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ディープな黒人音楽ファンのつもりが、ただのサブカルくそ野郎とバレてしまった夜

NYCでもLAでも、毎晩どこかしらでオープンマイクが開かれてるくらいポピュラーなイベント。ラップオンリーからハードロック系やフォーク系までハコごとに傾向があるので、下調べが結構重要。(Photo by Gen Karaki)

音大は出たものの、あてどないドサ回りに明け暮れる元編集者の中年ミュージシャン。そんな彼がアメリカまで来て直面したのは、現地感覚とはかけ離れた自分の音楽遍歴で……。

※この記事は昨年9月25日発売の『Rolling Stone JAPAN vol.04』内、「フロム・ジェントラル・パーク」に掲載されたものです。

なんだかダメっぷりを晒してばかりのこの連載、今回も明確なしくじり話でして、そこそこ時間が経って傷が癒えてきたので書きますけど、仕事クビになりましてね。正確にはクビ以前っていうか、試用段階でサヨナラって話なんですけど。

どんな仕事かというと、オープンマイクのハウスバンドです。オープンマイクというのは素人のど自慢ナイト、もしくは生伴奏カラオケスナックって感じでしょうか。我こそはというお客さんが名乗りを挙げ、もしくは順番待ちリストに書き込み、歌いたい曲を宣言して存分に歌いあげてもらうイベントです。

私がトライしたのは、ブルックリンのなかでも特に真っ黒なエリアのR&B呑み屋でした。友達からそこのハウスバンドのベースが抜けたって聞いて、バンマスに会いに行ったわけです。「ワタシ、ベース弾く。ブラックミュージックとてもスキ、ゆえに移住してきたネ。ワタシ伴奏シタイ」。

渡米して2年半が過ぎたのですが、自分の英語がいまだこのレベルのカタコトだと思うと死にたくなりますね。つらい現実です。さておきバンマスはいい人で、「そうか、どんな音楽が好きなんだ、70年代は知ってるか」と聞いてくれたので、それならこちらも1オクターブ高い早口で答えようってもんです。

「もちろんカーティスもスティーヴィーもダニー・ハサウェイも最高だけど、ビル・ウィザーズとギル・スコット・ヘロンは特別かな。基本はクワイエット・ストームみたいなメロウなフィールが好きで、だけどファンカデリックもヘッドハンターズも聴くよ。フィメールならミニー・リパートン、ジーン・カーン……」

バンマスがわかったわかった、とばかりに「じゃあ80sは? 好きな曲を教えて」。「80s? エムトゥーメの『Juicy Fruits』でしょ、B.B.&Q.バンドの『On the Beat』、RAHバンド『Sweet Forbidden』、GAPバンドはやっぱ『Outstanding』。ラモン・ドジャーの『Playing for Keeps』、シャーデーなら……」「OK、OK。来週火曜日、楽器を持ってきて」

とりあえず一次関門は突破っぽいです。レコ屋、DJ、ライターのみなさんと比べればだいぶん貧しい知識ですけど、リスナー歴だけは無駄に長いわけで、マニアと思われるのも不本意なので言わなかったけど、ケブ・ダージ的なノーザンやレア・グルーヴだって、ひと晩語れる程度には聞いてきた自負があるわけです、ええ(伏線)。

というわけでお試しの日が来たわけですが、この仕事、どこに難易度があるかといえば、お客さんがその場で「あれ歌いたい」と言った直後にイントロが始まる、完全ぶっつけなところです。以前紹介したGBは事前に曲目リストをもらえるけど、オープンマイクはほんとにすっぴんを試される。

あらかじめ指定されていたカバーを2曲やったのち、のど自慢タイムのスタートです。ヴォーカルの人がそのまま司会にスライドする仕組み。ハイじゃあ最初の人~、なになにシャカ・カーンの「Aint Nobody」? よかった有名曲です。次の人は「ラップするから適当にブーンバップ」と言うので、バンマスが提示したコード進行をなぞって無事終了。

