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「米中貿易戦争」終結が困難な4つの理由 - 澁谷 司

 今年(2019年)1月末、劉鶴中国副首相がワシントンへ飛んだ。そして、劉鶴副首相は「米中貿易戦争」の終結を目指して、トランプ米大統領と直談判を行っている。この交渉の中で、中国側が米国産大豆輸入を更に拡大し、総計約500万トン輸入するという。

 しかし、重要な争点は、今後、行われる予定の米中首脳会談に持ち越されている。それだけ、「米中貿易戦争」終結は難しい。

 その理由として、第1に、事実上、カナダで拘束されているファーウェイ(華為技術)の孟晚舟副会長(兼CFO)の米国への引き渡し問題である。トランプ政権はファーウェイを知的財産権侵害の象徴的企業として徹底的に調べるつもりだろう。

 周知の如く、米中は次世代通信G5の覇権をめぐり争っている。中国はファーウェイとZTE(中興通訊)を中核に据え、G5を制しようとする思惑が透けて見える。そのファーウェイの中心人物こそが、孟晚舟副会長である。

 カナダ政府は、米加関係を考えると、いくら北京政府が中国国内でカナダ人を拘束しようとも、孟副会長を釈放する公算は小さいのではないか。

 第2に、トランプ政権は、北京政府に対し、(G5以外の)知的財産権侵害をやめるよう求めた(目下、習近平政権は、世界の覇権を握ろうとしている。その目的のためには、知的財産権侵害を含め、何でもするつもりではないか)。この米側の要求は当然だが、中国側としては、すんなりと飲めないだろう。

 何故か。誤解を恐れずに言えば、今日の中国人科学者は研究環境が悪いせいか、若干創造力に欠ける。だから、他国の先端技術を盗むのである。そうしない限り、米国を凌駕するのは、まず不可能だろう。

 例えば、第2次大戦後、自然科学系で中国籍のノーベル賞受賞者はたった1人(屠呦呦)である。我が国と比べても少なすぎる。ましてや、世界一のノーベル賞輩出国、米国とは比較にならないだろう。

 中国では政治変動が激しいので、優秀な科学者がじっくり腰を据えて研究に没頭できない。そのためノーベル賞受賞者が少ないのではないか。

 他方、中国人科学者が一躍有名になってカネが入ると、他の事業に乗り出し、研究がおろそかになるのかもしれない。

 1例を挙げれば、昨2018年12月1日、ノーベル物理学賞に最も近いと言われていた張首晟スタンフォード大学教授が死亡した(自殺説と他殺説がある)。張教授がファーウェイ(華為技術)と深い関係があり、FBIに調べられていたからだという。

 第3に、トランプ政権は、この北京政府による国有企業への補助金停止を強く求めている。

 中国では、国有企業が輸出補助金(正確には輸出還付金。還付金は輸出品目によって異なる)を受けながら、輸出で外貨を稼いでいる。これが実態だろう。

 けれども、習近平政権は、国有企業を強力かつ巨大化し、中国共産党の支配を国有企業まで拡大したいと考えている。だからこそ、民間企業と国有企業を統合する「混合所有制」という新しい形態の企業を誕生させた。

 この習政権が最優先テーマとしている国有企業優先政策を捨て去る事ができるだろうか。大きな疑問符が付く(習近平主席が辞任する以外には、米国と折り合う事は到底考えられない)。

 また、景気が悪化している中、北京としては、唯一、輸出だけが頼りである。輸出が止まれば、中国経済は奈落の底へ落ちるだろう。従って、習近平政権が、国有企業への補助金カットを止める事はあり得ないのではないか。

 因みに、習近平政権発足以来、投資・消費がずっと右肩下がりだった。決して、昨今の「米中貿易戦争」で、必ずしも急に景気が悪化したのではない(なお、輸出が好調だったのは、ここ2年間だけである)。

 第4に、トランプ政権は、北京に対し、様々な分野への新規参入を要求している。習近平政権がワシントンの要求を、おいそれと受け入れるとは思えない。

 中国の一部産業(例えば、石油、電力、通信、軍需等)では、ある企業がほぼ独占状態にあるか、数社が寡占状態となっている。それが国有企業であろうと、民間企業であろうと、殆んど変わらない(大手民間企業は、“民間”と称しつつも、社内では中国共産党員が多くの割合を占め、実態としては「党営企業」と呼べるかもしれない)。

 そして、それら多くの企業は、中国共産党幹部の権益と密接に関わる。米企業が、中国のある特定分野へ新規参入する事は、党幹部の権益を著しく脅かすだろう。そのため、習近平政権が、簡単に米側の要求を飲むとは考えにくい。

 以上を考慮すれば、「米中貿易戦争」が終結する可能性は著しく低いと言わざるを得ない。

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澁谷 司(しぶや つかさ)
1953年、東京生れ。東京外国語大学中国語学科卒。同大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学等で非常勤講師を歴任。2004~05年、台湾の明道管理学院(現、明道大学)で教鞭をとる。2011~2014年、拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。現在、同大学海外事情研究所教授。 専門は、現代中国政治、中台関係論、東アジア国際関係論。主な著書に『戦略を持たない日本』『中国高官が祖国を捨てる日』『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる!「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)等多数。

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