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少年野球の練習風景で思い出した「頑張れば、できる」という亡霊のような何か なんだろう、この胸の痛みは - 山本 一郎

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説明している私が一番納得していないわけですが

 まあ、指導法の良し悪しはともかく老人コーチたちの反応は納得できないものばかりでもないのです。「真面目にやらないと怪我するよ」「一度、真剣にやった経験があれば、次からも真剣にできるようになるから」などなど。老人コーチは「あんまり押し付けるといまの子供はやる気なくしちゃうからね。少し配慮しますよ」というので、私は引き下がりました。

 集まる保護者たちには事情を説明し、コーチたちも考えのあってのことのようなので、との内容で納得していました。説明している私が一番納得していないわけですが、せっかくの合同練習だし、気まずい雰囲気にしてもどうかと思い、黙っておりました。

ジジイども、謀ったな!

 ところが……。休憩終わってからは、気のせいか、さっきよりマッハでビシビシ指導の声が飛んでいるように思うわけです。ジジイども、謀ったな。日ごろ穏やかで温厚な人柄で知られる私もさすがに怒りゲージの上昇を感じます。せいぜい前半後半40分程度の練習とはいえ、小学生には厳しいのです。緩い内野のノックを順番にやる、でもすでにへとへとになっている子供が打球の正面に入らずバックハンドで取りに行ったとき、老人コーチから「ゴロの正面に回れって言ったろう!」と叱責が飛ぶんです。「やりなおし!」。

 上手くいかなくて座り込む見知らぬ子に対し、そこまでやらせるのはどうなのかと思うわけですよ。「ゴロの正面に回る」意味の理解もさることながら、どういうステップを踏めば正面に行けるのか、教えなければ子供に分かるはずがない。苦渋の表情を浮かべる子供たち。なあ、逃げて、いいんだよ。ものすごく、悩みます。そういう苦しいのを経験するのも練習だと割り切らせるべきなのか。それで上手くなるの。野球がもっと好きになるの。これを強いることが、子供の成長に繋がるのだろうか。

 一方、目を転じると我が子たちは「少し太っているから」という理由でブルペン近くでキャッチャーをやらされていました。えー。あー、うん。まあご多分に漏れず、キャッチャーというのは不人気ポジションではあるのですが、まさか我が兄弟が揃ってちっちゃいキャッチャーミット借りて、見よう見まねでしゃがんでボールを受けています。小さい、丸い背中。

 まあ、何事も経験ですわ。表情は見えないけど、楽しそうにやっているしいいかな。と思ったら、ちょっと目を離している隙に、動きの悪い子どもたちが何かやらかしたのか、コーチと子供たちが輪になって何か公開説教みたいなモードになっております。

頑張っても、できないんだよ

 叱責というよりは、「もっと頑張れよ」と。老人コーチは、熱っぽく「頑張れば、できるんだよ」と、みんなに言っています。うん……。なんだろう、この胸の痛みは。40年前という私の人生を経て熟成された、リトルリーグを挫折した甘酸っぱい記憶は。これ以上頑張れない、でも容赦なく降り注ぐ「頑張れよ」という、指導という名の何か。

 頑張っても、できないんだよ。ゴロを落としてしまう、変なところに投げてしまう。みんな、どうやったらちゃんとしたところにボールを投げられるの。コーチからはさんざん「頑張って真面目にやれば投げられるようになる」と言われたが、結局できなかった。どうすればできるようになるのかを教えてくれなかったから、できないまま、少年野球をやめて中学受験に走った私を、少年野球を続けているクラスメートが「あいつはできないから『逃げた』」と教室で煽り、激烈にムカついたので隙を見計らって廊下で後ろから全力ライダーキックして、学校の中で問題になって親と一緒に校長とその子の保護者に謝りに行った、悲しくも香ばしい、秘められた個人の思い出。

感情でも理性でも受け入れられない

 頑張ったつもりなのにできなかったというのは、ない才能と向き合う度量がなければ無理だと思うんですよ。子供のころは、私もできる他の子たちと自分を見比べて、ああ、スポーツの才能がないんだと自信を持てないでいました。いまでこそ、頑張ってもできないことがある、やり方を掴めなければ努力してもできないことは知っています。いろんな経験を積んで、客観的に自分を観られるようになり、やがて大人になって初めて「逆立ちしてもできないことはあるんだ」とか続けていても無理を悟る瞬間というのはあります。

 コーチたちは「上手くなってほしい」から頑張らせるのでしょうが、上手くやる方法を同時に教えてくれなければ、上手くなるきっかけもつかめない。営業マンがカバンだけ渡されて「売上上げてこい」と言われる状況と同様のことを、実は、こういう機会を通じて子供のころから慣れ親しみ過ぎているのかもしれません。

 意気消沈したように見える子供たち。心配そうに見守る保護者の群れ。

 さすがにいまでこそライダーキックはしないけど、いま聞いても「頑張れば、できる」は辛い。感情でも理性でも受け入れられない。お昼になり練習が終わる時間になっても、居残り練習をする子供たちが多数のなか、山本家は兄弟の手を取り「次に予定があるから」とそそくさと退散するわけです。「頑張ったね。楽しかった?」とか聞きながら。

 答えは……「友達と一緒にやってるから、楽しい」と。そうか。そうだな。

(山本 一郎)

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