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中国のコメ生産は収量で日本を圧倒するも、大規模農場で日本の技術が求められる理由 - 山口亮子(ジャーナリスト)

日本のコメ生産は、国が主導して生産量を抑制する生産調整が長年続いたため、反当たりの収量(反収)が低い。中国では、反収の高いF1(雑種第一代)の種が普及していて、収量は日本の1.3~1.4倍ほどあるという。収量の面では日本の稲作が大きく引き離されている一方、技術指導で中国の大規模生産の現場で引っ張りだこの農家が、新潟県加茂市にいる。数千ヘクタールの技術指導に関わる石附健一さん(株式会社ライスグローワーズ)に、なぜ日本の技術が重んじられるのか聞いた。

黒竜江省での田植え(2018年、石附さん提供)

中国の今の稲作の基礎をつくったのは日本人

―― 中国に関わるようになったのはいつ頃 

私が最初に中国を訪れたのは1982年。中国の今の稲作の形態をつくったと言われているのは、日本の稲作の普及員。北海道の原正市さんと、岩手の藤原長作さんで、二人が寒冷地での稲作を飛躍的に伸ばした話は、中国では超有名。この方々は70年代末から80年代にかけて中国の東北部に入って、稲作を指導した。

高粱やトウモロコシ、ジャガイモよりも、コメの方が生産効率も、エネルギー取得の効率もいい。そしてもちろん、コメを作った方が農家は稼げる。そのため、稲作が飛躍的に伸びた。私は当時、父と一緒に、自費で中国に渡って指導していた。当時の中国はお金がなかったから。

―― 今と昔では水田は変化している

昔と全然違ってきている。かつては「勘弁してくれ」と思うような田んぼに連れていかれて、「これを何とかしろ」と言われることがあった。田んぼの端がまっすぐでないような、土地改良のされていないところが多かった。中国の稲作というのは、まだまだ未開な分野で、いまだにびっくりすることも多い。いつ良くなるんだろうと思う。ただ、前に進んでいるのは確か。

黒竜江省方正県にある稲作博物館では藤原長作さんの功績を顕彰(石附さん提供)

指導しているのは、黒竜江省、吉林省、浙江省、江西省。中国の昔の大型農場というのは、どこかの行政区の飛び地か、刑務所か軍の関係する土地が多い。我々は、たとえば上海市が浙江省に持っている飛び地といったところから、指導に呼ばれる。大型農場だと、ドローンが飛んでいたり、田植えをしない直播がされていたりと、先進的な技術が取り入れられている。

日本式の栽培で地域一の収量達成


石附健一さん

今、黒竜江省チチハルの北にある甘南という、もともと日本人が開拓した場所に入っている。この場所にかかわって2年がたって、昨年の春に日本式の植え方を40ヘクタールほど指導した。現地の人がやってくれたのは、私のやりたかった植え方の半分くらいの精度だったけれども、その地域で一番の生産量を達成した。一般的にアジア圏の稲作は、種もみをたくさん入れて、肥料をいっぱい入れれば取れるというふうな、科学に基づいて稲を見ていない作り方がかなり多い。中国も同じ。

我々がモデルを示し、いずれはその技術を水平展開していく。そのために、甘南では我々も出資して合資会社を作って、自社農場を徐々に広げる。管理をするのは現地の作業者で、私は一度、作り方を実演して見せて、「あなたたちがやるのを私が監修する」という立場。

日ごろの管理は、画像で送られてきたりするので、それを見て指示を出す。時々現地を2日ほど訪れて、教えた通りに作っているか確認して指導する。大きい農場なら、10日に1回くらいの頻度で生育調査をしてデータを送ってきたり。農場の規模と作業者によって、管理の方法はそれぞれ。

