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書評「残業学」

残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか? (光文社新書) [新書]
中原淳
光文社
2018-12-12

ネットではしばしば以下のような論調が目にとまる。

「日本の残業時間が長いのは会社が無理やり働かせているから」
「日本人は勤勉だからついつい残業してしまう」
「残業手当を割り増しさせれば、残業を抑制することが出来る」

こういうステレオタイプな先入観にロジカルにダメ出ししてくれるのが本書である。

たまに「日本には労働時間の上限が法で定められていない」という人がいるが、それは間違いだ。労基法にはちゃんと法定労働時間が書いてあるが、労使が特別な協定を結んでそれを超過して残業できるようにしているというのが実情だ。経営側はともかく、労組はなぜ強力するのか。それは“残業”が組合にとっても大きなメリットがあるためだ。

日本企業は景気が悪くなった時、人を切るのではなく労働時間を減らして対応していたのです。つまり「景気が良い時は残業し、悪い時は残業を減らす」といった形で、人員の代わりに残業時間を調整用のバッファとして活用することで、外部状況の変化に対応してきました。

残業に協力することで、終身雇用が保証されるというわけだ。また日本の賃金制度自体にも残業を慢性化させる遺伝子が組み込まれている。

一般に日本以外の多くの国では「ジョブ型」という雇用システムがとられています。これは、雇用契約時に結ぶ「職務記述書」という書類によって一人ひとり、明確に仕事の範囲が規定される仕組みです。まず「仕事」が存在し、そこに「人」をつけています。

それに対して日本型の雇用システムは「メンバーシップ型」と呼ばれ、先に「人」を採用してから「仕事」をわりふります。その結果、「必要な仕事に人がつく」のではなく「職場に人が付き、それを皆でこなす」形になるため、「仕事の相互依存度」も高くなります。

自分に与えられた仕事が終わっても「職場のみんなが終わっていなければ終わりにくい」ところがあり、他者の仕事を手伝う、若手のフォローアップを行う、といったプラスアルファが求められます。

有給休暇が取れない、裁量労働でせっかく早く仕事を終えても追加で仕事が降ってくるといった問題の根っこはすべてここにある。

また、本書の調査によれば、調査対象全体の40.5%が「残業代を前提として家計を組み立てている」状態で、全体の60.8%が「基本給だけでは生活に足りない」状態だという。

本来は成果が労働時間に比例しない職であっても時給管理しなければならないため、会社としては基本給を出来るだけ低く抑え、残業代の原資をプールせざるをえないのだが、それが結果として「残業しないと生活できない」現状につながっているわけだ。

「残業割り増しを引き上げさせる」と企業はさらに基本給を抑えることになるから、従業員は減った基本給分を取り戻そうともっともっと残業することになるだろう。

対策としては本書も提示するように、まず残業を見える化した上で、減った残業代を賞与や基本給といった形で還元することが不可欠だろう。

それにしても。本書を読み終えて思うのは、昨年あれだけ経団連、連合で「残業の上限を月100時間にしよう」「いや、まだ長すぎる。せめて100時間未満に」とやりあってたのはなんだったのか、ということだ。

お互い残業のメリットはしっかり理解しつつ(というかホントに嫌だったら最初から36協定なんか結ばなきゃいいわけで)「とりあえず、労働者のために頑張ってるアピール」を何か月もやってたわけだ。いやはや。

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