次の女性がメアリー・J・ブライジ「You Remind Me」をコール。これが地獄タイムの始まりでした。知らなかったんです、恥ずかしい話。バンマスにピアノの手もと見せてもらってなんとか切り抜けました。そしたら今度はデスチャの「Say My Name」。うわー、サビしか知らない。「ヴァースのコードなんだっけ」って聞くと、立て続けなこともあって「ヘーイ、ビヨンセだぜ」と呆れ顔をされてしまいました。

さすがに大丈夫なコモンの「The Light」とメアリー・J・ブライジ「Real Love」を挟んで、次の人はSWVって言ってる。マズい。SWVって「Rain」「Weak」しか知らない。コールされた曲名は「Im So into You」。聴いたことある気もするけど、どんなだったっけ......。あやふやなまま曲が始まってしまい、オタオタしてたらバンマスが「おれがベースライン弾くから弾かなくていい」と。

いやな汗でびしょびしょです。けど次の男性が「マイケル・ジャクソン」と言ったので救われた~、と思ったら曲名が「Butterflies」。ファッ?! 帰りに調べたら2002年のシングル曲です。もうあまりのいたたまれなさに記憶もあやしいのですが、「あんな知識をまくし立ててたのにマイケルも知らないのか」的な視線を受けながら、残りの1時間ちょっとを過ごしました。

楽器を片付けているとバンマスが肩に手を回しながら、笑顔で「グッジョブ。来週からは客として来てくれたらうれしいな」。デスヨネ~。

これどういう話かというと、まず呑み屋のお客さんって30~40代がボリュームゾーンで、彼らがカラオケで歌うのは青春期の思い出ソング、つまり90年代から00年代のチャート曲なわけです。TLC、メアリー・J、デスチャ、ボーイズIIメン。日本で言ったらSPEED、globe、MAX、DA PUMPですわ。

ところがまさにその時期、自分は東京で通な洋楽リスナーを気取っていて、リアルタイムのヒットソングをほとんど聴かないで過ごしていました。正直に言えば、あんなチャラいの聴けんわ、なんて敬遠してたんです。それで古いレコード、特にレア盤とされる音源ばっかり気にして、サバービア・スイートのディスクガイドをめくりながら、FUNK45の再発ドーナツとかを買って過ごしていた。

それはそれで楽しかったけど、そのスノビズムの薄っぺらさ、黒人音楽ファンとしての基礎グラグラっぷりを、この年になって突きつけられたのが今回の一件だなーと思っています。

映画でいうなら、ジャック・リヴェットやロメールはもちろん、フェリーニにトリュフォー、キアロスタミやクストリッツァ、もしくは溝口や成瀬なんか見てはシネフィルを気取ってるけど、『インディ・ジョーンズ』や『ロボコップ』をろくに見てないサブカルくそ野郎のことを想像してみてください(恐ろしいことに、これもまた私のことです)。

バスに乗って帰る道すがら、腕前だけでのしていけるほど楽器うまくないし、ど真ん中のレパートリーも知らないサブカルくそ野郎だし、もうほんとに自分は通用する要素がなんもないな、無だな。と打ちひしがれていました。たぶんアメリカに来ていちばん落ち込んでいた。

なんですけど、立ち直りました。帰ってから、さっき知らなかったヒット曲をググって耳コピしてたら、ぜんぶ素晴らしくて。楽しくなってきちゃって。音楽で受けた傷は音楽によって癒されねばならぬ。なんてどこかで聞いたような話だけど、空っぽならこれから埋めてくよろこびがあるってことで。そうでも思わんとやっていけん!

唐木 元
ミュージシャン、ベース奏者。2015年まで株式会社ナターシャ取締役を務めたのち渡米。バークリー音楽大学を卒業後、ブルックリンに拠点を移して「ROOTSY」名義で活動中。最近自宅の近くに事務所兼スタジオを借りまして、セントラルパークをもじって「GENTRAL PARK」と名付けました(GENTRALは「寝ぼけた」という意味のスラング)。twitter : @rootsy

◾️バックナンバー
Vol.1「アメリカのバンドマンが居酒屋バイトをしないわけ、もしくは『ラ・ラ・ランド』に物申す」
Vol.2「職場としてのチャーチ、苗床としてのチャーチ」
Vol.3「地方都市から全米にミュージシャンを輩出し続ける登竜門に、飛び込んではみたのだが」

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