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習慣や規律をインストールする街・東京

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 ほかにも東京には、習慣や規律を守らせ、人々好き勝手に行動させないようなインフラや決め事が無数に存在している。決まりきった時刻にやって来る電車を、決まりきったホームで、決まりきった範囲で待つこと。標識やガイダンスに従って、立体交差する通路を定められたとおりに歩くこと。自動改札を必ず通過すること、etc...。

 東京で暮らす人々は、そういったインフラや決め事による導線の内側でつねに行動しているし、行動しなければならない。その度合いは地方中核都市の郊外などと比べても顕著だし、まして、地方の町村部とはまったく比較にならない。

 と同時に、そのようなインフラと決め事のおかげで東京の人の流れや行動はコントロールされていて、このメトロポリスの秩序が維持されている。

 だが、単にインフラや決め事に従って人々が流れているだけではあるまい。

 東京で生まれ育った人々は、こうしたインフラ・導線・決め事に覆い尽くされた社会環境で育ち、それを当たり前のものとしていて、普段、そういったことを意識したり疑問に感じたりすることはない。ということは、「自然に動くと、勝手にそれをやっていることになる」が東京では成立していて、人々は、意識もしないうちに習慣や規律をインストールしている、と考えてだいたい合っているのではないだろうか。

 東京は、全国的にみても高い人口密度と、多様な価値観を内包したメトロポリスだが、このメトロポリスが秩序整然とした状態を維持できている一因は、東京の精巧なインフラや導線によって、そこに住む人々が意識するまでもなく習慣や規律をインストールしているから、という側面もあるのではないだろうか。

 ということは、歩車分離のガードレールも、標識どおりに歩けば目的地に着くようになっている地下通路も、自動改札も、定刻どおりに運行されてホームの停車位置どおりに停車する電車や地下鉄のたぐいも、単に東京を整然とさせているだけでなく、そこで暮らす人々に習慣や規律をインストールするための社会装置として機能しているのではないだろうか。

施策者の意図にかかわらず、インフラは人を行動や習慣を左右する

 断っておくが、だからといって東京のインフラを作った人々が東京人に習慣や規律をインストールしてやろうと企んでいたとは、あまり考えにくい。

 たとえば歩車分離のガードレールの設置目的については第10次東京都交通安全計画に以下のように記されている。

(2) 防護柵の整備
歩行者の横断歩道以外の場所での車道横断の抑止と、車両の路外等への逸脱防止を図ることにより、歩行者の安全を確保するとともに、乗員の傷害や車両の損傷を最小限にとどめるため、防護柵を整備します。
(関東地方整備局、都建設局)

 ガードレール以外の整備についても、その目的は安全のためや流通の維持のためとされていて、習慣や規律をインストールするといった意図は見受けられない。そういったものとは別個に、交通安全についての意識啓発の取り組みがなされている。

 鉄道会社やメトロがつくりあげた通路網も、きわめて規則的な運航も、あくまでトラフィックの維持のためのものであって、地域住民に習慣や規律を埋め込んでやろうなどという意図はおそらく無いだろう。

 しかし施策者に意図があろうがなかろうが、インフラや導線は、人を習慣づけて、人に規律を与えて、そういったルールを守ることが当たり前になっている人間をつくりあげていく。交通安全やトラフィック維持のためにつくられたインフラが、結果として習慣や規律にも影響していくのを非難する筋合いはないが、さしあたり、その影響は意識されるべきだろうし、見定められるべきだろう。

 東京の諸インフラが、そこに住まう人々に習慣や規律をたえずインストールし、たえず訓練し続けるシステムとして機能して(しまって)いると考えるようになってから、私は東京の街並みが面白くてたまらなくなった。東京のインフラ、導線、決め事が人々に影響を与え続けているということは、ある種、東京は習慣や秩序をインストールする超巨大メディアである、と言い換えることもできよう。この、東京というメディアは、なんて面白いのだろう!

 さらにここから逆算してみると「ある時代・ある地域において優勢な習慣や規範意識は、その社会環境のインフラや導線によって少なからず左右される」という一般論を想定したくなる。

 どのような思想が流行してどのようなメンタリティが一般的となるのか、ひいては、どのような精神疾患がトレンドとなるのかは、実は、導線やルールも含めた都市のインフラ構造によってかなり左右されるのではないだろうか?

 

 

監獄の誕生 ― 監視と処罰


メディア論―人間の拡張の諸相

 

 この現象のヒントは、もちろんミシェル・フーコーがあれこれ書き残しているし、都市全体をメディアとして捉えるなら、マクルーハンとその弟子筋からもヒントが得られそうではある。とはいえ、「インフラ・導線・決まり事によって、ある地域・ある時代の社会病理やメンタリティがどのような影響を受けるのか」をテーマにした有力な書籍を、私はまだ知らない。

 もし、これをお読みになった人でご存じの方がいらっしゃったら、教えていただけるとありがたい。もし誰もやっていない場合は……できる範囲で調べてみようと思う。

これは田舎者が考えるべきことだと思う

 昭和時代に田舎で育った私には、東京のインフラに含まれている導線や決め事と、そこに住む人々の挙動や意識は、かなり一致しているようにみえるし、びっくりするほど秩序だってみえる。だから興味が沸くし、そのメカニズムが少し恐ろしくもある。

 とはいえ、東京に長く暮らしている人には、この感覚はなかなか共有してもらえないかもしれない。

 東京というインフラの内側で暮らし続けている人々が、意識するまでもなく身に付けた習慣や規律を省みるのは大変だろう。なぜならこれは、東京というインフラにあわせて生活しているだけで、無意識のうちにインストールされていくたぐいのものだからだ。

 だからこの現象は、東京とその周辺の人々ではなく、私のように東京を外側から見つめている田舎者が語るのがお似合いではないかと思う。私はこれからも東京のあちこちを巡って、東京というインフラについて、田舎者ならではの視点を書き連ねていきたいと思う。

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