先のエントリーの続編です。私は2期目の時、何度か、この「臨時財政対策債」について国会で取り上げました。その中で「地方交付税の中に臨時財政対策債の償還財源が100%入っているが、それをきちんと積み立てていない自治体がある。」という事がありました。
5年くらい前に朝日新聞がこの件を報じました。「償還用として割り当てられた財源を他の目的に流用しているではないか。」という事でして、その額が我が福岡県では348億円という事でした。これを問題視した福岡県議会の先生方から頼まれて、私は質問主意書を出しています(質問、答弁、私のエントリー)。答弁書を見ていただければ分かりますが、かなり踏み込んでいます。
私の質疑を踏まえて、田辺一城県議(現古賀市長)が県議会で本件についての質問をしています。小川知事の答弁は以下のようなものでした。
【2015年2月17日・平成27年2月定例会(第9日)】
◯知事(小川 洋君)
まず初めに、臨時財政対策債の交付税算入額との差についてでございます。平成十三年度から二十五年度までの返済総額は千五百四億円、これに対する交付税算入額は千八百九十九億円となっておりまして、三百九十五億円の差が出ております。この差の理由でございますけれども、地方交付税の算入におきまして、臨時財政対策債の返済にかかわる二十年返済と三十年返済の割合が、国の場合は全国一律五対五とされている一方で、私ども福岡県におきましては、金利の動向に加え市場における福岡県債の評価や投資家の意見も十分踏まえた上で最も有利と考えられる借り入れを行った結果、その割合が二対八となっております。このように、福岡県におきましては、一年当たりの返済額が二十年返済よりも小さくなります三十年返済の割合が国の交付税算定上用いられております全国一律の基準よりも高いために、実際の返済額が交付税の配分額を下回っており、結果として差額が生じているところでございます。(以下略)
ここはテクニカルなんですが、結構重要なポイントです。
20年返済ですと毎年5%の償還財源、30年返済ですと毎年3.3%の償還財源が国から来ます。そして、国は20年債:30年債を1:1の比率で計算して地方交付税の中に入れています。しかし、福岡はこの比率が2:8で30年債の方が多いです。なので、5%の財源を貰っている中で3.3%しか償還財源として積み立てていないので「余り」が出ているという事でした。「なるほどな」と(その時は)思いました。
それを踏まえて、私は国会で本件を再度聞いています(ココ)。政府の答弁者は、尊敬する黒田自治財政局長(現消防庁長官)でしたが、「計画的に減債基金の積み立てを行い適切に償還財源が確保されていれば、問題がない」というものでした。福岡県のように「貰っているものよりも、借金返しに充てているものが少なくても問題ない。」という事でした。もう少し厳しい答弁になるかと思ったら、(その瞬間は)結構、驚いたものです。
ただ、その後、私に真実を教えてくれる方がいました。「あれ、福岡県のような事をやっていると後年度になると手出しが出てキツくなるんですよ。」という事でした。その理屈を説明したいと思います。とても簡素化したモデルなので、実態はもっともっと複雑です。
まず、ある県が30年債の臨時財政対策債を200億円起債するとします。とすると、地方交付税の基準は20年債:30年債で「1対1」なので、毎年「100億×5%+100億×3.3%」のおカネが償還財源として県にやってきます。8.3億円になります。その一方で、県は「200億円×3.3%」の6.6億円しか償還財源として積み立てません。すると、「8.3億円-6.6億円」の1.7億円は「儲けた分」になります。
「毎年、1.7億円自由に使えるカネが増えていいなあ。」となりそうなものです(私も当初はそう理解しました)。しかし、20年経つと、20年債の償還は終わります。なので、20年後以降30年後までの10年は「100億×3.3億円」の財源しか入ってきません。しかし、県は引き続き「200億×3.3%」の6.6億円を償還財源として積み立てなくてはなりません。この時に県は10年間は3.3億円を手持ちで出さなくてはならなくなります。
これを最初の20年は毎年1.7億円儲けた気分になれるけど、残りの10年は毎年3.3億円手出しになって、30年後にトントンというのが実態です。そう考えてみると、総務省の「計画的に減債基金の積み立てを行い適切に償還財源が確保されていれば、問題がない」という答弁は、結構突き放した言い方なのかもしれないなと思いました。「適切に償還財源が確保」という所に多くの含意があるのだと思いました。
臨時財政対策債の仕組みが始まってから、まだ20年経っていないので、この「後になるとキツい」というのが実感しにくいのかもしれません。我が福岡県もまだ、当初立てた20年債ですら満期にはなっていません。今後、どんどんキツくなっていくのではないかと懸念しています。そんな簡単に儲ける仕組みになっているはずもなく、結局はキツくなった時も、自分で「適切に償還財源を確保」するんですよ、という事なんだと思います。
一旦は「なーんだ、問題なかったのか。」と思った福岡県の状況が、改めて気になり始めました。全国に同様の自治体はたくさんあります。