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眞子さまご結婚延期から1年 小室圭さん文書は「平成流」と異なる方向性を物語っている - 河西 秀哉

 昨年2月6日に、宮内庁が秋篠宮家の長女・眞子さま(27)と小室圭さん(27)の納采の儀を始めとするご結婚関係儀式を2020年に延期すると発表して、1年が経った。それに先立って小室さんが公表した文書と「平成流」の天皇制のあり方について、名古屋大学大学院人文学研究科准教授の河西秀哉氏が考察する。

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◆ ◆ ◆

 1月22日、秋篠宮眞子内親王と婚約内定中の小室圭さんが、家族の金銭トラブルについて説明する文書を公表した。その中では、「私がこの問題について明確なご説明を差し上げてこなかったことで多くの方々にご迷惑をおかけする結果になってしまったことをたいへん心苦しく感じています」としつつ、「解決済みの事柄である」と強調している。


2017年5月17日、勤務先で取材に応じる小室圭さん ©AFLO

 これは、昨年11月22日に秋篠宮が誕生日会見で「それ相応の対応というのは大事ですし」、「今いろんなところで話題になっていること、これについてはきちんと整理をして問題をクリアするということ(が必要)になるかもしれません。そしてそれとともに、やはり多くの人がそのことを納得し喜んでくれる状況、そういう状況にならなければ、私たちは、いわゆる婚約に当たる納采の儀というのを行うことはできません」と述べたことに対応し、婚約を認めてもらうための行動だったと思われる。

なぜ小室圭さんの文書に対する批判が展開されるのか

 しかし、事態は今のところ沈静化していない。むしろ、小室さんの文書に対する批判がメディアの中で展開されているように思われる。これはなぜか。国民の支持を得ることを第一とした「平成流」の天皇制のあり方とこの文書が異なることが、一つの要因ではないかと考えられる。

 1989年1月7日、明仁皇太子は天皇に即位し、即位後の朝見の儀において、「国民とともに」「世界の平和」という文言の入った「おことば」を「です・ます調」で発表する。国民とともに歩むことが平成の当初から掲げられ、天皇制が変わったという印象を与えたのである。こうした姿勢が国民との関係性をより重視した「開かれた皇室」と言われ、マスメディアでは大きく取りあげられた。明仁天皇の即位後の言動は、新しい皇室像として好感を持って捉えられ、国民の支持を得ていった。

「国民と苦楽を共にするという精神的立場に立っています」

 昭和天皇は長く在位していたこともあり、明仁皇太子は長く皇太子としての立場にあり続けた。それゆえ、明仁皇太子はその時期に自身の存在やあり方、公務について模索をし、象徴とは何か、天皇とは何かを考えていた。皇太子はその模索の中で過去の天皇の事績についても学び、「天皇が国民の象徴であるというあり方が、理想的」「天皇は、政治を動かす立場にはなく、伝統的に国民と苦楽を共にするという精神的立場に立っています」と述べていた(「読売新聞」1986年5月26日)。歴代の天皇の姿を具体的に参照しつつ、それこそが象徴という立場に一致していると見ていたのである。こうした考え方が、天皇に即位した時の言葉となって結実したのだろう。皇太子時代より模索したことが、天皇となった時に国民との関係性として言及されたのである。

 そして、こうした「苦楽を共にする」代表的な行動が、被災者への見舞いだろう。それが最初にマスメディアや国民に注目されたのは、1991年7月の長崎県雲仙普賢岳噴火時であった。災害が継続している最中に天皇が被災者を直接見舞うのは、戦後初めてである。天皇皇后はこの時、膝を突き、被災者一人一人と目線を合わせ、声をかけた。

「分断社会」となった平成

 こうした被災地への見舞いは、「開かれた皇室」路線の一環と認識されていく。その姿は大々的に報道された。その後も平成に入ってからの日本は多くの自然災害に直面しており、被災者への見舞いは天皇制がそれまでとは異なり、新しくなったことを示す取り組みとなった。その後も、1993年7月には北海道南西沖地震の被災地である奥尻島を被災者への見舞いのために訪問、1995年1月31日には、阪神・淡路大震災の被災地である兵庫県を訪問して被災者を見舞い、ボランティアなどを激励した。

 この時は地下鉄サリン事件など多くの世情不安な出来事が頻発する時期であって、天皇皇后の見舞いは被災者への「癒やし」として求められていった。高度成長が終わり、平成は「分断社会」となった。そうした状況の中で、天皇皇后の被災地訪問は、被災地を思い起こさせ、被災者を救うという意味で、国民の「再統合」という役回りにもなったように思われる。

