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竹中平蔵「稼ぐことが厳しく求められる」

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■○○産業という分類に、意味がなくなる時代へ

しかし、実は海外の専門家から見ると少し奇異な感じもあります。今まで何もしなかったのに、急ごしらえの制度が、拙速なのではないかと。そんな指摘が出ているのも事実でしょう。

外国人労働者の受け入れ制度については、これから政省令などで実務面を決めていくわけですが、実は相当手続きが面倒になる可能性がある。そんなに急激に手続きが簡素化されるようなものではないと思いますので、間違いなく、当面の人手不足は相変わらず続くでしょう。

一方、AI、ロボットに労働力を置き換えるという流れは強い勢いでこれからも進む。恐らく18年より19年のほうが、そうした動きがもっと明確に出てくると思います。AIやロボットに置き換えられる分野は「○○産業」というのではなく、あらゆるところに出てくると思います。

よく言われることに、「トヨタのライバルはどこだ、グーグルだ」「パナソニックのライバルはどこだ、グーグルだ」というものがあります。これは、○○産業という分類がほとんど意味を持たないということを意味しているわけで、すべての産業でデジタル化が進み、ビッグデータ化され、AIが判断するという動きが出てきて、思わぬ異業種間の競争が起こる可能性があります。

だからある分野では職を失う人が出てくる半面、新しいビジネスが新たな雇用を生むし、伝統的な職業でも人手不足が続くと予想されるものもあります。自動車ドライバーがそれです。AIを使い自動走行の開発が進められていますが、この1、2年では完全な自動走行は無理でしょう。その間大幅な人手不足が続くわけで、全体としての労働力不足というのは、短期的にはそんなに解消されないでしょう。

TOPIC 4【米中摩擦】
摩擦が続けば夏のボーナスに影響か。日本が担うべき役目とは

■対立は、技術覇権をめぐる戦いに発展

18年は米中貿易摩擦が予想以上に激化しましたが、19年は対立に新たな要素が加わり、一層深刻化しそうです。19年の世界経済にとって最大のリスク要因となるでしょう。

米中の対立には2つの要因があります。1つにはトランプという人が大統領になったことです。その背景には所得格差がいきすぎて、米国社会が分断されてしまったことがあります。低所得層で不満を持つ人たちが、自分たちに不幸をもたらしたのはメキシコ移民だとか、中国製品だと言って、それらを悪者にしてしまう。その不満がポピュリズムを表舞台に押し上げトランプ大統領を生みました。大統領は今、彼らの代弁者として諸外国と代理戦争を行っているという構図です。

もう1つ重要なことは米中貿易戦争の中身がここへ来て大きく変わってきたこと。当初は製品やサービスという貿易そのものを問題にしていたのが、技術覇権をめぐる新たな争いになってきています。

中国は国家資本主義の名のもと個人情報保護など気にせずに、ビッグデータを集め、それを活用して技術力を高めてきている。例えばネット通販のアリババグループで決済業務を担うアリペイの会員は実に6億人もいます。今こうした中国のシステムが、アジアにも広がろうとしている。つまり今までの資本主義と国家資本主義の対立が第4次産業革命をめぐる主導権争い、ビッグデータとAIの存在によって、一気にクローズアップされたということです。

■世界経済の成長率は、一気に約1%下がる

米中貿易戦争に代表されるようないわゆる保護貿易がさらに広がると、これは世界の経済成長率にとって非常に大きなマイナスになります。つまり、現在、世界経済の成長率が3%台の後半ですけれども、一気に1%くらい下がる、とIMF(国際通貨基金)のエコノミストが予測しています。

GDPが、約19.4兆ドルの米国と12兆ドルの中国の成長率が1%下がっただけで、約3140億ドル(約35兆円)の需要が失われるので、日本や韓国、アジア諸国の景気にも大変な悪影響が出ます。不況に陥り、我々のボーナスだって減るかもしれません。

それから日本の場合は、トランプ大統領の保護主義が飛び火して、自動車がやり玉にあがると大変です。アメリカの貿易赤字のうち、約半分を中国が占め、日本のウエートはわずか1割弱。ただし、そのうち8割を自動車が占めており、すごく目立つからです。

