- 2019年02月11日 21:38
人類「火星滞在」に警鐘「宇宙模擬実験」の驚愕体験レポート(中) - フォーサイト編集部
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2016年から翌年にかけて火星模擬居住実験「Mars160」に参加した村上祐資さん(40)の前に、個性派揃いのチームが現れた。まさに「過ぎたるは及ばざるが如し」という表現がピッタリな面々。
それを物語るのが、シロクマ対策を巡る以下の顛末である。ただしここで語られるクルーの姿はあくまでも村上さんの視点から捉えたものだということを、予め断っておきたい。
シロクマがデビルのような存在に
「出発前のSkype(インターネット電話)会議で、FMARS基地でシロクマが出た時のルールを決めておこうという話になったんですね。と言っても、誰もシロクマに遭遇したこともなければ、退治したこともないので、本当のところはみんな分からない。それでも調べるのは得意で、問題を棚上げにできない人たちなので、真剣な議論がはじまりました。シロクマがこういう表情や動きを見せた時は、こういう気持ちになっているらしい、こういう時は銃で撃った方がいい、と。すると、どんどん話が極端になっていき、いつしか彼らの中でシロクマがとんでもなく恐ろしいデビルのような存在になっている。僕は“そんなことないぞ~”と思いながら黙って聞いていましたが、議論を重ねれば重ねるほど常軌を逸したチームになっていった」
そして数カ月後、FMARS基地での実験がはじまったのだが、
「火星模擬居住実験ではクルーにさまざまなミッションが課されます。その1つがEVA(船外活動)で、当番の数人が宇宙服を着て外に出て、地質や空気の調査をする。FMARS基地ではシロクマ問題があるので、当番のクルーとは別に1人が警戒役として銃を持ち、見回る決まりになっていました。ただし、その警戒役は本来はいないはずの存在なので、透明人間に徹しないといけない」
その役を最初に買って出た隊長が「超」のつく自惚れ屋であった。
隊長自らルール違反
「初回のEVAで、“この危険な役はまず自分がやる!”と言って意気揚々と出て行ったはいいものの、基地があるのは島の内部の開けた場所。見晴らしがよく、シロクマが現れてもすぐに分かるうえに、そもそもシロクマが頻出するような季節でもありませんでした。すると隊長は、すぐに飽きてしまった。このEVAでは3時間ほど地質調査をする予定でしたが、1時間もしないうちにルールを破り、“そこにいい石があるから、チェックしろ”などと調査中のクルーに話しかけはじめたわけです。しかも本職の地質学者がいるのに、自分の方がいい石を見つけられると思っているのか、あれこれ偉そうに指示を出す」

さすがに呆れられ、ミーティングで追及されることとなった隊長。すると、思わぬ抗弁が返ってきた。
「“透明人間の役はロボットということでどうだ!?”と言うわけです。“宇宙ミッションにはロボットを連れていくよね。そのロボットが銃を持っていることにしよう。ロボットだから荷物も持てるし、新しい発見をすればクルーに指示もできるよね”と。透明人間をロボットにすることで、何でもありにしてしまった。明らかにイライラしているクルーがいて、これはマズイなと思いましたね」
だが、副隊長の村上さんが隊長に異を唱えれば、ともすると「隊長派」VS.「副隊長派」の派閥争いに発展してしまう。
「見本となる警戒役はこれだ、というのを言葉ではなく背中で見せるしかなく、僕が警戒役の時は隊長に別の見本が存在する可能性を示すため、徹底的に空気になりました。慣れれば可愛い人なのですが、まあ出しゃばり。ただ、それを僕が言うとチームのバランスが崩れてしまうので、隊長を立てつつブレーキをかけるにはどうしたらいいか、ということをいつも考えていました」