「戦争の記憶」に触れられてきた

 天皇皇后はまた、戦争の記憶に積極的にかかわっていく。即位当初より、「皇室外交」を積極的に行い、その場における「おことば」では、昭和天皇以上にアジア・太平洋戦争に関する記憶に触れてきた。戦後50年の1995年には広島・長崎などを訪問、戦後60年の2005年にはアジア・太平洋戦争の激戦地であったサイパン島を訪問する。天皇皇后の外国訪問はその国からの招請という形で行われるのが通例だが、この訪問は天皇の意思によって行われており、その目的は「戦争により亡くなられた人々を慰霊し、平和を祈念するため」と公表された。これは極めて異例な訪問であった。戦後70年の2015年には、同じく激戦地のパラオを訪問している。

 この年の全国戦没者追悼式での「おことば」では「ここに過去を顧み、さきの大戦に対する深い反省と共に、今後、戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い」と、「さきの大戦に対する深い反省」が述べられた。これも、そうした思考を曖昧化する安倍晋三総理大臣の姿勢と対比的に捉えられている。

世論調査で支持された「被災地見舞い」や「戦没者慰霊」

 そのためか、マスメディアは次第に、戦争の記憶への取り組みと国民との距離の近さを、平成の象徴天皇制を特徴づける二つの柱として論じていくようになる。世界各地では様々な紛争やテロが頻発し、日本においても戦争経験世代の急激な減少とともに戦争の記憶が風化する問題は指摘されてきた。そのような中で、戦争の記憶の問題に継続的に取り組む天皇皇后にマスメディアはより焦点を当てるようになったのだと思われる。近年、戦争の記憶への取り組みと国民との距離の近さの二つの柱を「平成流」と呼ぶことが多いように思われる。 

 それは、国民からも支持を得ている。日本世論調査会が2018年12月に実施した全国世論調査によれば、現在の天皇のこれまでの活動で評価するものを二つまで答えてもらったところ「被災地見舞い」(70%)が最多で、「国際親善」(37%)、「戦没者慰霊」(29%)などが続いたという(「東京新聞」2019年1月3日)。天皇の様々な「公務」のうち、明仁天皇が熱心に取り組む活動に対して、国民も支持していると言える。「平成流」は評価されているのである。

「平成流」の行為は、政治の不作為を埋めてしまう

 しかし、明仁天皇は自身の取り組みを「平成の象徴像というものを特に考えたことはありません」(2009年11月、即位20年に際しての会見)と、「平成流」と評価されることは否定している。天皇にとってそれは自身特別のものではなく、「長い天皇の歴史に思いを致し、国民の上を思い、象徴として望ましい天皇の在り方を求め」てきた結果だと意識している。日本国憲法の「象徴」の規定は、歴史的にも天皇のあり方としてふさわしいと見ているのだろう。そうしたあり方を現代の社会に適応させてきた結果が、現在の象徴天皇制であると思考していると思われる。

 被災地への訪問や戦争の記憶への取り組みは、日本国憲法で定められた国事行為ではない(公的行為)。様々な模索の中で生み出されてきたもので、マスメディアも国民もこれを支持してきた。天皇は国事行為以外の様々な行為を含めて「象徴的行為」とし、それが象徴天皇としてのあるべき姿だと考え、その自負心を2016年8月の「おことば」で述べた。
 

 こうした「平成流」の行為は、政治の不作為を埋めてしまう作用がある。被災地において政治が解決しなければいけない様々な問題が、天皇の訪問によって解消したように見え、不満が顕在化するのを抑えてしまっている。戦争の問題も、いわゆるリベラルと呼ばれる人々も含めて、本来は自分たちが詳細に問題の意味を語らなければならないにもかかわらず、天皇に期待することで満足してしまっている状況も存在している。そうした意味でも、明仁天皇は国民から広く支持されているのが現状である。おそらく、この状況は退位後の新しい天皇になっても続くのではないか。

 冒頭、小室圭さんの文書が批判されていると述べた。それは、こうした国民に近しい「平成流」と異なる方向性だったからではないか。それは物理的にではなく、精神的に近しいという存在である。平成という「分断社会」にあって、国民の声に耳を傾け、直接的に話しかける「平成流」。それに対して、法律上では「解決」していると文書のみで伝えてしまった小室圭さん。そこに違いがあったのではないか。

(河西 秀哉)

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