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新発見の「元号案」は本物かダミーか?

「平成改元時の候補20案のメモ発見」というニュースが報じられていますが、個人的には、額面通り受け止めて良いものか戸惑っています。「案」と呼ぶ以前の、個人的な走り書き程度のものではないのか、あるいはダミーとして用意された案ではないのか、と感じます。どうにも元号として不適当なものが目立つのです。

今回発見されたのは、目加田(めかだ)誠九州大名誉教授のメモです。以下、毎日新聞の記事『「修文」「普徳」「天昌」など、平成改元時の元号候補20案、目加田名誉教授のメモ発見』(2月16日配信)から引用します。

『便箋と原稿用紙など9枚に、解読できないものも含めて20を超える案が書かれていた。このうち「普徳」「靖之」「靖和」「天昌」「修文」など10案には、出典とその該当部分も記され、政府への提出に先立つ最終段階の案とみられる』

 なぜ、私がこれを目加田氏が用意したダミーではないかと疑うのか。それをお話しする前に、同じ記事から別の部分を引用しましょう。

『前回の改元は学者から集めた「平成」「修文」「正化」の3案を、有識者懇談会などに諮って決定した。当時の元号担当だった的場順三内閣内政審議室長によると、「平成」は山本達郎東京大名誉教授(東洋史)、「修文」は目加田氏、「正化」は宇野精一東京大名誉教授(中国哲学)の案』

 実はこの時、関係者の間では最初から平成に決まっており、修文、正化の2案は当て馬だったとの見方が強いのです。出来レースだったというわけです。なぜなら、修文、正化は頭文字のアルファベットが昭和と同じSだからです。

役所や銀行、病院等の用紙に生年月日の記入を求められるとき、「M・T・S・H」のどれかに丸をつける、という書式をよく見ると思います。コンピューターのシステムでも昭和63年をS63、大正10年をT10等と登録するケースは少なくありません。普通に考えると、頭文字がM、T、Sでは有力案となり得ません。

おそらく元号作成にかかわった学者の方々は、原案のさらに元になる素案を考えるときから、頭文字について考慮していたはずです。また、わかりやすさという観点から、常用漢字表に含まれるか否か、過去の元号との重複があるか否かについても、頭の片隅にはあったと思われます。

では、今回の各案を見てみましょう。報道されているのは「普徳、靖之、靖和、天昌、修文、大猷、允徳、修和、恭明、敬治、純熙、長道、天休、和平、成孚、永孚、大明、成文、大有、大成」の20案です。このうち何と13案は頭文字がSかTです。大の文字を含む案すら4つあります。直前の「大正」と同じ字を使い回すのはあまりに不可解です。

残り7案は「普徳、允徳、恭明、敬治、純熙、和平、永孚」です。しかし、一般名詞として多用される「和平」はあまりに異様だし、「和」の字が昭和と被ります。「孚」は常用漢字どころか人名漢字にも入っておらず、「允」や「熙」は常用漢字外です(人名漢字には含まれる)。

すると、残るのは普徳、恭明、敬治くらいですが、恭明と敬治はやはり「明治」と一文字ずつ被ります。少なくとも明治以降の年号と被る字は避けるのが常識的な配慮ではないでしょうか。結局、消去法で残るのは「普徳」くらい。他は有力候補にはなりそうもありません。

「普徳」というのは、なかなか良い案だったかも知れません。「普」は過去の元号や天皇の諡号には使われたことがなく、その評価はよく分かりませんが、「徳」は元号、諡号とも使われている座りの良い漢字です。気になる点としては、「ふとく」という読みが「不徳」と重なることです。学者によっては嫌うかも知れませんが。

いずれにせよ、20案中19案が不適当となれば、これを

『政府への提出に先立つ最終段階の案』
と見なすのは無理があるのではないでしょうか。せいぜい個人的な「頭の体操」というレベルで漢籍から抜き出した走り書き程度と思えるのです。

また、どうも過去の例を見ると、改元の際に情報漏洩対策としてダミーを用意しているふしがあります。前述した平成改元時の「修文、正化」もそう思えるし、昭和改元時の「光文誤報事件」もおそらくダミーだったでしょう。

光文誤報事件とは、昭和改元の直前(大正天皇崩御の直後)に、東京日日新聞(現在の毎日新聞)が『新元号は「光文」』との誤報を打ち、編集部門のトップであった編集局主幹が辞任に追い込まれた事件です。これについて「光文が漏洩したため、昭和に差し替えられた」との説もあるものの、考えにくいです。

なぜなら、詳しく述べる紙幅はありませんが、「光」という字は天皇への諡号としては不吉だからです。一世一元の制では元号と諡号が同じなので、「元号として適当だが諡号として不適当」な字は使えません。江戸時代以前とはそこは決定的に違います。

昭和改元の際、当初案には「明保」が含まれていたとされています。明治から15年しか経っていないのに、同じ「明」の字を使うのは不自然ですから、当時からあえてダミーを混ぜておく慣習があったのではないか、と深読みしています。

さて、次の年号はどうなるのでしょう。興味深く待たせていただくことにいたしましょう。

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