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【読書感想】古賀史健がまとめた糸井重里のこと。

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 この本のなかで、とくに印象的だったのは、任天堂の社長だった故・岩田聡さんとの交流を語っておられるところでした。

 『MOTHER2』の開発が遅れに遅れ、糸井さんが完全に行き詰まってしまった際に、任天堂の山内社長から紹介されたのが、当時HAL研究所の社長であり、敏腕プログラマーとして知られていた岩田さんだったのです。

 その窮地を救ってくれ、長期間一緒に会社で缶詰めになっていた糸井さんと岩田さんは、その後もずっとお互いを信頼しあっていたのです。

 糸井さんが『ほぼ日』をはじめることを最初に相談したのも、岩田さんでした。
 岩田さんは、どんなに忙しいときでも糸井さんの誘いを断ったことはなく、任天堂の社長になってからも、時間をつくって会っていたのだとか。

 ぼくはむかし、コピーライターやクリエイターはABCの3つのタイプに分けられる、と言っていました。
 Aが「野の花タイプ」。これは道端に咲いているちいさな野の花を摘んで、プレゼントしようとする人。
 ふたつめのBが「バラとかすみ草タイプ」。こちらはバラやかすみ草、蘭なんかでつくった高級な花束をプレゼントしようとする人。
 そして最後のCが「お花屋さんタイプ」。すてきな花束をつくってくれるお花屋さんを探して、お店の人に思いを告げて、花束をつくってもらう人。

 自分が誰かに花束を贈るとき、つまりは作品を届けるとき、人はだいたいこの3つに分けられる。ある本で、そんなふうに書いたんですよ。
 このうち、わかりやすくつまらないのはBの「バラとかすみ草タイプ」ですよね。これはもう、花束ではなく、通貨を贈っているようなものですから。「こんなに高級な花を、こんなにたくさん」という数量で価値を測っている。

 でも、ほんとうにやっかいなのはAの「野の花タイプ」なんです。これは「真心さえこもっていればいい」と考える人の、ずうずうしい発想。「これだけピュアなわたしの気持ちを、拒否するはずがない」という、きわめて押しつけがましいクリエイティブなんですね。

 それでぼくが大切にしていたのが、Cの「お花屋さんタイプ」であること。広告は自分ひとりでできるものじゃないから、しかるべき人を探して、正面からお話して、一緒にいちばんいいものをつくろうとする。「野の花」の真心を押しつけるでもなく、お金や権威に頼った「バラとかすみ草」で解決するのでもなく。

 これはいまでも大事にしている考え方なんだけれど、岩田さんのお墓参りをするときだけは、違うんです。いつも「庭の花」を摘んで持っていくんです。
 岩田さんが何度も遊びに来てくれた京都の家の、岩田さんと一緒に眺めた庭の、それぞれの季節に咲いたなんでもない花を。

 糸井さんは、岩田さんのお墓の前で、「ずっと岩田さんとおしゃべりをしている」そうです。
 糸井さんは、この文章のなかに、岩田さんへの自分の気持ちを直接書いているわけではない。
 でも、これほど伝わってくる言葉は、そんなに無いのではなかろうか。

 巻末で、糸井さんは「いい正直になれました」と仰っているのだけれど、まさにそうなんだと思います。
 人は「正直」であろうとして、かえってウケ狙いや露悪的な言動にはしってしまうことが多いんですよね。自分自身のことを振り返っても、そういう傾向がある。

 でも、この本での糸井さんの言葉には「まっすぐに、いま、語りたいことを語っている」ような清々しさがあるのです。けっして、美しい話だけではないのだけれど。

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