時事通信フォト=写真

米中という世界の2大国が対立して身動きが取れなくなった今、日本はどうすればいいのでしょうか。これまでルール作りを先導していた米国が自国第一主義を掲げていなくなってしまいました。中国自身もルールメーカーにはなれません。

こういうときこそ逆に日本の役割は重要です。今日本は「ルールシェイパー(ルールを形作る人)」の役割を果たしつつあります。米国が抜けた後のTPPもまとめたし、EUと経済連携協定も結びました。こう考えると日本は重要な役割を果たしていると思います。

TOPIC 5【高齢化社会】
団塊の上の世代が後期高齢者に。そして第4次産業革命へ

■自分で稼ぐことが、ますます厳しく求められる

日本は世界一のスピードで高齢化の進む社会であることは周知の通りです。しかしいまだにその少子高齢化の社会に適した社会システムが完成しているとはいえません。25年には団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者になるため改革は待ったなし。一方、高齢化の進む社会でいかに活力のある社会を維持するかも大きな課題です。

PIXTA=写真

基本的には、合計特殊出生率が2.07か2.08ないと人口は減っていきます。日本の出生率は17年で1.43と非常に低い。その一方で、医療の進歩があって、長寿になっていくということを考えると、少子高齢化が反転することは考えられません。

こうした状況下で、我々はどうしたらよいか。社会保障の仕組みは自助、共助、公助という考え方の組み合わせです。自助というのは自分でやる、共助というのは保険、公助というのは税金です。高齢化に合わせて、公助が増えていくということは、働く世代の税金が増えることを意味しますから、限界が来ます。そこで自助、自分でやる、自分で稼ぐということがますます厳しく求められてくるのです。

■新しい元号で気持ちをリセット、変更に備える

社会保障制度の改革も本格化してくるでしょう。25年には団塊の世代が全員後期高齢者になるため、これまで以上に、いろいろな意味で後期高齢者に多くの予算が必要になってきます。

だれもが25年になると大変だと言うのですが、それは25年になると団塊の世代が全員後期高齢者になるから大変だと言っているにすぎず、実は、団塊の世代の最初の年代層が後期高齢者になるまでに、制度改革を果たしておかないといけないのです。その意味で、19~20年は、制度改革を実施する大変重要な年だと思います。

社会保障改革はやらなくてはいけないのですが、まだ十分には改革されていません。恐らく政治的には、19年7月の参議院選挙を経てから、改革の議論が本格化し、大変重要になってきます。

また、19年5月には新天皇が即位され、元号が新しくなります。元号制というのは、現代では日本独特の制度で、実は大和時代から奈良時代の最初ぐらいまでは、改元ばかりでなく遷都もしていました。それほどまで新天皇が即位されるということは、日本国民にとって一大イベントだった。その意味で、新たな元号の時代には、気持ちをリセットして、新しい変化に備えるといういい契機になると思います。

日本の努力次第ですが、恐らくもっと大胆に変わらなければいけない時代になる。新しい第4次産業革命の下で、今まで繁栄していた企業が一気に基盤をなくすこともあるし、逆に今まで想像もしなかったような企業が出てくる可能性もあります。

99年に設立され14年にニューヨークに上場したアリババという中国のネット通販企業は、日本最大のトヨタの約2.5倍もの時価総額がつきました。平成の時代にもそういうことが起こったし、その変化は今後もっと早くなる可能性があります。

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竹中平蔵(たけなか・へいぞう)

1951年、和歌山市生まれ。一橋大学経済学部卒業後、日本開発銀行、慶應義塾大学総合政策学部教授などを経て、2001年小泉内閣の経済財政政策担当大臣に就任。09年パソナグループ会長。16年東洋大学国際学部教授、慶應義塾大学名誉教授。近著に『この制御不能な時代を生き抜く経済学』など。

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(経済学者 竹中 平蔵 取材・構成=原 英次郎 撮影=村上庄吾 写真=時事通信フォト、PIXTA)

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