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4コマギャグの「人間賛歌」:業田良家『自虐の詩』 - 高井浩章

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小気味よいリズム感

 未見なのに評価を下すのはフェアではないが、私が「映画では再現不可能だろう」と感じるのは、この離れ業がマンガという表現手段、それも4コマギャグ漫画という縛りのきついジャンルだからこそ、可能なものだと考えるからだ。

 「ストーリー性が強い4コマ漫画」には、ちょっと思いつくだけで『ぼのぼの』(いがらしみきお)や『あずまんが大王』(あずまきよひこ)など、マンガ史に名を残すであろう作品があり、特異な手法ではない。むしろ、いわゆる「日常系」などを含めて定着したジャンルになっていると言っていいだろう。

 これは、4コマ漫画の特性がある種のストーリー展開において有効なツールになりうるからだろう。4コマ漫画は、通常のマンガの演出の肝である見開きや「コマ割り」が使えないという制約を背負っている半面、「4コマで一区切り」という縛りが作品の進行と読者の読むペースに自然なリズムをもたらす強みを持つ。

 『自虐の詩』でも、前半のギャグ主体の部分はもちろんのこと、後半部分でもこの小気味好いリズム感は大きな武器になっている。ストーリー漫画なら1話分に相当するエピソードが、4コマあるいは8コマ単位の怒涛のリズムで畳みかけられる。

 「均等なコマ割り」という制約を逆手にとった名場面もある。「熊本さんのロングショット」と言えば、ピンとくる方がいるかもしれないあるシーンは、見開きや大ゴマではないからこそ、胸に迫る描写になっている。私は毎回、ここで「もうだめ」となってしまう。

 なお、正確に言えば、本作には半ページの大ゴマを含む「5コマ漫画」が数本置きに挿入される。前半はこの「大ゴマ」に特に存在感はない。だが、クライマックスに入ってからの数枚は、この「大ゴマ」の1枚絵が素晴らしい効果を上げている。

再読するたび出る「味」

 そして、『自虐の詩』を名作たらしめているのは、こうした「4コマ漫画マンガならでは」の巧みな作劇術を用いながらも、ストーリーテリングではテクニックに走らず、真正面から「人間」を描いている姿勢だ。

 未読の方々のためにこれ以上、余計なことは書きたくない。「まずは黙って読んでくれ」としか言えない。あえて野暮な解説をするなら、優しさと残酷さ、勤勉と怠惰、決心と迷いなどなど相反するものが同居する、どうしようもない人間の本性と、絶望と救い、幸と不幸が綾なす人生のタペストリーが、下手な小説など及びもつかない深みをもって語られる。いや、やはり、こんな言葉は野暮だ。とにかく読んでほしい。

 蛇足ながら、この作品の連載期間が1985年から1990年までで、『BSマンガ夜話』に取り上げられ、映画化につながるブームのきっかけとなったのが2004年だった、という事実が個人的には非常に興味深い。日本がバブルの絶頂に駆け上がる時代に貧困をテーマにした作品が描かれ、「失われた20年」のボトムに近い時期に「再発見」されたわけだ。このタイムラグは、作者・業田の持つ普遍性と先見性、日本社会の価値観の変遷を映し出しているように思える。

 竹書房の文庫版なら上下巻でわずか1200円ちょい、マンガを読みなれた人なら1時間もあれば読み通せてしまうコンパクトな作品だ。しかも、歳を重ねて再読するたび「味」が出る。手元に置いておいて損はないと自信をもって保証する。

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