また、過去の総理大臣が職分的な意味で「森羅万象」を発言した例は、他にもありました。その中でも、特に総理や政府が森羅万象を所掌するような意味合いを持つものを取り上げてみます。
出典:中曽根康弘(総理大臣) 昭和60年02月07日稲葉議員に対する内閣に対する質問書の答弁書で申し上げましたように、やはり現在の憲法の理念、民主主義、平和主義、基本的人権の尊重、国際主義等々のこの理念を堅持する、これがまず前提でございます。その上に立って、そして戦後、政治、経済、文化、社会、森羅万象にわたっていろいろ見直しを行い、そして二十一世紀を目指した日本の基礎工事、土台づくりをやろう、こういう趣旨でございます。
出典:宮沢喜一(総理大臣) 平成04年06月10日誤解があるといけませんから。森羅万象日本であることは何事も憲法に関係がございます。
出典:菅直人(総理大臣) 平成23年03月08日私は、今回のケースは当然政務三役が把握すべき問題だったと、そう思いますが、同時に、政務三役、まあ厚生省の場合、五人か六人だと思いますが、森羅万象についてどこまでをある意味役所の方で対応し、どこからのものはきちっと上げさせるか、こういうことも含めて、これからの政権運営の中でしっかりと対応するよう指示をしてまいりたいと思っております。
このように過去の総理大臣による国会答弁をみれば、政府や法が森羅万象を取り扱うもの(できるかどうかは置いて)というのは、広くある認識のようです。
このような国会での森羅万象認識について、面白い答弁がありました。石破茂議員が、田中角栄元総理から聞いた話として紹介しています。
出典:石破茂(衆議院議員) 平成24年02月02日(強調部引用者)私も、御縁あって、昭和五十五年以来、田中角栄先生にいろいろなことを教えていただきました。私が政治に入る機会をつくってくださったのも田中角栄先生であります。
よく先生がおっしゃっておられたのは、国会議員は何が一番おもしろいかということをおっしゃっておられました。それは、法律をつくることが一番おもしろいのだということを私は角栄先生から何度か教えていただきました。この世の中で起こる全てのこと、森羅万象という言葉をお使いになりました。川には河川法あり、海岸には海岸法あり、森には森林法あり、道路には道路法あり、田畑には農地法あり、この世の中における森羅万象全てのことを法律が律しておる、国会議員にとって一番の仕事は法律をつくることだ、そういうふうに私は教えをいただきました。
つまり、田中角栄元総理の言葉では、森羅万象に関わるのは総理だけでなく、国会議員全員がそうだ、という意味のようです。言い換えるなら、国会議員全ては「森羅万象担当議員」ということになります。
ここまで見ると、安倍総理の「森羅万象」発言は字義通りに捉えればおかしいですが、国会答弁における歴代総理大臣の答弁を踏まえるならおかしなものではなく、むしろ与野党問わない認識を継承したものだと言えると思われます。
現政権に問題が山積しているのは事実ですが、こういう問題の無い話ばかり話題になるのもどうなんでしょうね……。
※Yahoo!ニュースからの転載