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【読書感想】三谷幸喜のありふれた生活15 おいしい時間

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三谷幸喜のありふれた生活15 おいしい時間
作者: 三谷幸喜
出版社/メーカー: 朝日新聞出版
発売日: 2018/07/20
メディア: 単行本
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内容(「BOOK」データベースより)
超多忙な人気脚本家の至福のひと時。父子でウルトラマン観賞し、コロッケそばで満たされ、息子の弁当作りに熱中…。五十代半ばを過ぎて、気を許すと、すぐに安定志向へ。こんなことではいけないと、新作舞台に俳優復帰、苦手なトークショーも解禁!チャレンジの日々に、エッセーも新展開へ?高校時代の著者本人が数学の授業中に描きためた似顔絵「内閣総理大臣大会」他を収録。


 三谷幸喜さんのエッセイ『ありふれた生活』の第15集。
 朝日新聞連載の2016年5月19日~17年10月26日掲載分をまとめたものです。

 この本は、出川哲郎さんの話で始まります。

 今、出川哲郎さんが面白い。昔から注目していたけど、最近になって、その魅力が爆発しているように感じる。アクの強さが年齢を重ねるに従って、次第に薄れ(僕らが慣れただけかもしれないが)、最近は、人間的深みさえ感じられる。でも決して落ち着いていないところが、またいい。

 彼の凄いところは、例えば、出川さんが役者として、ドラマや映画に出ているところを想像してみると分かる。まったくイメージが湧かない。大河ドラマで戦国武将を演じている出川さんを思い描いて欲しい。たとえ武田信玄を大真面目に演じたとしても、僕らはそこに、信玄になりきれずに悪戦苦闘する「出川哲郎」を見ることしかできない。

 これは凄いことである。なぜなら、こんな人、他にいないから。江頭2:50さんだって、「ダチョウ倶楽部」の0上島竜兵さんだって、上手い下手は置いといて、役になりきる姿は、なんとなく想像は出来る。しかし出川さんは無理。彼はあくまでもバラエティーの国の住人なのである。そこでしか生きられない。日本でテレビ放送が始まって六十年以上過ぎ、バラエティー番組の歴史もそれと同じだけ続いている中で、出川哲郎さんは、ひょっとしたら、初めて誕生した純正バラエティータレントなのかもしれない。


 こういう視点は、「演じてもらう側」の三谷幸喜さんならでは、だと思うんですよ。

 そうか、三谷さんには、出川哲郎さんは、そんなふうに見えているのか。

 言われてみれば、どんなドラマでも、出川さんが真面目に演じようとすればするほど、コントのようになってしまう光景が想像できるんですよね。

 人気芸人ともなれば、大概の人は、ドラマや他のジャンルでも「仕事」をしているものなのですが、出川さんに関しては、その姿が思い浮かばない。

 ちなみに、三谷さんは、実際に出川さんに(この原稿を書いた時点では)会ったことはないそうなので、直接会ったら、なんらかの才能を見出す可能性もないとは言えないのですが。

 このエッセイ集を読んでいると、ときどき、三谷さんが「いまだからこそ語れること」をサラリと書いていることがあって、「これはあのドラマのことだな」と、少し長生きしていて得tしたような気分になることがあります。

 ネットユーザーの間で生まれた「ナレ死」という言葉。大河ドラマ「真田丸」では、登場人物たちの死を直接描かず、ナレーションで伝えるケースが多く、そこからこのフレーズが生まれた。かの織田信長でさえもドラマの本筋とは関係ないので、その死はあっさり語りで済ませてしまった。

 本来、僕は登場人物の死を描くのが好きではない。彼らは言ってみれば、自分の分身のようなもの。最期の瞬間は出来れば見たくないのである。今回、その瞬間を丹念に描写したのは、秀吉と真田昌幸の二人だけ。

 俳優さんの中には、死ぬシーンを演じたがる人も多い。入れ込んだ役だと、どうしても劇中で死んで役を簡潔させたいと思うようだ。その気持ち、分からないでもない。

 脚本家としてまだ駆け出しだった頃、こんなことがあった。あるドラマの最終回、ラストシーンの撮影現場から連絡が入った。主演俳優が死にたがっているので、急遽ホンを変えたい、とプロデューサー。僕はその時、自分の劇団の公演中で、劇場のロビーにいた。脚本家としては当然反対した。台本では、主人公は一人夜の街に去っていくシーンで終わっている。しかし、その俳優さんが全身全霊を込めて役に入り込んでいたことも分かっていた。

 そこで、死ぬのは構わないので、どういう形で最期を迎えるかは、僕に考えさせて欲しいとお願いした。現場では既に撮影準備が整い、主演俳優も死ぬ気満々でいるらしい。僕は五分ほど考え、もっとも劇的な最期の状況を思いついて、プロデューサーに伝えた。結果的には、とてもいいラストになったので、主演俳優さんには感謝している。もうちょっと早く言ってくれれば、さらにいいアイデアが浮かんだかもしれないが。

 これはきっと、「あのドラマ」のことだろうな、と、僕は思いながら読んでいたのです。

(証拠はないので、そのドラマの名前を挙げるのはやめておきます)

 最終回のラストで、主人公の医者が唐突に死んで(というか、確実に死んだという描写はないのですが)しまうシーンは、けっこう衝撃的でした。

 えっ、なんでこうなるの?と当時は狐につままれたような気分だったのですが、こんな経緯で「五分で考えられたもの」だったのか……

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