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「二島のみ返還」を深く憂慮する!・・・「北方領土の日」に思う

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 安倍首相が、昨年秋から「二島のみ返還」に舵を切ったことは既に書いた。シンガポール会談(18年11月14日)で、「日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速する」と合意した時からだ。

 この合意では、「四島の帰属」問題の解決を明記した「東京宣言」(92年)にも、「イルクーツク声明」(01年)にも触れられていない。過去、営々と積み重ねられた外交成果に、あえて触れない首脳合意が意味するものは大きい。共同通信も『安倍政権、2島決着案を検討 北方4島返還「非現実的」』(1月21日)と書いた。埃を被っていた古文書(「56年宣言」)だけに触れ、あえて「基礎」とした意味とは、そういうことだ。
 
 プーチン大統領にしても、二島を返し、平和条約まで結びながら、あとの二島の返還の余地を残す合意などできるはずもない。これで「すべて決着」という成果を得られない限り、二島返還もしないという覚悟だろう。

 この合意を受けて、安倍首相がこの問題で頼る鈴木宗男氏のブレーンである東郷和彦氏、佐藤優氏が、口裏を合わせたかのように「二島返還+α」論をメディアに発信しているのも、「来るべき時」に備えた環境整備と考えられる。「二島返還+α」とは、歯舞、色丹は返してもらうが、国後、択捉の主権はロシアに認め、この二島とは経済的人的交流等を自由にするといった案だ。官邸との連携プレーも推測される。

 こういう事態に至った背景は、16年12月15日の山口県「長門会談」にさかのぼる。ご記憶かもしれないが、それまでは官邸から、しきりに「年末の日露首脳会談で二島返還。あとの二島は継続協議」という情報が意図的に流されたものだ。しかし、ターニングポイントはこの「長門会談」の直前に訪れる。それは、谷内国家安全保障局長の訪露時(2016年11月)の不用意な「失言」だった。
 
 ここで彼は、外務官僚の「生真面目さ」から、ロシア側の問いかけに、北方領土返還後の米軍基地設置の可能性に言及したのだ。この結果、「長門会談」は、「共同声明」はおろか、単なる「プレス向け声明」(一枚紙)の発出で終わり、そこに「領土」の二文字すらなかったのである。この時のサシの会談で、プーチン大統領が「シンゾー、領土は(理屈ではなく)血を流してとるものだ。その覚悟はあるのか!」と凄んだという話も、当時、聞こえてきたものだ。

 その後、プーチン大統領は、この四島の「安全保障上の重要性」を理由に態度を硬化させ、その軍事基地化を進めてきた。ここはロシア艦隊の太平洋への出口であり、米国からの攻撃(特に原子力潜水艦)を防御する戦略的要衝の地なのだと。

 こうした基本的構図は、その後、度重なる首脳会談を重ねてみても、何ら変わることはなかった。そして、昨年9月、「前提条件なしで平和条約を締結しよう」というプーチン大統領の不規則(用意周到?)発言が飛び出したのだ。そして、いよいよ追い詰められた安倍首相が、自らの任期中に、兎にも角にも「二島のみ返還」を成し遂げ、「歴史に名を残したい」という功名心から、あえて「期限」を切って交渉を急いできたのだ。

 しかし、この「主権」の問題を、そうした「邪心」で処理してもらっては困る。私も、この「北方領土交渉」に携わった経験(「クラスノヤルスク合意」97年11月)があるので、その困難さは十分わかっているつもりだ。元島民の老齢化のことも認識しているし、領土(外交交渉)に100対0がないことも承知している。

 ただ、そもそも、安倍首相とプーチン大統領は、これまで25回も会談したというが、プーチ大統領が来日したのは、最近では「長門会談」の一回のみだ。首脳外交は「相互訪問」が基本で、ロシアに「お百度」を踏む「朝貢外交」では、交渉のテーブルにつく前から負けているというのが外交常識だ。結果、プーチン大統領は、完全に安倍首相の足もとを見透かしている。

 ちなみに、「橋本vsエリチィン」の時は、まず東京とモスクワの中間地点のクラスノヤルスクで「ノーネクタイ会談」(97年11月)をし、「東京宣言に基づき2000年までに平和条約を締結するよう全力を尽くす」ことで合意。その翌年の4月には、こんどはエリチィン大統領が訪日、橋本首相が「川奈提案」をした。これが対等の交渉スタイルというものだ。

 何度も言うが、外交交渉、特に領土交渉には「タイミング」というものがある。その「時」でない時に、いくら「押してもだめ」で、こちらの足元を見られるだけだ。現に、今の日露交渉は完全にロシア側のペースで、プーチン大統領は「領土」をエサに、良い様に日本に「経済カード」を切らせようとしている。

 「二島のみ返還」論者は、「今が最後のチャンス」「安倍・プーチンでなければ解決できない」「四島はもはや無理」「こだわれば二島すら失う」云々と言い募るが、どこにそんな根拠があるのか?未来永劫、そのチャンスは絶対に来ないとでも言うのか?

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