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続・日大タックル事件。マスコミは検証と反省で刷り込みを解く努力を

日大アメフト選手による悪質タックル事件で,警察が監督,コーチらの指示はなかったとの明確な結論を出したことについて,以前のブログで触れた。ビデオ解析や細かな事実確認など丁寧な捜査の積み重ねで説得力のある結論に至ったのである。報道された分だけでも,裁判でも十分に通用する分析と感じられた。

加害選手の当時の陳述書も読んだが,仮に書かれていることがすべて事実であったとしても,そこに書かれているのはほとんどがコーチとのやりとりだけで,監督が故意の反則で相手選手に怪我をさせろ,と指示をしたとの記載はない。肝心の「1プレー目で相手QBを潰せ」,とコーチから指示されたとの供述も,コーチから直接指示されたのではなく,先輩から言われた,としているだけなのだ。逆に試合当時のコーチの指示は,この伝言?とは異なるものであったとそこには書かれている。「「キャリア(ボールを持っている選手)に行け」と言われましたが、散々「QBを潰せ」と指示をされていたので、〇〇コーチの発言の意味が理解できず」だったそうだ。つまり,伝言?が本当であったかは,肝心の試合時におけるコーチの指示と矛盾していることからしても疑わしいのだ。

したがって,当時一方的に報道され,非難された悪質なプレーは,監督やコーチの指示に基づき無理矢理やらされた,との主張は実態があるものではなく,警察の結論は当該加害選手の供述にも沿うものなのである。

しかし,これについて未だに感情的に納得されない方も多い。そこには当時なされたマスコミの一方的かつ大量の報道による刷り込み,影響が見受けられる。この事件を暴力団の親分からの指示に例える方もいるし,追い込まれた選手がかわいそうだ,という方もいる。

そもそも,サッカーでもラグビーでもアメフトでも,コンタクト・スポーツのコーチングにおいて,激しくあたれ,という趣旨の檄をとばすことがそんなに珍しいことであろうか。例えば,ラグビーでも,世界最強を謳われるNZ代表オールブラックスは試合前に「Haka」と呼ばれる踊りをする。CMでも使われたので見た方も多いだろう。日本語だと「がんばってがんばって」にしか聞こえないが,あれはNZの先住民族が戦いの前に踊るウォー・クライ。「がんばって」ではなく,マオリ語で「Ka mate(私は死ぬ)」と言っているである。ラグビーやアメフトのトップクラスにおけるプレーでは,鍛え抜かれた肉体を持つ選手達が,日常生活ではあり得ない激しいコンタクトをお互いにぶつけ合う。つい先日行われたスーパーボウルでのQBサックを狙ったタックルの激しさは衝撃的であった。相手を粉砕するくらいの気持ちがなければ到底通用しないであろうと,素人目にもうかがわれた。

誤解を受けないよう付言すれば,勿論,故意での反則について語っているのではない。今回の反則は,ラフィン・ザ・パサー。15ヤードもの罰退の対象となる。いくらコンタクト・スポーツでも,故意の反則をしては割りには合わないから,「つぶせ」といっても,反則にならない範囲で激しく行け,という趣旨だと選手達は通常解釈する。それは大前提だ。

この,ゲームに参加するプレーヤーやコーチたちの当然かつ共通の前提が無視され,強い檄をとばしただけで,故意の反則をしてまで相手を潰してこい,と解釈されてしまって刑事責任を始めとする様々な責任を負わされるとしたら,格闘技はもとよりコンタクト・スポーツのコーチなどできなくなる。逆に言えば,コーチの檄について,故意の反則をして相手の健康を損なうようなプレーをしろ,と解釈されるというのであれば,そのような特別な解釈が成り立つ具体的な事情を,解釈した側が立証しなければならないであろう。難しく「立証」などと言わなくても,また,裁判や捜査でなくとも,当たり前のことである。仮にそんな事情があったとしたら,日大では他にも危険なラフプレーが相次いでいたであろうし,相手チームにけが人も多く出ていたはずだ。

選手が故意的な反則で傷つくことがあってはならない,というのは当然のことであるし,私も心からそう思う。しかし,日常生活とは異なる激しい肉体的接触が常に伴うコンタクト・スポーツに,刑事事件的評価を持ち込むこと自体,慎重にしなければならない。

あの時,日本では必ずしも人気スポーツとは言えないアメフトの,しかも大舞台でもない試合のプレーについて,あそこまでマスコミが集中砲火的な報道をしたことが当時も不思議だったし,今も不思議だ。

もう忘れている方も多いと思うが,人気絶頂時のJリーガー・日本代表小野伸二選手が,シドニー五輪予選のフィリピン戦で,後ろからのひどいレート・タックル(それもまるで柔道のカニ挟みのようなタックル)で両膝に大怪我を負ったことがあった。TV観戦していたファンも多かっただろうし,私もリアルタイムで視聴していて大変なショックを受けた。まさに今回の日大選手のような故意的反則で,しかも結果もより重大だった。しかし,あの時,マスコミは今回のような集中豪雨的な報道で相手選手を責め立てることもなかったし,小野選手自身も,これもサッカーと淡々と言っていたと記憶している。

津波が押し寄せたとき,どんなものでもこれに対向することは困難だ。そして,津波の側は,何故自分たちが津波となって誰かに押し寄せているかについて自覚することもないだろう。誰かに対する攻撃が,津波となるかならないかに,合理的な線引きや理由はないからだ。魚の群れが海辺に押し寄せるのにあまり理由はないのと同じだ。

せめて,事後的にでも,自分たちの行った報道について検証と反省を行い,次はもう少しでもいいからまともな報道になるように務める。世間に広めてしまった誤解を解く。懲罰的損害賠償がない日本で,マスコミができる償いは限られているが,それでもやらないよりはずっとましだ。

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