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年をとるということは”個性的になっていく”ということなんです -「賢人論。」第82回下重暁子氏(前編)

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作家・下重暁子氏は華麗なる経歴の持ち主だ。早稲田大学教育学部卒業後、NHKにアナウンサーとして入局。トップアナウンサーとしての評価を確立した後、NHKを退社し、民放テレビ局でキャスターを務めた後、作家に転身。2015年に上梓した『家族という病』は62万部を突破するベストセラーになった。日本人が抱く「家族」という幻想に大胆にメスを入れた下重氏に、現在の介護現場の印象を聞くところからインタビューはスタートする。

取材・文/盛田栄一 撮影/公家勇人

介護の仕事は大変だと思いますが、お年寄りを十把一絡げに扱うことはやめていただきたい

みんなの介護 介護保険制度がスタートして今年で20年近くになりますが、いまだに「親の面倒は家族でみるもの」と考えている人が少なくないようです。ベストセラーとなった『家族という病』(幻冬舎新書)で独自の家族観を展開されている下重さんの目に、現在の介護の現場はどのように映っているのでしょうか。

下重 私は両親を早く亡くしているので、親を介護した経験はありません。しかし、つれあいの母(義母)が亡くなるまでの数年間を介護施設で過ごしていたので、月に一度は施設を訪れ、介護の現場もつぶさに見ています。

そうした経験を踏まえて、まず言えることは、介護くらい大変なことはないということ。育児もそれなりに大変でしょうが、育児にはまだ、子どもの成長を見る楽しみがあります。一方の介護は、楽しみをなかなか見出しにくい。

みんなの介護 その分、介護のほうがつらいということなんですね。

下重 そういった現場のつらさを理解したうえで、あえて言わせていただくと、現在の介護施設のあり方には疑問を抱かざるを得ません。

私自身が見ていて「嫌だな」と感じるのは、入居者を一律に管理していること。例えばアクティビティの時間、入居者全員をホールに集めて童謡を歌わせたり、ぬり絵や折り紙をやらせたり…。

みんなの介護 介護施設で一律に行われるアクティビティについては、確かに賛否両論があります。

下重 もちろん、少ない介護スタッフで多くの入居者のお世話をするには、こうしたやり方が最も効率的だとは思います。しかし、個々人の個性をないがしろにしているように思えてなりません。

もしも私が入居者だったら、みんなと一緒に童謡なんか歌いたくないし、実際、歌わないでしょうね。

人は年齢を重ねるごとに、個性的になっていくのだと思います。それぞれ、その人にしかできなかった体験を積み重ねてきたうえに、現在のその人が存在しているのですから。

みんなの介護 なるほど。そう言われると、お年寄り一人ひとりがとても個性的な存在に思えてきます。

下重 はい。ですから、その個性を打ち消してしまうような現在の介護のあり方は、できれば改めてほしいですね。

個性をつぶす介護ではなく、個性を活かす介護をすべきでしょう。お年寄り一人ひとりを、かけがえのない個人として扱ってほしいのです。予算もスタッフも足りないことは、重々理解しているのですが…。

詩人の新川和江さんに『わたしを束ねないで』という素晴らしい作品がありますが、施設に入居しているお年寄りの多くは、「私をほかの人たちと十把一絡げに束ねないで」と思っているはずです。

みんなの介護 他に、気になることはありましたか?

下重 もうひとつ違和感を抱いたのが、介護スタッフの言葉遣いです。

お年寄りに対して、まるで小さな子どもに話しかけるように、「○○さん、よくできたね、えらいね」などと言っていました。

悪気はないのでしょうが、知識も経験も自分より数段上のレベルにある人生の先輩に向かって、あまりに失礼ですよね。

何かを与える介護ではなく、何かを引き出す介護を考えるべきだと思います

みんなの介護 下重さんの『家族という病2』も読ませていただきましたが、介護に関しては、「何かを与えるのではなく、その人から何かを引き出す姿勢が大切なのだ」と指摘されていましたね。

下重 先ほど、人は年齢を重ねるごとに個性的になると言いましたが、同時に、頑固にもなります。

好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。ですから、施設側から一方的に娯楽を与えようとしても、「余計なお世話」と感じる人も多いはず。

むしろ、その人の好きなこと、得意なことを引き出してあげるほうが、その人にとっては居心地の良い施設になるのではないでしょうか。

みんなの介護 お年寄り一人ひとりに寄り添う気持ちがなければ、できないことですね。

下重 前述のつれあいの母の話をすると、彼女は車椅子生活を送っていたものの、亡くなるまで頭ははっきりしていて、ときどき訪ねていく私に、自分の幼少時代の経験を話すのが楽しくて仕方なかったようです。私も、彼女の話を聞くのが大好きでした。

つれあいの母に対して、身体的な介護はほとんどしたことはありませんが、私が心から楽しんで話を聞いていたことは、彼女にとって、大きな心の支えになっていたようです。

本人が話したいお話を聞いてあげることは精神的な介護であり、引き出す介護でもあると思いました。

みんなの介護 下重さんにインタビューされて、お姑さんも誇らしかったのではないでしょうか。下重さんとお姑さんとは、特別な関係だったのですね。

下重 お互いに「嫁」「姑」という「立場」に縛られることなく、「個人」として付き合っていたからこそ、良好な関係が保てたのでしょうね。

それについては、ひとつ思い出すことがあります。つれあいの両親がまだ元気な頃、お正月には必ずつれあいの実家に帰っていました。

そんなとき、台所でおせち料理づくりに奮闘するのは、料理が得意なつれあいと、義母、義姉。私は、台所を一度も手伝うことなく、つれあいの父とこたつでいつもお酒を飲んで義父の話を聞いていました。

みんなの介護 一般的には珍しい光景ですね(笑)。

下重 そうやっていても、つれあいの家族から嫌な顔をされたことは一度もありません。つれあいの家族と私がそれぞれ個人として認め合っていたからこそ、あの当時、あんなに楽しい年末年始が送れたのだと思います。

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