芸能人が「パニック障害」を公表し、活動を休止するケースが目立っている。いったいどんな病気なのか。精神科医の岩波明氏は「精神障害の中では比較的症状が軽く、強制的にでも規則正しい生活を送ることが回復につながりやすい。一方で、芸能人のように生活が不規則だと症状を治しづらい」と説明する――。
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■若手ジャニーズが相次いで活動休止
昨年10月、ジャニーズの若手グループ「King & Prince」(キンプリ)の岩橋玄樹がパニック障害の治療に専念するため活動を休止することを発表した。さらに11月末には同じジャニーズの若手グループ「Sexy Zone」(セクゾ)の松島聡も、同じ理由で活動休止を発表した。
キンプリは18年にシングル「シンデレラガール」でCDデビューを果たし、初週で50万枚以上を売り上げたジャニーズ期待の星。一方、セクゾも昨年デビュー6年目にして、『NHK紅白歌合戦』に初出場を果たすなど、共に上り調子のグループだ。まさに“売り時”の2人の突然の活動休止は、病状の深刻さを感じさせた。
芸能界ではパニック障害を公表している人が少なくない。KinKi Kidsの堂本剛、ミュージシャンの星野源、元野球選手でタレントの長嶋一茂、シンガーソングライターの円広志、お笑い芸人の中川家・剛、アナウンサーの丸岡いずみ、ヘアメイクアーティストのIKKOらは自身の経験をカミングアウトしている。
パニック障害とはどんな病気なのだろうか。昭和大学医学部精神医学講座教授の岩波明氏に話を聞いた。
■10人に1人は一生に一度発作を起こす
「構成要件は大きく2つあります。まず1つ目は、身体的な疾患がないにもかかわらず、動悸や息切れ、めまい、呼吸困難などの“パニック発作”が頻繁に起こること。2つ目は“予期不安”と呼ばれるもので、発作が起こるのではないかという強い不安が生じるものです。パニック発作は非常に苦しいもので、このまま『死んでしまうのではないか』という強い不安や恐怖心が伴います」
発作の初発は20~30代、また男性よりも女性のほうが多いというが、「年代、性別、職業などに限らず、誰でも罹患(りかん)する可能性がある」という。
「パニック発作は珍しくない症状で、一生に1回でも発作を起こす人は約10人に1人、発作を繰り返してパニック障害に進展する人は全人口の2~3%とも言われています。睡眠不足や、アルコール・コーヒーの摂取が発作を誘発することもあり、それが体調の悪さと連動して発作となることも」
満員電車や飛行機など、逃げ場のない・助けを得られないような閉鎖的な場所に恐怖を覚え、発作を起こす人が多い。これは「広場恐怖」と呼ばれる。パニック発作という自覚はなくとも、息苦しさや動悸を感じたことのある人は少なくないだろう。初発の場合、ほとんどの人は身体の疾患を疑って救急車を要請するが、発作自体は数分~数十分で落ち着く。病院に着くころには発作が収まり、診察では当然異常は見当たらない。そのためパニック障害の診断が下りるまでは、発作のたびに救急車を呼ぶ人や、原因を探るためにあらゆる検査を受ける人も見受けられるという。
■服薬で症状はほぼコントロールできる
主な治療は抗うつ薬・抗不安薬の投与。服薬によって症状をほとんどコントロールできるという。
「薬が効き始めるまでに20分ほどかかるので、例えば広場恐怖症の人は乗り物に乗る時間を逆算して服用し、苦手な状況でも発作が起きなかったという事実を積み上げていく。この病気は、症状が起きなければ起きないほど治りやすいんです」
重篤な人の中には外出するのが怖く、自宅に引きこもってしまうケースもある。
「その場合は、日中の空いている時間に各駅停車に一区間ずつ乗るという練習をします。その距離をだんだん広げていく。これを行動療法と呼んでいます。どうしても状況を克服できない人は状況を避ける場合もあります。極端に言えば、電車に乗らない。私が診ていた患者さんの中には、自転車で通えるところに職場を移した人もいます」