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メディアリテラシーについて

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標記の主題についてこれまでに書いたものをいくつか採録しておく。
最初は2007年に書いたもの。話は古いけれど、言いたいことは変わらない。

閣僚の資産公開の記事の中にある閣僚が持っているテレビ局の株が値下がりしてたいへん困っているということが載っていた。閣僚は株の売買が禁じられているので、値下がりしても売ることができず、指を咥えて資産価値が目減りしてゆくのを眺めるしかないらしい。気の毒なことである。

だが、それ以上に驚いたのは、この人が持っているフジテレビの株が過去7年間で293万円から26万円まで値下がりしているという事実の方であった。「テレビはもう終わりなのかな」というため息まじりの感想をその閣僚は述べていた。

フジテレビといえば業界屈指の優良企業のはずである。その株が数年間で10分の1以下にまで値下がりしているという事実を私は知らなかった。もちろん株式欄を熟読している人にとっては周知のことなのであろうが、私は知らなかった。それはこの事実を社会構造上の大きな変化の徴候として指摘し分析することに、これまでメディアは特段の興味を示してこなかったということを意味している。

メディアはメディアについて報道しない。これは私が経験的に学んだことの一つである。

以前、ある新聞の紙面研究会に呼ばれたときに「なぜ新聞はテレビの『没落』について報道しないのか?」と問いかけたことがある。居並んだ記者たちは誰も答えてくれなかった。一人の記者が「愚劣なテレビ番組について批判的に報道すれば、その番組の視聴率が上がるだけですから」というシニカルなコメントをしただけである。

それでよいのだろうか。テレビというのは毎日数千万人の人が視聴する巨大なメディアである。にもかかわらず、どのような見識をもった人物が経営を担当しており、どのような財政基盤に支えられており、どのような人事戦略で社員は採用されており、放送内容はどのように決定されており、スポンサーや代理店はどの程度番組内容に関与するのかといった基本的なことについて、私たちは何か事件(ファンドによる買収やプロデューサーの汚職など)が起きたとき以外にはほとんど何も知らされない。

インターネット上で画像も音声も文字もが超高速で行き来する時代に、地上波テレビのような「恐竜的」メディアが10年後も存在しているのかどうか、私は率直に言って予測することが困難だろうと思っている。であれば、このことは当然国民的関心の対象になってよいトピックのはずである。

けれども、「テレビはいつ、どういうかたちで消えるのか?生き延びることができるとしたら、どのような条件をクリアーすることによってか?」という重要な論件について論じているメディアを私は知らない。少なくともテレビ関係者たちには「テレビの消滅」の可能性とその様態について、多少なりとも想像力を発揮する気持ちはなさそうである。

株価が7年間で10分の1に下がったということは「テレビには先がない」ということについてマーケットではすでにひそかな同意が形成されつつあるということである。けれども、テレビはその事実を報道しないし、もっぱらテレビを情報源とする数千万の日本国民もそのことを知らない。

「メディア・リテラシー」という言葉を「メディアにあふれかえる情報の中から有用でかつ信頼するに足るものを選び出す能力」のことだと思っている人が多いようだけれど、それでは説明が足りないのではないか。むしろ、私たちに必要なのは「メディアには決して情報として登場してこないもの」を感知する能力ではないのだろうか。いくつかの断片的事実から推して、そこに当然あってしかるべきなのに「誰もそれに言及しようとしない情報」を探り当て、「その情報はどうして報道されないのか?」と問い返す力がおそらくは最も重要な情報評価能力ではないかと私は思う。

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