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樹木希林をほうふつとさせる英女優がアカデミー女優賞を獲得か? 映画『女王陛下のお気に入り』の英女優コールマンとは

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イギリスで、女性コメディアンの位置はかつてそれほど高くなかった。今でも「男性と比べて低い」という人もいる。

長年、「女性にコメディアは無理」という偏見があったが、1980年代以降、自分で台本も書く女性コメディアンたち(二人組のフレンチ&ソーンダース、ビクトリア・ウッドなど)がパイオニアとなり、女性たちが活躍する場が形成されていった。

演じるばかりではなく、台本も書ける強みを持つ女性たちは自分たちが主演するコメディア番組、さらにはドラマを手掛けるようになる(結婚できない女性を主人公にした「ミランダ」を作り、主演したミランダ・ハート、男女二人とその家族のコメディドラマ「ギャビン&ステイシー」を書いたルース・ジョーンズのドラマ「ハッティ」など)。

コメディ・ドラマに出る女優が、次第に本格的ドラマに主演するようになる例は、米英では必ずしも珍しくない。例えば、アメリカの女優サンドラ・ブロック。色気ゼロでやぼったい女性警官がミス・アメリカコンテストに参加するコメディ映画『デンジャラス・ビューティー』(2001年、続編2005年)で観客を大いに笑わせたが、2009年の『しあわせの隠れ場所』で米アカデミー主演女優賞を獲得している。

恥ずかしがりで泣き虫

コールマンはノーフォーク州ノーウィッチ生まれ。父は公認測量士、母や看護婦だった。私立校で勉強し、ブリストルにある演劇学校を卒業後、ケンブリッジ大学のアマチュア演劇クラブ「フットライト」のオーディションを受けた。ここでのちの夫に出会った。2001年に結婚し、3人の子供がいる。

コールマンはメディアで自分について話すことは苦手のようで、近年は普通に外を歩くことができなくなったことが大変だと語る。複数の映画の賞にノミネートされていること聞かれ、「吐きたいぐらいドキドキする。家で夫といたほうがいいわ」(ガーディアンのインタビュー記事、昨年12月30日付)と話している。

昨年5月のヘンリー王子とメーガンさんの結婚式をテレビで見て、「感動して泣いてしまった」と言いながら、その時のことを思い出してまだ目に涙がたまってしまう。

映画の宣伝のためにトーク番組に出ているコールマンはいつも、ひどく緊張しており、『女王陛下のお気に入り』によって注目の的になっていることを戸惑っているように見える。

コールマンをインタビューしたジャーナリストは「話しかけやすい、気さくな人」と評している。

◆映画『女王陛下のお気に入り』とは

これまでは、優れたわき役として評判を高めてきたコールマン。

次第に主役に近づいたのが、テレビでは先に紹介した「ブロードチャーチ」。そして映画が『女王陛下のお気に入り』だ。18世紀、アン女王にはお気に入りの女性の友人、サラ・チャーチルがいた。サラの夫は将軍マールバラ伯ジョン・チャーチル(第2次大戦時の英首相ウィンストン・チャーチルやダイアナ妃の先祖に当たる)。映画『ナイロビの蜂』(2005年)で米アカデミー助演女優賞を受けたレイチェル・ワイズがサラを演じた。

映画では、サラは女王の代わりに政治を牛耳った女性として描かれている。

しかし、サラの安泰の時期は従妹アビゲイル・メイシャムが宮殿に入ったことで、大きく乱されることになる。アビゲイルはアン女王のお気に入りの座をサラと競うようになったからだ。アビゲイルを演じるのは『ラ・ラ・ランド』(2016年)で主役を演じたエマ・ストーンだ。

アン女王、サラ、アビゲイルの三角関係はどうなるか。サラが勝つのか、アビゲイルが勝つのか。

筆者は、自然光やろうそくの光を使った美しい映像、宮殿内部の調度品の見事さに息をのんだ。当時は貴族が公の場でかつらをかぶり、お化粧をしていた。特にこの映画の男性陣のかつらは圧巻だ。豪奢で、かつ傲慢な王族や貴族の暮らしぶりは決してきれいごとの世界ではない。

コールマンは小太りの、気難しい女王役を演じている。「美しい」、「格好いい」、「尊敬できる」、「素敵な」という形容詞とは全く正反対の描写だ。

アン女王は17人の子供を産んだが、死産が多く、どの子供も成人まで育たなかった。コールマン演じる女王はその悲哀も伝える。

王室といかに近いかでその人の人生が決まった時代。果たして、アンは幸せになれたのか。

映画ではアン女王の最後は描かれていないが、1714年、世継ぎを作らないままで崩御したため、イギリスはドイツ・ハノーバー家から新しい王(ジョージ1世)を迎えることになる。

次作は「クラウン」

コールマンの最新作も、王室がらみだ。現在の英女王エリザベス2世を主人公にしたドラマ、「ザ・クラウン」(ネットフリックス)。シーズン2まではクレア・フォイ主演で配信されてきたが、今年後半の配信予定となっている第3シリーズでは、コールマンがエリザベス女王を演じる。人間味あふれる、より親しみが持てるエリザベス像になるかもしれない。

『女王陛下のお気に入り』を見る機会があったら、そこで終わらせず、日本でいえば樹木希林と小林聡美のおかしみを体現する女優コールマンの別の作品もぜひ見ていただきたい。

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