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【読書感想】なぜ人と人は支え合うのか

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なぜ人と人は支え合うのか (ちくまプリマー新書)

なぜ人と人は支え合うのか (ちくまプリマー新書)

Kindle版もあります。なぜ人と人は支え合うのか ──「障害」から考える (ちくまプリマー新書)

なぜ人と人は支え合うのか ──「障害」から考える (ちくまプリマー新書)

内容紹介
『こんな夜更けにバナナかよ』から15年、渡辺一史最新刊!

ほんとうに障害者はいなくなった方がいいですか?

今日、インターネット上に渦巻く次のような「問い」にあなたならどう答えますか?
「障害者って、生きてる価値はあるんでしょうか?」
「なんで税金を重くしてまで、障害者や老人を助けなくてはいけないのですか?」
「自然界は弱肉強食なのに、なぜ人間社会では弱者を救おうとするのですか?」

気鋭のノンフィクションライターが、豊富な取材経験をもとにキレイゴトではない「答え」を真摯に探究! あらためて障害や福祉の意味を問い直す。

障害者について考えることは、健常者について考えることであり、同時に、自分自身について考えることでもある。2016年に相模原市で起きた障害者殺傷事件などを通して、人と社会、人と人のあり方を根底から見つめ直す。

 
 『こんな夜更けにバナナかよ』の著者・渡辺一史さんが綴った「人と人が支え合うことの意味」。
 渡辺さんは、冒頭で、こんな話をされています。

 私は、この本(『こんな夜更けにバナナかよ』)の取材を始めるまで、障害や福祉の世界にはまったくの素人でしたから、障害者といえば、たとえば、『24時間テレビ 愛は地球を救う』のような美談や感動ドラマのイメージしかありませんでした。また、世間一般でも、やはり障害者といえば、どことなく聖人君子というか、「清く正しく美しい」イメージや、「困難に負けず、けなげに努力する人たち」といった崇高なイメージで語られがちです。

 ところが、実際に取材を始めてみると、そんなイメージとはまったく違った世界だということに気づかされることになります。その最たるものが、鹿野(靖明)さんのキャラクターでした。鹿野さんほど美談の似合わない障害者はいません。とにかく自己主張が強く、まわりのボランティアに対して、「あれしろ、これしろ」と容赦なく要求を突きつけてきます。

 普通、カラダが動かないと、まわりの人に対して、「お世話をかけて」「申し訳ない」といった卑屈な気持ちになってしまうところがあると思いますが、鹿野さんにはそういうところはほとんどなく、むしろ、「障害が重いこと」を逆手にとって威張っているようなところがありました。それから、日々さまざまな要求をまわりのボランティアたちに繰り出してくるわけですが、「タバコを吸いたい」とか、夜中に「腹が減ったからバナナを食べたい」とか、あるいは、「アダルトビデオを見たい」とか、そういった要求もあります。

 いったい、どう考えればいいのか、どう対応すればいいのかわからない、といった状況に多くのボランティアが立たされることになります。
 しかし、考えてみれば、なにも鹿野さんだけが”特別”なのではなく、そもそもメディアなどで伝えられる「障害者像」どおりの障害者など、この世には一人もいないといえばいないのかもしれません。

大切なことは、目の前に横たわる、生身の障害者である鹿野さんとどう向き合い、どうつき合っていけばいいのかをほとほど考えさせられる過程で、じつにたくさんの発見や気づきを得ることができたということです。


fujipon.hatenadiary.com
fujipon.hatenadiary.com

 大泉洋さん主演で映画化もされた『こんな夜更けにバナナかよ』なのですが、取材していくなかで、渡辺さん自身も鹿野さんの日常を支援するスタッフのひとりとして、長い間つきあってきたのです。

 『こんな夜更けにバナナかよ』を読むと、ボランティアたちも聖人君子ではなく、「あまりにもワガママな障害者」である鹿野さんに困惑し、途中で辞めていった人も多かったのです。正直、僕がもし参加していても、すぐに辞めていたと思います。鹿野さんの言動には、モラハラっぽいところもあるし。
 でも、障害者が人生でやりたいことをやるには、強すぎるくらいの自己主張をしなければならない、というのも事実なんですよね。

