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革命から60年「知られざるキューバ」のいま - フォーサイト編集部

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ハバナの革命広場にある内務省にはゲバラの「肖像」が掲げられている(渡邉氏提供)

「革命の国」キューバ。昨年4月にラウル・カストロ体制からミゲル・ディアスカネル体制に移行し、1959年の革命以来、60年にわたって続いた「カストロ時代」は転機を迎えている。今月24日には憲法改正の国民投票が行われ、4月にも発布される見通しだ。

 いまキューバで何が起きているのか。

キューバの魅力が満載

 その1つの答えが、昨年11月に刊行された渡邉優・前駐キューバ大使の『知られざるキューバ 外交官が見たキューバのリアル』(ベレ出版)にある。革命の矛盾や問題を孕みながらも、しなやかに強かに生き残りを図るかの国の不思議な魅力を、ウィットを織り交ぜつつ解説する入門書だ。

 渡邉氏は1980年に外務省入省後、駐ブラジル、駐スペイン、駐アルゼンチン大使館などに赴任。2015年12月から3年間、キューバ大使を務め、今年2月に退官した。

 大使離任直後の1月29日、ラテンアメリカ協会主催の講演会で渡邉氏が語った「知られざるキューバ」の姿をお届けする。

不思議が一杯の国

キューバの地理、歴史から最新情勢までじっくり解説

 私はブラジルに2回、アルゼンチンに1回、キューバに1回と、中南米に何回か勤務した経験があるので、中南米のことを分かっているつもりでいました。

 しかし赴任してみると、キューバというのはなかなか手ごわい。よく分からない。自ら文献にあたり、いろいろな方にお話を聞いて、少しだけ分かったことをこの本に書きました。

 加えて、過去3年間、キューバで生活をし、仕事をし、折衝をして、いくつか学んだことを今回、披露させていただこうかと思っております。

GDPは10兆円から4000億円の間!?

 まずキューバの基礎情報として、GDPは969億ペソ、1人当たりのGDPが8617ペソです。通常、私どもがこういった資料をつくる時は、国際比較のため、ドルや円で書くのですが、ペソと書かざるを得なかった理由があります。

 キューバでは2つのペソが流通しています。1つは兌換ペソ(CUC)で、ドルと1:1で交換できるペソ。もう1つはキューバペソ(CUP)です。二重通貨そのものはいいのですが、その交換レートが複雑……。

 政府の人に聞くと、1CUCは公式には1CUPであると言う。でも、国営の両替所に1CUCを持っていくと、24CUPをくれます。どういう勘定の時にどういう交換レートになるのか、実はよく分かりません。CUCをCUPに替える時のレートが1:2のこともあれば1:5、1:10、そして1:24のこともある。経済情勢を探るのがすごく難しい。

 かりに1:1ですと、969億ペソは約10兆円。京都府と同じくらいの規模です。ところが1:24になると、(969億ペソは40億CUC、つまり40億ドルで)約4000億円。青森県や沖縄県の10分の1です。

 大使時代、「キューバの経済規模はいくらでしょうか」と聞かれる度に、「だいたい10兆円と4000億円の間です」としか言いようがなく、この大使は真面目に仕事をしているのかと呆れられましたが、そういう事情があるのです。

 キューバ出身で他の国に亡命している或る経済学者によると、だいたい1人当たりのGDPが3000ドルくらいということです。私もそのくらいか、もう少し低いかなと感じています。

 いずれにせよ、確たることが言えない。通貨の統合が公約になっていますが、インフレ懸念などのため、未だに実施できていないというのが、キューバの抱える困難の1つと言えます。

憲法改正の動き

 いま旬な話題は憲法改正です。キューバでは、1940年に民主的な憲法が制定されましたが、軍事クーデータでひっくり返された後に独裁が続き、1959年にキューバ革命が起こりました。その後、革命政権下で1976年憲法ができた。以来、微修正はあったものの、基本的には76年の憲法がそのまま生きています。

 8年前、いろいろな世界の動き、国内の動きを踏まえて、改正しようという動きがはじまりました。社会主義国なので、共産党の決めることが1番大事な決定です。そして、その決定は共産党大会で為されます。2011年の共産党大会で、経済政策の修正や、それに合わせた憲法改正への取り組みが決定されました。

 昨年、第1の改正憲法草案ができ、8月から11月までパブリックコメントの募集が行われました。それを踏まえて12月、キューバの国会に当たる人民権力全国議会で憲法案が承認され、今年2月24日に国民投票、おそらく4月19日発布という流れになると思います(キューバでは1961年にアメリカの侵攻部隊を撃退したこの日が記念日になっている)。

憲法改正の目玉

 では、何が変わったのか、変わっていないのか。国民投票はほぼ間違いなく通るでしょうから、過去形でお話しします。

「国のかたち」の根幹は不動です。社会主義国家だということは撤回不能である、憲法改正をするにしてもこの点だけは変えてはいけない、と現行憲法にも書いてありましたが、そこは同じままです。共産党が「社会及び国家の最高の指導勢力」であり、唯一の政党であることも不変です。

 昨年、政権交代が行われたところですが、「国体」は変わらない。良きにつけ悪しきにつけ、キューバという国は安定していると言っていいでしょう。

 憲法改正で変わることの1つは、私的所有権を認めること。キューバでは生産手段の国有が基本なのですが、現実問題としてそう言ってもいられません。実際には不動産を持っている人、お店を持っている人、個人で商売をしている人などがいます。いままで憲法上は何も規定していなかったので、それを追認するような形で私有を含む所有権を認めよう、というわけです。詳細についてはこれから法律で定めることになります。

 次に外国投資を国の経済発展にとって「重要な要素」と認めること。社会主義の建前上、本来すべての企業は国営のはずですが、外資に頼らないとできないこともある。但し外資があくまでも補完的な位置付けであることはこれまで通りです。外資が大きな製鉄所をつくるとか、流通の大部分を担うとかいうところまでは想定していません。それでも憲法上一定の役割を認められるのは、結構な意識改革です。

 3番目は政治制度です。現在、キューバの立法府は人民権力全国議会で、その上に国家評議会が乗っかっています。一方、政府は閣僚評議会で、この両方の評議会議長をフィデル・カストロ氏もラウル・カストロ氏も兼ねてきましたし、ディアスカネル氏も兼ねている。そこで大統領と首相のポストを創設し、国家の元首的な役割(国家評議会議長)と政府の長(閣僚評議会議長)の役割を分けようというのが今回の改正の目玉の1つです。

 今後は体制の根本こそ変わらないものの、人事の交代やさらなる若返りはあり得るのかなと思っています。

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