- 2019年02月20日 09:15
口下手な矢部太郎の言葉が感動を呼ぶワケ
1/2『大家さんと僕』がベストセラーとなったお笑いコンビ・カラテカの矢部太郎さんは、自称「口下手芸人」だ。だが手塚治虫賞の受賞式では、感動的なスピーチを行い、激賞された。なにがあったのか。トップ・プレゼン・コンサルタントの永井千佳氏は「人前で話をするときには、緊張を隠すよりも、緊張を活かしたほうがいい」と解説する――。
※本稿は、永井千佳『緊張して話せるのは才能である』(宣伝会議)の一部を再編集したものです。

■リラックスした本番で「調子悪いの?」
お笑いコンビ・カラテカの矢部太郎さんは、芸人が本業ですが、「人前でうまくしゃべることが苦手」と自認しています。しかし、2018年6月、コミックエッセイ『大家さんと僕』で手塚治虫文化賞短編賞を受賞した際、その熱く真摯なスピーチは会場中を感動させました。
人生何があるか分からないとよく言いますが、中学生の頃、図書室でひとりで『火の鳥』を読んでいた僕が、いまここにいるなんて思いもよらなかったですし、芸人になって長く経ち、次第にすり減り、人生の斜陽を感じていた僕がいま、ここにこうしていることも、半年前には想像もつきませんでした。
それでも、あの頃、全力で漫画を読んでいたこととか、芸人として仕事をして創作に関わってきたこととか、子供の頃、絵を描く仕事をする父の背中を見ていたこととか、なんだかすべては無駄ではなく、繋がっている気がしています。それは僕だけじゃなく、みんながそうなのではないかとも思います。
お笑い芸人が僕の本業なのですが、人前でうまくしゃべることが苦手です。そんな「うまく言葉にできない気持ち」を、これからも少しでも漫画で描いていけたらと思っています。
本日は本当にありがとうございました。※Book Bang編集部「口下手なカラテカ・矢部太郎の言葉に会場中が号泣! 手塚治虫賞贈呈式の受賞スピーチ全文」(2018年6月20日掲載)より
実は私も矢部太郎さんに負けないほど緊張するタイプでした。そんな私がピアニストとして舞台に立って演奏活動をしながら、「緊張しなければ、きっといい演奏ができるはず」「緊張をなんとか克服したい」と悪戦苦闘していた頃のことです。
ピアノの演奏会というものは、とにもかくにも緊張するものです。
「今日は本番だ」と思うと、朝起きた瞬間から緊張してきます。

でもあるとき、本番の前なのにまったく緊張してくる気配がなく、「なんだかリラックスしてできそうだ」と思ったことがありました。いつもなら本番直前はガタガタ震えるほど緊張するのに、普段と変わらない状態。本番が始まっても、いつものように恐ろしい緊張が襲ってきません。
「今日はリラックスしてできた。そうか、これだったのか!」
そのときは、緊張を克服する方法が分かったような気がしました。
しかし、終わってみるとお客さんの反応が悪いのです。アンケートの結果もよくありません。数人の知り合いから「今日はどうした?」「調子悪いの?」と言われてしまったのです。
■「緊張」と「リラックス」は両立しない
不安になりビデオを見ると、うまくいっていると思っていたところが実際はうまくいっていません。「あんなに憧れていた緊張しない状態なのに、緊張しない本番はうまくいかない。それどころかお客さんの反応が悪い。なぜなんだろう?」と不思議に思い始めました。
そんなとき、医学的な緊張のメカニズムを知り、脳天に雷が落ちたような衝撃を受けました。
私たちの身体は、脳が命令しなくても心臓は動くし食事も消化されます。これは自律神経のおかげです。
この自律神経には、大きく分けて「交感神経」と「副交感神経」の二つがあります。交感神経は、緊張したり興奮したりすると活発になり、脈が速くなります。副交感神経は、リラックスすると活発になり、脈が遅くなります。
交感神経と副交感神経は、同時に活発になることはありません。だから人間の身体は、「緊張しながら、リラックスする」ということはできない構造になっているのです。
■プレゼンでの緊張は「交感神経」のせい
私たちがプレゼンで緊張するのは、交感神経が活発になっているからです。
「今から勝負!」と思った瞬間、人間は身体から交感神経を活発にさせるアドレナリンというホルモンが出て、さらに「覚醒のホルモン」ノルアドレナリンも出て、周囲に意識を張り巡らします。
狩りをしていた太古の人類にとって、何よりも必要なことは、獣や敵と戦って生き延びることでした。「緊張状態」は交感神経を活性化させて、戦う際に必要なエネルギーを集中させる反応なのです。たとえば獣が現れて緊張するとき、脳が命令しなくても勝手にアドレナリンが出て交感神経が活発になり、脈を速めて身体全体に大量に血液を送り込み、後回しにしてもいい消化活動を停止して、エネルギーを重要な器官に集め、血管を収縮し、攻撃されたときの出血量を抑えます。
また緊張状態になると、脳波は緊張を示すβ波に変わり、意識は分散し、雑多なことが頭に浮かび、一つの考えに集中できなくなります。実はこれも、覚醒のホルモン・ノルアドレナリンが出ることで、あらゆる方向からの敵の攻撃を感知し対応するためです。
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