 著者は、2016年7月に神奈川県相模原市で起こった、元職員による障害者殺傷事件について、さまざまな角度から検証しています。  植松被告は「障害者は不幸を生むだけ」「安楽死させる法制が必要なのに、国が認めてくれない」「日本のために事件を起こした、自分は救世主だ」などと供述したとも伝えられています。

 事件直後から、インターネットでは、被告のこのような主張に賛同する書き込みが多くみられたそうです。

 さて、前述した「素朴な問い(「障害者って、生きてる価値はあるんでしょうか?」「なんで税金を重くしてまで、障害者や老人を助けなくてはいけないのですか?」)」に、いったいどう答えればいいのでしょうか。

 もちろん、本書全体がその答えでもあるわけですが、さしあたって、「障害者に生きてる価値ってあるの?」などと口にする植松被告のような人に対しては、まず最初にこう聞いてみるべきです。

「では、あなた自身は、自分に生きている価値があると、誰の前でも胸を張っていえるんですか? 価値があるとしたら、どうしてそういえるんですか?」と。
 おそらく多くの人は、「うーん、そういわれると、とたんに自信を失うな」と考えるでしょうし、「おまえには生きる価値がない」と他人からいわれたらイヤだからこそ、他人にもそんなことはいわないし、ましてや、殺していうはずがないと考えるはずです。

 しかし、この最も基本的な問いが、植松被告には通用しないのでしょうか。
 実際に植松被告と拘置所で接見をし、手紙のやりとりをしている和光大学名誉教授で哲学者・生物学者の最首悟さんは、こういって首をかしげます。

「そういう考え方や発想を植松被告がもっていないのは、どうしてなのかっていうのが、まずあるんですよね」

 横浜市に住む最首さんは、ダウン症で重度の知的障害がある三女の星子さん、妻の五十鈴さんと暮らしています。専門は環境哲学・いのち論で、かつて水俣病の現地調査団の団長を務めたほか、障害の問題についても深い造詣があり、やまゆり園の事件が起こった直後から新聞やテレビで積極的に発言を行ってきました。

 この最首さんのもとに、植松被告は拘置所から手紙を送ってきて(植松被告は最首さんだけではなく、自分の考えを否定する人やメディアに対して、しばしば手紙を送っているそうです)、そこには、「娘さんを擁護したい親の気持ちはわかりますが、まったく(社会の)問題解決になっていません」と書かれていたそうです。

 そんな植松被告に憤りつつも、最首さんは、彼本人や同調する人たちに向かって、自分の考えを伝えるために、植松被告と拘置所で接見したのです。このときの様子は、新聞記事やNHKスペシャルの番組でも伝えられています。

 さて、実際に会った植松被告の印象について、最首さんはこう語ります。
「普通は、もし同じことが私の身に起こったら、あるいは、自分の親やきょうだい、自分の子どもだったらどうかという発想から、なぜその考え方がダメかということにつながるんですけども、植松青年の場合、その入口の『私の身に起こったら』という発想がどうもできない。それが、精神障害なのかどうかっていうのを、精神鑑定をする医学者が、あんまり扱わないんですね。

むしろ、逆のことをいうんです。逆というのは、植松青年は自己愛が強すぎるのだと。つまり、自分のことばっかり考えてるからというのですが、私が植松被告に会った印象では、違うのではないかと思うんですよ。それが、何かの障害なのかどうかは私にはわかりませんけれども」

 植松被告が、検察側の精神鑑定で「自己愛性パーソナリティ障害」と診断されたことは前述したとおりですが、もし自己愛が強い人間だとしたら、少なくとも「私」という主体を想像できるはずです。
「そう、そこから、自分はどんなことがあっても生きていくぞとか、あるいは、自分を愛するから、清く身を捨てるとかね、そういう考えにつながっていくはずです。ところが、植松青年の場合、じつはそこが遮断されているようだというところを、どうも担当している精神鑑定をする人たちがあまり注目していないみたいでね」

 つまり、植松被告には、当然誰もが考えるであろう、「もし私の身に起こったら」という視点(想像力)が欠落しているようなのです。

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