江西省の省都の南昌で、今は1枚2反(20アール)以下の田んぼを1ヘクタールちょっとにする事業にもかかわっている。6000ヘクタールくらいを基盤整備する予定。

5000ヘクタールを指導

―― 6000ヘクタールというと、大変な広さ

そんなことはない。中国で管理する水田を把握しようとするときには、ムー(中国の面積の単位。畝。1ムーは1ヘクタールの15分の1)とか、ヘクタールではなく、基本的に縦何キロと横何キロで考える。面積を言われても、広大なので、「縦15キロと横20キロ」とか。指導するのは、新規に開発した土地が多い。

私は、土地改良や育苗施設の簡単な設計をし、実際の運用もする。彼らが、私の教えたものに改良、改善をしなければ、大丈夫。改良、改善が好きなので……。

中国で私の教えたやり方で作付けしている面積は、5000ヘクタールくらいしかない。そんなに大した面積ではない。

中国のコメの平均収量は日本の1.3~1.4倍程度。面積当たりの生産量は日本よりもはるかに多い。南の方で栽培されているのはほとんど、従来からある固定種ではない。中国のF1(雑種第一代)の稲の栽培面積は85%とされている。日本で1反(10アール)600キロ程度のところを、もみの状態で1トン、もみを取った状態で800キロ程度はある。F1の品種は、それぞれの省が開発したもの。種の値段は恐ろしく高い。

普及した理由は、少子高齢化で田舎ほど過疎化が進んでいて、収量を高めないと必要量が賄えないという考えがあるから。田舎は人手がないから、簡単に取れるコメを求め、F1が異常に伸びた。F1のコメは、まずい。買取価格は固定種より安くなるが、収量が高いので農家の収入は上がる。

清華大学で地方出身の農家リーダーに日本農業と中国農業の違いをテーマに講演したときの様子(2017年、石附さん提供)

中国でもコメは生産過剰に

ただし、中国でコメはすでに生産過剰になっている。豚の飼料になっているくらいで、生産抑制に入っている。コメの買取の基準価格は、長粒種も短粒種も、キロ当たり0.2元つまり2角ずつ下がった。

今は、砂漠のようなかつて米を作っていなかったところでも稲作を始めている。そういう地域で、何百万トンというコメが新たに出てくる。日本の需要量は年間750万トン程度。その一国分くらいを数年で作ってしまうのが中国。環境は変わっている。

―― 栽培指導で求められていることは

日本のような機械化体系を取り入れたがっている。大規模な農場では、科学的な管理をし、どうすればコストダウンできるか、収量が上がるかを指導する。毎年、1、2カ所から声がかりがある。

食味を向上させるための指導は、今はまだ求められていない。ただ、今後農場でブランドを作って独自に売るとなった場合、ほかの国なら品質が良いからと2、3割高く売るようなところを、中国だと2、3倍の値段で売る。そうなると、それに見合った品質、品格のものを出さないと、リピーターがつかない。リピートして食べてもらえる商品を出す。それが次のフェーズ。

黒竜江省での稲刈り(2018年、石附さん提供)

良食味のコメ、固定種を広めたい

我々はそこを目指してやっている。良食味のものをつくることが、本当の仕事だ。ただし、中国人と日本人のおいしいと思う感覚は違う。中国人のおいしいと思うコメを作らないといけない。中国人からすると、今日本で主流のコメは「ベチャベチャしている」となる。もっと硬くないといけない。

江西省から石附さんに送られた友誼賞(本人提供)

―― 今後中国でしたいことは

中国の人が固定種で平和に稲作できるような環境ができればいいと思う。関わっている地域では、固定種があっても誰も種を採取しない。一農場で、種もみだけで何千トンにもなるから、自分で種を取るのが面倒だからやらない。ただ、10人なり20人、農家を確保して作らせれば、種もみの確保はできる。それなのに、やらないのが不思議。

人間、一度科学に頼る側に行くと、やりやすくて簡単だから、そっちに流れてしまう。なかなか元に戻すのは難しいと思う。そうではあるけれども、科学に頼らなくてもできる世界が実現すればいいんじゃないかと思っている。

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