- 2019年03月27日 07:02
福島第一原発で進められる廃炉 作業員癒やすまさかのスイーツ
1/3
未曽有の原子力災害の発生から8年近くが経過した東京電力福島第一原発。ピーク時の約7450人(2015年3月)から減少したものの、現在も一日当たり約4200人の作業員が廃炉作業にあたっている。
原発事故の発生を基点にして30~40年以上と、廃炉完了までは長い時間を要する。そんな重大なミッションを担う作業員のモチベーションを維持するため、東電は第一原発構内の労働環境の改善を推し進めてきた。
防護服を身に付けたままの雑魚寝など、原発事故直後のイメージは根強い。ところが、廃炉作業の現場を取材すると、食堂にコンビニ、構内の大半を簡易な作業服で移動できるようになるなど、作業員を取り巻く環境が大幅に改善された実態が浮かび上がる。
構内に2か所あるコンビニでの売り上げ1位はまさかのシュークリーム。よそとは少し異なる第一原発ならではの事情も見えてきた。

シュークリームをまとめ買い 作業員の疲れた体に好評
多くの作業員が行き交う大型休憩所にあるコンビニエンスストア・ローソン。休憩中の作業員がスイーツコーナーでお目当ての品を物色していた。「10個とか買っていただける。多いと30個とか。作業員のグループの人がまとめ買いするんです」と店長の黒澤政夫さん(43)。
現在の売れ筋1位は「大きなツインシュー」というシュークリーム。税込み113円とお手軽価格で、作業で疲れた体に好評なのだという。
他にも飲むプロテインなどが人気とのこと。店では、作業員の好みを考えながら、軽食として買ってもらえるパンやカップラーメン、おにぎりの種類を豊富にそろえている。飲酒してからの作業を防ぐため、酒類は置いていない。焼却場所の問題などから、通常のコンビニと違って缶やビン類も陳列されていない。

第一原発構内にコンビニができたのは16年3月。黒澤さんはコンビニの開店直後から働いている。「第一原発で働くことの抵抗は全然なかった」。南に35キロあまり離れたいわき市出身で、原発事故前には自身も第一原発で働いたことがあったという。
「今までありがとう」。第一原発の作業を終え次の現場に向かう作業員から、そう感謝を告げられることもある。「お客さんとのコミュニケーションが大切」。少しでも居心地良い環境を作って、気持ち良く過ごしてほしいと心掛けてきた。
そんな言葉をもらうたびに、「特殊な状況下にあるこの店でも、人と人とのつながりは変わらないのだ」と、胸がいっぱいになるのだという。
「過酷な作業に冷や飯」は昔のこと メニュー豊富に温かい食事を提供

コンビニが入る大型休憩所は、鉄骨9階建てで、延べ床面積は約6400平方メートル。事故から4年3カ月たった15年6月に完成し、窓がないために建物内では防護服を着用せずに滞在できる。休憩やミーティングのためのスペースのほか、シャワールームも備え、作業員を取り巻く環境は飛躍的に向上した。
そんな中でも、大型休憩所の完成による最大のメリットは食堂ができたことだ。作業員はそれまで、通勤途中にコンビニで買ったり、滞在先の宿舎などで渡されたりする弁当やおにぎりなどを持参するしかなかった。作業の唯一の楽しみともいえる昼休みにもかかわらず、口にするのは冷めた食事。そんな状況が続いていた。

食堂の営業時間は午前10時から午後2時半と、午後5時半から午後6時半までの二部制だ。昼食は毎日、カレーや麺類など5種類から選べ、どれも1食380円。
第一原発を取材した1月上旬、この日のメニューは、「五目あんかけラーメン ちくわとこんにゃくの炒り煮」「タンドリーチキンカレー チョレギサラダ」「白身魚の南蛮ソースタルタル じゃがいもの煮物」などだった。
五目あんかけラーメンは、十分な量の野菜にあんかけがしっかりと絡み、スープも本格的で、他の社員食堂や大学の食堂と比べても何ら遜色のない味だ。「事故当初は、がんばるモチベーションを維持するのも難しかった。食事も温かいものがとれない中で、過酷な現場に入る状況が続いていた」と東電の広報担当社員は振り返る。
廃炉作業の最前線にいながら、温かく調理された食事をとれる。作業員の食事面を見ても、原発事故直後から大きく変わったことを実感した。