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樹木希林をほうふつとさせる英女優がアカデミー女優賞を獲得か? 映画『女王陛下のお気に入り』の英女優コールマンとは

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2月に入り、米英のアカデミー賞発表の季節となった。

「え?米アカデミー賞なら知ってるけど、英アカデミー賞?」という方もいらっしゃるかもしれないが、本家米国版(1927年から)の第91回アカデミー賞の発表は2月24日、イギリス版(1947年から)は10日になる(ちなみに、1978年創設の日本アカデミー賞の授賞式は3月1日の予定)。

米英のアカデミー賞でともに作品賞と主演女優賞にノミネートされているのが、イギリスのアン女王(1665年~1714年)の人生を描いた『女王陛下のお気に入り』、女王を演じた英女優オリビア・コールマン(45歳)だ。

Getty Images

すでにコールマンはこの映画の役でヴェネツィア国際映画祭女優賞、ロサンゼルス映画批評家協会主演女優賞、そしてアカデミー賞の前哨戦と言われるゴールデングローブ賞で主演女優賞を受賞している。今年は彼女にとって、当たり年と言ってよいだろう。

いったいどんな女優なのか?

『女王陛下のお気に入り』は15日に日本で封切りとなるが、コールマンはアン女王の役を演じるために15キロ太っており、移動には杖をついて歩くか車いすに乗らざる得ない、気難しくて自己中心的な女性として登場する。

これがコールマンとの初遭遇だった場合、役柄そのものがコールマンだと錯覚してしまうことにもなりかねない。非常にもったいない感じがする。

イギリスで過去数年わたりコールマンの演技を楽しんできた一人として、彼女の演技の深みや人柄を紹介してみたいと思う。

コメディエンヌとして活躍

ネットでコールマンの画像を検索すると、近年様々な賞を受賞したこともあって、きれいにお化粧した画像が良く出てくる。 しかし、イギリスのテレビに出てくるコールマンは化粧気がほとんどない。ツンと上を向いた鼻に下がり気味の口元で、親しみやすい容姿のコメディ女優だ。

コールマンがその名を広く知られるようになったのはテレビのコメディ・ドラマ「ピープショーボクたち妄想族」(2003-15年、チャンネル4)で、コールマンは主人公の二人の男性のうちの一人に片思いをする女性を演じた。もっさりした服装で、感情的に不安定な女性の役で笑いを誘った。この二人の男性(デービッド・ミッチェル、ロバート・ウェッブ)が次第にコメディ俳優として著名になる中で、コールマンもその仲間としてキャリアを築いていった。

その後も数多くのテレビ番組に出演したが、「ちょっと変わっている人」、「思わず笑いを誘う人」を演じることが多くなった。スタンドアップをやるコメディアンではなく、あくまで「シチュエーション・コメディ」(登場人物や状況の設定でおかしみを誘うコメディ)の女優である。

コメディ俳優を続けている人がコメディ以外のドラマに出演するとき、笑わせくれた人物の温かみや親しみが役に深みを出すことがある。

例えば、故人になってしまったが、女優樹木希林はかつてピップエレキバンやフジカラープリントのコマーシャルでコミカルな役を演じたが、その後も多数のテレビドラマや映画の中ではそこにいるだけでおかしみや人柄の温かさがにじみ出る女優として活躍した。

フジテレビの「やっぱり猫が好き」シリーズで幅広い人気を得た小林聡美のそこはかとないおかしみも、コールマンのおかしみと相通じるものがある。

コールマンは、「そこにいるだけで、どことなく笑える」風情を保ちながらも、いつしか必ずしも笑いを必要としない映画で堂々と主役に抜擢されるようになった。

抑えたコメディ演技から、人気刑事へ

筆者が、コールマンの演技に注目したのは、2011年―12年にBBCで放送された「TwentyTwelve(2012)」というコメディ番組(BBC)だ。2012年のロンドン五輪開催に向けて準備する組織委員会の官僚主義や失敗ぶりを鋭く笑い飛ばした番組だ。

主人公は日本でも放送された、高級邸宅を舞台にした家族ドラマ『ダウントンアビー』(2010~15年、ITV)でグランサム卿を演じたヒュー・ボネヴィル。組織委員会のそそっかしい上司を演じた。

コールマンは、ボネヴィル演じた上司に恋心を抱く秘書役。何一つ笑わせるようなセリフはなく、立ち振る舞いも目立たない。しかし、これまでにコメディエンヌとして活躍してきたコールマンを視聴者は知っているので、一切、「笑い」という要素を消した演技でも、そこはかとないおかしみを感じ取ってしまう。

秘書は上司に決して自分の気持ちを告げず、上司はあまりにも鈍感なので秘書の気持ちを全く解さず時が過ぎるのだが、いつの間にか、二人で休暇に出かけることになってしまう。一切、「好きです」というような言葉はないし、好感を持っているというそぶりも互いに見せない。

しかし、観客にはこの女性が上司に恋心を寄せていることが痛いほどに伝わってきて、何となくほろりとさせた。

イギリスで「コールマンは演技派だ」ということが、コメディファンを超えて認識されたのが刑事ドラマ「ブロードチャーチ殺意の町」(2013年~、ITV)。大ヒットとなったこのドラマシリーズで、コールマンは国際エミー賞の最優秀女優賞、英アカデミー賞のテレビ部門の女優賞を獲得した。

ロンドンの神父の日常を描いたコメディ・ドラマ「レブ」(2010~14年、BBC)では主人公の妻を好演した。この時も、視聴者を笑わせるセリフは主人公やほかの人物が持っていいき、コールマンはわき役として目立たない演技をしただけだが、コメディエンヌとしてのイメージを役柄に重ねる視聴者には温かみのある女性として映った。

おかしみとリアルさ

コールマンが演じるとどんな役も非常にリアルになることがさらに実感されたのが、スパイ小説で知られるジョン・ルカレが書いた「ナイト・マネジャー」のテレビドラマ化(2016年、BBC)だった。

国際的武器業者を英情報機関が捕まえるという、硬派のドラマで、コールマンが演じたのはMI6の国際執行機関に勤める執行官。スパイを送り込み、指令を与え、最後には銃を持って武器業者を捕まえる。

非常にマッチョなドラマ展開の中で、コールマンは妊娠中の母親役で登場した。実際、この時、コールマンは身ごもっていた。悪徳武器業者を捕まえる、情報機関の執行官が、お腹が大きな中年の女性。日常の生活感あふれる場面が時々挟み込まれ、スパイや武器商人たちの暗躍とコールマン演じる執行官のリアルなしぐさやセリフがおかしみを誘った。コールマンの身が危なくなるかもしれない、スパイの身元がばれるかもしれないというスリルで一杯のこのドラマも、大ヒットとなった。

2015年にはメリル・ストリープがサッチャー英首相を演じた『マーガレット・サッチャー鉄の女の涙』(2011年)にも出演。サッチャー氏の娘キャロル役である。

筆者はコールマンを画面から認識することができなかった。キャロル役を演じるために、長髪のかつらと、つけ鼻をしていたのである。

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