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1年間、世界名所巡りひとり旅の仕事は甘くなかった!

デジタル、ネット時代になっても、記者は「取材していい記事を書く」のが仕事なので、いつまでも仕事はなくならないのだ、と時代の変化に高を括ったような発言をしばしば見かけます。

そうかもしれません。そうあってほしい。たまにスクープでも飛ばせば地位は安泰ーーみたいな。でも、昨日、読んでいたNYタイムズの記事で、だいぶ、考えが変わりました。

デジタル、ネット時代の新聞記者は、「紙」の新聞に記事を書いてればよかった時代に比べると、何十倍も、それこそドレイのように働かされるんじゃないか。そのことを自覚し、耐える体力と根性がないと生き残れないんじゃないか。そんなことを教えられたような気がしたのです。

前置きが長くなりました。その記事とはこの動画をトップに置いた<1Woman,12Months,52Places>です。

文字通り、女性ジャーナリストが、一年かけて、NYタイムズが毎年、公表している「今年、訪れるべき52の場所」(52というのは年間52週からきているのでしょう)を、駆け巡って、それをリアルタイムで現地から報告するという企画で、昨年から、初めて、現地派遣の試みがスタートしました。

その訪問ルートを表すのが、この動画です。この企画にはなんと1万3千人の応募があったそうですが、選ばれたのはJada Yuanさん、40歳。過去10年、New York Magazineの記者でした。(NYTimes とは関係ありません)

スタートは去年の2月で、ゴールは12月末でしたから、実質11ヶ月で52カ所を全てを飛び回り、その移動距離の総計は74,900マイル=12万500Km=月までの3分の1 でした。

一年中、世界中の観光名所をめぐって暮らせるなんて「夢のような仕事だ。ジャーナリズムの宝くじに当たったようなもの」とYuanさんは当初、思ったそうです。

が、実際はどうだったか。NYタイムズが旅のアレンジをしてくれるわけではありませんでした。自分で効率的な行き先ルートを決め、一番安い航空チケットを自分で探してネット予約、現地での列車の予約もしながら次々と”転戦”する日々でした。

なので、旅から旅への「禁欲的な生活で、4人の親友の赤ちゃん誕生を見損なった」「親への電話も忘れてた」と述懐します。

なぜそうなるか。それはデジタル、ネット時代の記者だからです。「NYタイムズが私に期待することは、美しい場所で多くの時間を私がパソコンの前で過ごすことを意味した」

つまり、彼女に求められているのは、日本の新聞でよくみられるような、カメラマン同伴で観光地などに出かけ、名所を巡って、美味しいものを食べましたーーを、会社に戻ってから推敲して書くだけでは済まないのです。

旅の先々で、もちろん現地の見所やその過程での人との触れ合いを中心にした本文を週一ペースで書き上げますが、それに加えて、毎日のようにNews letterでその日のことも登録読者に発信し、Instagramに自分で撮った写真とコメントをアップし、TwitterFacebookにも、日々のトピックをアップすることが求められるのです。

「オールナイトで記事を書いたこともある。朝一の飛行機に乗り遅れないように3時にモーニングコールで起きたことも度々。だから、どこでも寝た」という生活です。

このように、派遣した記者に過酷なネット発信を求めるのは、NYタイムズが完全にデジタル時代を見据えた経営方針をとっているからでしょう。

そのことがよくわかるインタビュー記事を最近、目にしました。他社では聞いたことのないNYタイムズの<Audience + Platforms >部長、Sam Felix氏の発言です。

「我々の仕事の目的は、外のプラットフォームで獲得した読者をNYタイムズのサイトに連れ帰り、そこでTimesジャーナリズムに夢中になってもらうことだ」「我々のサイトではできないような、とりわけ新しい読者の獲得について外部のパートナーを活用して、Timesの魅力を伝える手助けをする」

そのためにSNSへの投稿を積極的にするよう、Yuanさんにも求めたのですね。ちなみに、YuanさんのInstagramのフォロワーは4万1700人もいます。今回の旅の写真だけを集めた♯52Place2018には、この1年間の旅に限った1645件もの写真やビデオがアップされていて、1万以上の「いいね」がついた写真も少なくありません。(Twitterのフォワーは19,785人、Facebookは2,537人)

YuanさんはFelix部長の言う、外部プラットフォームへの投稿による、NYタイムズへ導線作りに忠実に貢献しているように見えます。

その責務を果たすために、毎晩、奮闘し、「飛行機に乗ればアイマスクも何も使わなくても即、爆睡」というハードワークな日々だったのですが、最後に彼女はこう書きます。

「私はブルックリンに残したアパートに帰るかもしれないが、私の人生の中心はもうそこじゃない。それは動き回ることだ」

彼女は、デジタル、ネット時代の記者の働き方を会得したということでしょうか。少なくとも「過半はデジタル会社に近づいたーその先は明確だ」とNieman Labの記事が指摘するNYタイムズでは、そうした外部プラットフォームも意識した仕事が当たり前になっていくのでしょう。もう「デジタル ファースト」なんて言って済む時代じゃない。

先日、NYタイムズの「今年、訪れるべき場所」の2019年版が公表され、新たな旅人も決まりました。しかし、今年の応募者は昨年の「1万3千人」とうって変わって「数百人の応募」だったとあります。世間の意識レベルの大勢はまだ、NYタイムズのレベルに追いついていないのかもしれないですね。

それにしても、先日、他界された兼高かおるさんが航空会社をスポンサーにし、多くのスタッフとともに世界を巡り始めたのがちょうど60年前。それが、今や、同じようなことを全てを一人でやり、多くのメディアにも露出も考えなければいけない時代になったのですね。ジャーナリストは辛い!

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