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人類「火星滞在」に警鐘「宇宙模擬実験」の驚愕体験レポート(上) - フォーサイト編集部

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米ユタ州の砂漠地帯を「火星」と仮定した実験が行われている(村上さん提供、以下同)

 昨年7月、地球から5700万キロメートルまで大接近した火星。11月には米航空宇宙局(NASA)の無人探査機「インサイト」が着陸し、今後2年ほどかけて火星内部などの調査を行う予定だ。インサイトが捉えた見渡す限りの赤い大地に、期待を膨らませた人も多いだろう。

 NASAが「25年以内に火星有人探査が可能」と発表したこともあり、ここへきて火星への機運が国際的に高まっている。拠点となる月周回宇宙ステーションの建設計画も進行しており、その日は確実に近づきつつある。

 いつか人類が火星で暮らすことも夢ではないかもしれない。その時、最初にこの地に降り立った宇宙飛行士たちは、歴史にどんな物語を残すことになるのか。サクセスストーリーか、あるいは――。

南極観測船を「宇宙船」に

 火星での長期滞在(EXPEDITION)を念頭に置いた模擬実験「SHIRASE EXP.」が、2月23日から3月10日まで千葉県船橋市で行われる。引退した3代目元南極観測船「SHIRASE5002」を火星に向かう宇宙船に見立て、4人の男女が2週間、クルーとして共同生活を送るという。

 4人という人数は、NASAなどの火星ミッションに準じたものだ。それぞれ隊長、副隊長、HSO(ヘルス&セーフティー・オフィサー/健康・安全管理を担当)、エンジニア、ジャーナリスト、ミッションスペシャリスト(専門的な調査・実験を担当)の「役」をいくつか担い、食事は宇宙食に準じたフリーズドライ、飲用水は1人1日3リットル(予備分込み)で、シャワーは4日に1回。

実験の見取り図

 船内を地球エリアと宇宙エリアに区切り、6分間のタイムラグ設けて毎日交信を行う。宇宙エリアはさらに船内と船外(宇宙空間)に分かれ、船内から宇宙空間に出て船外活動(EVA)を行う際は、宇宙服も身につける。本格的である。

村上さんと実験が行われる「SHIRASE5002」

 実験の発案者で、自ら副隊長兼HSOとして参加する極地建築家の村上祐資(40)さんが言う。

「近い将来、どこかしらの国が火星に人を送ることになるでしょう。確かに技術的には、火星に辿り着き、降り立つことは可能かも知れません。ただ、問題はそれ以前の“中”、つまりクルーの心理状態にある。このままイケイケで進むのは危険だということを示すために、このような実験を計画しました」

 もちろん、何の根拠もなく言っているわけではない。詳細は後述するが、彼はこれまで米国の研究団体「マーズ・ソサエティ」が主催する「火星模擬居住実験」に複数回参加し、いかに閉鎖空間での長期滞在がクルーやチームの心理を狂わせるか、間近に見てきた。

 現在、国際宇宙ステーション(ISS)での宇宙飛行士の滞在期間は半年から1年だが、火星ミッションは往復で最低2年半かかると言われる。地球と火星が最接近する時に向かうとしても、往路で8カ月、火星に滞在して再び最接近するのを待つのに1年、復路にまた8カ月。その間、宇宙船と火星基地という閉鎖空間で毎日、同じ顔触れと過ごさなければならず、心理的影響は計り知れない。

 そこで、NASAやESA(欧州宇宙機関)、民間団体などが、世界各地で模擬実験を行っており、その草分け的存在が200回超の実験を行ってきた「マーズ・ソサエティ」なのである。

「僕自身の経験を踏まえると、チームが相当マズい状態になることはほぼ間違いありません。ただ、それを回避するための僕なりの答えのようなものも出ている。『SHIRASE5002』での実験には、それを再確認するという目的もあります」

 一体、実験で何があったのか。

追い求めた“暮らしの原点”

 その前に村上さん自身について紹介しておきたい。まずは「極地建築家」という肩書きから説明が必要だろう。建物を外形的・技術的にデザインするのが所謂「建築家」なら、彼が追求するのは建物の中で営まれる人間の暮らし。これを根っこから支え、豊かにするものは何なのか。そんな「暮らしの原点」を探るため、さまざまな極地に身を置いてきた。

「小学生の頃に数年間、父親の仕事の都合でアメリカに住んでいたことが影響しているのだと思います」

 と、村上さん。

「日本人にもアメリカ人にもなり切れず、自分のルーツというものが変な揺さぶられ方をしたことで、気づくと人類のルーツに興味を持つようになっていました。国や人種が違っても同じ人間だよね、と感じられる、縄文人やネイティブアメリカンの原始の暮らしに惹かれたのです」

 だが、明治大学理工学部建築学科に進学するも、仲間のようにデザインには興味が持てず、かといって自分の追い求めるものが「暮らしの原点」だというところにも行き着いておらず、モヤモヤが募るばかり。

 そんな時、建築雑誌で目にしたのが、ジョン・P・アレンというアメリカ人生物学者のインタビュー記事だった。

「アリゾナ州に『バイオスフィア2』という人工地球環境施設をつくり、男女8人の科学者が2年間、自給自足の暮らしをする実験を行った、という内容でした。当時は環境問題の高まりとともに、ようやく地球が1つの有機体として見做されはじめた頃で、彼はその施設に世界各地の動植物や海、熱帯雨林といった地球の要素をぎゅっと詰め込み、生態系を再現しようとしたわけです。彼はインタビューの最後で、“このプロジェクトは地球とは何かを知るためのものだが、人類が違う惑星に住むことになったら、ここでの暮らしがヒントになるだろう”と言っていた。一気にモヤモヤが吹き飛びました。本当の意味での“暮らす”ってこういうことだよね、と。宇宙での暮らしについて考えれば、モヤモヤしない何かができるのではないか、と」

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