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「数字をいじるのは末期症状のあらわれ」ビッグデータの時代に統計を粗末にする日本 独立した統計庁を創設して予算の増額を

「全数調査」と公表も実際は3分の1

[ロンドン発]厚生労働省の「毎月勤労統計調査(毎勤)」で500人以上の事業所について「全数調査」をうたいながら、こっそり3分の1の「抽出(標本)調査」に切り替えていた問題が発覚した。

統計は政策の立案と遂行、行政サービス、研究に使われるだけに呆れるというほかない。背景には統計事業予算の削減に加えて、霞が関のデータ軽視体質が浮かび上がる。

統計法で基幹統計と定められ、雇用・給与・労働時間を調査する「毎勤」の年報には最新版の2017年まで500人以上の事業所は全数調査と明記されていた。特別監査委員会の報告書から、経過をたどっておこう。

報告書によると、2003年7月、厚生労働省統計情報部長名で「500人以上事業所は全数調査としていたが、今回は東京都に限って一部の産業で標本調査とした」と各都道府県に連絡があった。

2004年以降、東京都内にある500人以上の事業所について表向きは全数調査とされているにもかかわらず、抽出調査が行われた。2018年の全数調査対象は1464事業所なのに、実際は491事業所だった。

抽出調査を母集団の調査結果として扱うための「復元」が行われなかったため、給与の高い東京都の復元倍率が低くなり、「きまって支給する給与」などの金額が低めになった。

1996年以降、調査対象事業所数が公表資料よりも1割程度少なく、抽出調査で集計上、必要な復元処理が行われていないケースも確認された。復元に必要なデータを探しても、一部は見つからなかった。

発言力が極端に弱い統計部門の予算が真っ先に削らるのは想像に難くない

下は総務省が各省庁や都道府県の統計事業予算を集計したグラフである。突出した山は5年に一度の国勢調査が行われた年だ。


国の予算は徐々に減らされ、都道府県の予算は「失われた20年」の間に3分の2以上削減されている。総務省統計局の「統計学習の指導のために(先生向け)」には次ように記されている。

〈「全数調査」は集団のすべてを調査するため、大変な手間と費用がかかる。しかし、一部を選んで調べる「抽出調査」で生ずる「標本誤差」が含まれない。他の統計の基準となる数値(ベンチマーク)を定期的に提供して、統計の正確性を担保している〉(筆者要約)https://www.stat.go.jp/teacher/c2hyohon.html

これまでベンチマークにしてきた全数調査を抽出調査に無断で切り替えた理由はお金と人手がなくなったとしか考えようがない。

金融バブルが崩壊した後、日本の財政は逼迫した。省内で政策立案部門に比べて発言力が極端に弱い統計部門の予算が真っ先に削られていくのは想像に難くない。

若手官僚から「政策は政治家の力関係によって決められる。統計が根拠にされることも、統計の結果から成果が検証されることもない。都合よく数字が利用されるだけだ」という愚痴を聞かされたことがある。

永田町にも、霞が関にもProblem(問題)、Plan(調査の計画)、Data(データ)、Analysis(分析)、Conclusion(結論)のサイクルが存在しないのだ。

賃金が上昇したように見せかけるため、都合よく「復元」したという指摘もあるが、実質賃金は横ばいのままだ。


不適切な調査は小泉純一郎首相時代に始まっており、アベノミクスで賃上げを目指す安倍晋三首相に忖度(そんたく)して抽出調査を復元する際、水増しがあったとまで果たして言えるのだろうか。

戦果を水増しして発表する大本営発表で無謀な戦争を続け、第二次大戦(日中戦争以降)で300万人もの犠牲者を出した。統計を粗末にする国の将来は危ういことを歴史は教えてくれる。

ナイチンゲールの「鶏冠(とさか)のグラフ」

「統計のふるさと」といえば英国。看護師フローレンス・ナイチンゲール(1820~1910年)は日本でも有名だ。クリミア戦争で野戦病院に志願した看護師を連れてトルコに赴いた「白衣の天使」として知られる。

英国では続いて必ず紹介されるのが「鶏冠のグラフ」だ。ナイチンゲールはクリミア戦争の死者を分析して死因と死亡月を円グラフにした。

ナイチンゲールはこのグラフで、戦闘で負った傷が原因で死亡する兵士よりも、不衛生な病院で感染して死亡する兵士がはるかに多いことを訴えた。これで病院の衛生状態を向上させ、犠牲者を減らした。

統計を有効活用するには2つ以上のデータを比べてみたり、相関関係を調べてみたりして、分かりやすく伝えるためにポイントを強調するグラフィックスを作る必要がある。

英国でデータの大切さを教える時、「鶏冠のグラフ」のエピソードが引用されるのはこのためだ。

英下院図書館の報告書を見ても、ひと目で見て分かりやすいグラフが豊富にあしらわれている。小さな自治体の資料もいろいろな統計が並べられ、他の地域や全国平均と比較しやすいようになっている。

統計を収集して公表する英国統計局(ONS)は大臣がいない省庁で直接、議会に報告する役割を担っている。年間コストは2億4465万ポンド(約350億円)。

ビッグデータやオープンガバメント(積極的に政府情報を公開する動き)に対応できるよう、人口が2倍弱の日本と同じぐらいの規模の予算を組んでいる。

「意味を持たせてはならない」(総務省関係者)日本の統計と比べて、ONSの統計は国民が社会問題を意識しやすいよう分析の仕方も見せ方も工夫されている。

「エラー・フリー(ミス撲滅)」を掲げるが、いい加減をもってよしとする英国人らしく0.2%の間違いが発生しているのはご愛嬌だ。

「昨年はフェイク(偽)経済データの年」

数字とグラフは怖いぐらいのインパクトを持つ。一部だけを切り取って自分の都合の良い文脈で使うこともできる。英国の欧州連合(EU)離脱を巡っては、誇張された数字が独り歩きした。

米国のドナルド・トランプ大統領は主要メディアを「フェイクニュース」と罵倒し続けているが、英紙フィナンシャル・タイムズが「2018年はフェイク経済データの年」という記事を掲載し、データに絡む問題を列挙したことがある。

・中国北部の多くの州が地域内総生産(GDP)をごまかす
・英ONSが2017年12月、長期小売価格指数に基づくインフレ率が4.1%に上昇したと発表したが、この指標が信じるに足りないことが明らかになった
・財政粉飾から深刻な債務危機に陥ったギリシャでは統計局の元長官が有罪判決を受けた

日本でも東芝の不正会計、三菱自動車やスズキの燃費偽装、神戸製鋼所の品質検査データ改竄(かいざん)、SUBARUのデータ書き換え、 KYBの免震装置データ改竄と、数字やデータのごまかしが相次いだ。

数字をいじるのは末期症状のあらわれだ。

不祥事が起きると罰として予算が削られることが多いが、筆者は数字がごまかされないよう各省庁の統計部門を統合し、政治とは一定の距離を置いた統計庁を発足させ、予算を大幅に増額することを提唱したい。

働き者の日本人と違って、英国人は情報収集と分析、今後のグラウンドデザインを決める議論に精力を注ぐ。フェイクニュースが氾濫する時代だからこそ、統計の重要性は増している。

もし、霞が関が安倍首相に忖度して数字を色付けしていたとしたら、日本は間違いなく先の大戦や財政破綻したギリシャと同じ過ちを繰り返すことになる。

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