法性のチェックだと思うのだが、これは書かれていない。各種業法規制などについてのチェックは、むしろ当然として書かれていないのであろうか?

この点について、弁護士の深澤諭史先生の名義で書かれている「本サービスと弁護士法等について」というページの記載内容を見ると、本サービスが法律事務に当たらない理由として以下のように書かれている。

本サービスは、自ら契約の一方当事者への意思表示を代理したり、代行するものではありません。また、両当事者の意思形成や交渉に関与する機能を持ちません。したがって、「代理」「仲裁」「和解」のいずれにも該当しません。

また、本サービスの利用そのものによって法律関係を変動させたり明確化するものではないため、「その他の法律事務」にも該当しません。

「鑑定」については、法的判断の提供ではなく、かりにそうであるとしても、専門的法律知識に基づくものではないので該当しないと判断しております。これについては、慎重に検討をしております。

この最後の鑑定に該当しないという部分でこのサービスは法的判断の提供ではないとか、仮にそうであるとしても「専門的法律知識に基づくものではない」と説明しているところから見ると、各種の業法等からくる法的な制約については、積極的に判断しないという立場にあるのかもしれない。

しかしそうであるとすると、契約書の法務チェックというわけではないというべきなのかもしれない。

なお、仮に法務チェックを行うとすると、契約書の条項といえども法的な制約に従っているかどうかには解釈の余地があり、契約書作成者に有利な規定が法的に無効と解される可能性もある。このことは、上記に列挙されたB2B契約にはあまり起こらないが、消費者契約における消費者契約法その他の消費者保護立法、賃貸借契約における借地借家法、労働契約における労働契約法、基準法、組合法、安全衛生法などなどが出てくる。B2Bでも電気通信を始めとする無数の業法規制があり、こうしたものこそAIによるチェックが必要となるのではないかと思うのだが、特に民事契約の有効無効は事前に予想しにくいものがある。

消費者契約に関して言うと、現在でも、およそ弁護士が適法性チェックをしたとは思えないような規定がまかり通っていて、全国の適格消費者団体がもぐらたたきに勤しんでいるところではある。もっとも、そのような明白な違法条項はともかくとして、微妙なものも数多く、裁判をやってみないとわからないというものがたくさんある。

例えば敷金の敷引特約などというのも、敷金という金銭預託の性質上から、一律に差っ引くのは不当であろうと思われるのだが、長い裁判の結果、消費者契約法10条違反とは必ずしも言えないということになった。

また、大学の入学金・授業料の前納分はいかなる理由があっても返還しないという条項も、かつては当たり前だと思っていたところ、最高裁まで争った弁護士さんたちのおかげで、少なくとも授業料部分については消費者契約法9条1号に反することになった。

このように、法律の文言からは一義的に有効無効が明らかでなく、裁判所の判断によらなければ効力が見通せない、つまり無効のリスクもそれなりにあるという条項について、しかしそれを置くことによって契約書を作成した事業者にとっては有利に働くという場合に、仮にAIによる判断をするとなればどうなるのだろうかというのが、極めて興味深いところである。

先日読み終わった悪のAI論 あなたはここまで支配されている (朝日新書)には、様々なAIによる情報操作の可能性が示されていたが、意図的な情報操作ではなくむしろ怖いのは現状存在する差別偏見の温存・増幅傾向である。契約書条項についてのリーガルチェックをするとすれば、その適法性解釈には当然ながら従来の判例・解釈が取り込まれることであろう。しかしながら、それには解釈の幅があるだけでなく、多くの法律家にやらせても誤解や無理解がまかり通っている現状である。それが、AIによるリーガルチェックという名前で再生産されれば、悪夢になるかもしれない。

ちなみに、契約書の条項についての一般的な民事規制は、2020年、つまり来年春から施行される民法改正法で、消費者契約法10条のような規定が一般の契約で定型約款に当てはまるものにも創設される。

548条の2第2項

前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。

この規定は消費者契約法10条とよく似ており、その要件もいわゆるオープンな規定、つまり内容が一義的に明確にはなっていなくて適用場面に応じて適切に解釈しなければならないものである。もはや民事的に契約の自由が修正されるのは、消費者契約だけではないのだ。

ということで、契約書のリーガルチェックは今後ますます重要になるとともに、その解釈にあたって契約書作成者に有利な、強気のチェックが無効判定をくらうリスクも高くなり、ここにAIが参入することはますます興味深いものがある。

冒頭のAI-CON社は、そのさきがけとして極めて興味深い。

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