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薬物依存症は「ダメ、ゼッタイ。」では防げない、効果的な治療法とは? 『薬物依存症』松本俊彦氏インタビュー - 本多カツヒロ (ライター)

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覚せい剤や大麻といった違法薬物の使用や所持で逮捕された有名人がワイドショーなどの恰好のネタとなる。その際に想起されるイメージは廃人やゾンビのような姿ではないだろうか。しかしながら、マスメディア関係者も含め、多くの人は一生のうちに一度も生の薬物依存症患者に会うことはない。かれらの実態とはいかなる姿なのか。『薬物依存症』(ちくま新書)を上梓した国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦・精神保健研究所薬物依存研究部部長兼依存症治療センターセンター長に、薬物依存症者の実態や治療、政策的な問題点などについて話を聞いた。

(LeszekCzerwonka/iStock/Getty Images Plus)

――少し前に人気ドラマ『相棒』に登場した薬物依存症の「シャブ山シャブ子」が、薬物依存症者の実態とかけ離れているとして「依存症問題の正しい報道を求めるネットワーク」から抗議を受け問題になりました。しかし、多くの人にとって特に覚せい剤を使用している人たちはゾンビのようなイメージが共有されています。実際には、どんな人たちなのでしょうか?

松本:多くの人は、覚せい剤を乱用している依存症の患者さんというとゾンビ、もしくは暴力団員のイメージを持っているかもしれませんが、実際に診察に訪れる患者さんでそのような人はほとんどいません。外見的にはむしろきちっとした服装をしている方が多く、特に最近はスタイリッシュな人が少なくないですね。

それだけいつも人から自分がどう見られているのかを気にしている人たちなのでしょう。 だからこそ、明らかに見下されているなと感じれば、挑戦的な態度を取る人もなかにはいますが、ごく普通に接すれば、丁寧で優しく配慮のある人たちがほとんどです。

ここ20年ほどセクシャリティマイノリティの患者さんが増えているのですが、かれらの多くは高学歴で高度な専門職に就いています。セクシャリティマイノリティでない患者さんにしてもそうですが、共通しているのは、ワーカホリック気味の人が多いということでしょうか。

それはわかる気がします。というのも、人間にとって一番気持ちの良い経験は、人から褒められることだからです。不遇な家庭環境で育ったり、学校時代にいじめを受けたり、パッとしない学生生活を送った人のなかには、仕事で褒められ、給与が増えることで、初めて人から自分が認められたと感じる人がいます。そして、もっと頑張ろうと思う人がいます。しかし、体力には限界があります。そこで覚せい剤を使い、仕事をさらに頑張ろうとして依存症になる人もいるのです。

――覚せい剤を使うとそんなに頑張れるものなのでしょうか?

松本:個人差があります。覚せい剤を使用してもまったく効かない人もいますし、最初からすごく良かったという体験をする人もいます。いずれにしても、1回の使用で幻聴や被害妄想を体験するかといえば、そんなことは滅多にありません。割と多いのは、眠れなくなったり、食べられなくなったりするという体験です。それを自分にとって好ましい効果だと感じた人は、繰り返し使うようになります。覚せい剤は5~6時間効果が持続し、集中力が増し、少なくとも初期は仕事のパフォーマンスが良くなった気がするでしょう。ただ、その反面、効果が切れると疲労感がひどく、眠りすぎなほど寝てしまう。要は、「元気を前借り」しているようなものです。

ワーカホリック気味の人が多い

――実際の薬物依存者とイメージの乖離はどうして生まれるのでしょうか?


『薬物依存症』(松本俊彦、筑摩書房)

松本:日本は薬物に関してとてもクリーンな国ですから、ほとんどの人たちは一生のうちに一度も薬物依存者と直に接することも、会話をすることもありません。そのことが薬物依存者に対する偏見や差別につながっているように思います。 

それを促進する要因として、中学高校で受けた「ダメ、ゼッタイ。」という薬物乱用防止教育や、1980年代の「覚せい剤やめますか?それとも人間やめますか」という麻薬撲滅防止キャンペーンCMのイメージの影響も無視できないように思います。また、薬物事件で逮捕された芸能人などのマスメディアの報道の影響もあるでしょう。

他にも、凶悪な殺人事件の犯人の薬物使用歴から、薬物依存症に対するネガティブなイメージがあるのかもしれません。たとえば、2016年に起きた相模原障害者施設殺傷事件の犯人には大麻使用歴がありましたが、専門家として断言しますが、彼の優性思想的な考えと大麻とはいっさい関係がありません。それなのに覚せい剤や大麻の恐ろしさと犯罪が一緒くたに議論されています。こうした背景が、薬物依存者に対する間違ったイメージにつながっています。

これは一般の方々だけでなく、医療関係者も同様です。薬物依存症の専門外来が少ないため、医療関係者ですら薬物依存者に接したことがないのが実情です。

――外来には、覚せい剤、大麻などどの薬物依存で訪れる患者さんが多いのでしょうか?

松本:患者さんのメインは、覚せい剤ですね。次に多いのが、違法薬物ではなく、精神科の処方薬の依存症になってしまった患者さん、若い子では市販の風邪薬や鎮痛剤に依存している患者さんもいて、これはこれで見過ごせない状況です。精神科の処方薬でも多くの人は依存症にはなりませんが、複雑な事情が絡み依存症になってしまう人もいます。本来なら、精神科医が処方した薬に依存しているのですから、精神科医自らが診るべきなのですがそうはなっていないので、私のところに診察に来るのです。

大麻に関しては、近年危険ドラッグが一掃され、最近のトレンドとして国内外含め危険ドラッグよりはるかに安全な大麻へ移行しています。国もその動きは察知していて、大麻取締法違反での逮捕者が激増しています。

――大麻については、カナダでは全面解禁され、アメリカでも州によっては医療目的以外での使用も解禁されています。そこでよく耳にするのが、大麻はタバコやアルコールに比べれば、体に悪くないという意見です。この見解についてはどうお考えですか?

松本:半分当たっていて、半分は間違っています。確かに内蔵障害については大麻の方がお酒より軽く、大麻よりもタバコのほうが止めることが難しいと思います。しかし、もともと体質的に脆弱な方、すでに精神疾患を患っている方、あるいは統合失調症の患者さんが近親者にいて、精神疾患に対する遺伝的素因を持っている方は、幻覚や妄想といった統合失調症と同じような症状が出やすい傾向があります。その意味では、長期間使ってきたり、大量に使ってきたからといって、大麻による精神障害ができるわけではありません。ただ、例外的に、未成年のうちから大量に摂取してきた方の場合には、統合失調症の症状が発現しやすいという印象を持っていますが。

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