- 2019年01月31日 09:15
日本企業が"リサーチ"より優先すべきこと
2/2イノベーションに必要な“エネルギー”
イノベーションを起こすためには、顧客の課題を捉えなくてはならないと説明しましたが、もうひとつの条件があります。それが“エネルギー”です。過去に起きた産業革命では、まさにイノベーションが多発したわけですが、その背景には蒸気や石油、電気などのエネルギーがありました。こうしたエネルギーを誰もが利用できるようになったことで、さまざまなイノベーションが生まれたと考えています。
昨今は、インターネットの発達にともない、人工知能やIoTなどが生まれ第四次産業革命が起きていると言われますが、インターネットも、ある意味で新たなエネルギーです。過去の産業革命と同じように、インターネットによりこれまで解決できなかった顧客の課題を解決できるようになり、イノベーションも次々と生まれています。
イノベーションは、産業の構造そのものを変えるインパクトをもたらします。インターネットにより、Uberがタクシー業界を変えたり、Airbnbがホテル旅館業に影響をおよぼしたりしていることからも明らかでしょう。顧客の課題を捉え、そこにインターネットを掛け合わせることで、日本からもまだまだイノベーションを生み出す余地はあるはずです。
「ネスカフェ アンバサダー」はインターネット時代のサービス
ネスレ日本の場合、2012年から「ネスカフェ アンバサダー」というサービスを始めており、これもインターネットによって可能となったイノベーションです。ネスカフェ アンバサダーは、無料のコーヒーマシンを職場などに置いていただきコーヒーを提供するサービスで、今はオフィスだけでなく美容室や病院にも広がっています。
オフィスでアンバサダー(担当者)を決めていただき、アンバサダーがオンラインショップでコーヒーを注文し、代金の取りまとめもしてもらう仕組みを作ったことで、1杯約20円から本格的なコーヒーなどを楽しんでいただくことを可能としました。
以前は、通勤途中に自動販売機やコンビニで缶コーヒーを買うのが普通で、オフィスの中で本格的なコーヒーを、しかもこれだけ安く飲めるとは考えられていなかったのではないでしょうか。
同様の仕組みを、ビタミン・ミネラルを含む抹茶や、スムージーなどの健康商品を提供する「ウェルネス アンバサダー」でも構築しています。ウェルネス アンバサダーの特徴は、食事内容を人工知能で解析しパーソナルに合った商品を提供する点にあります。これも、「自分に合った栄養素を摂取する難しさ」という課題を捉え、インターネットや人工知能をかけ合わせたことで実現できたイノベーションです。
イノベーションが必要なのは企業だけではない
人々の課題を捉え、イノベーションを起こさなくてはならないのは企業だけではありません。少子高齢化など、他国が経験したことのない先進的な課題に直面する日本政府も、これまでとはまったく違うやり方を考えなくてはならない局面に来ていると思います。
日本は戦後の高度経済成長を経て先進国の仲間入りをしたにもかかわらず、私が見るに、いまだに新興国だった時代のシステムを捨てきれていません。政府と役所、そして民間企業のトライアングルの形はまったく変わっておらず、このまま先進的な課題に対応しようとしても、おそらくうまくはいかないでしょう。
たとえば日本は世界に先駆けて本格的な少子高齢化に直面していますが、移民を受け入れずに人口を増やした国は過去にありませんから、誰もやったことのないことに挑戦しようとしているわけです。だからこそ、本質的な課題を掘り下げ、長期的な視点から必要な打ち手を考えるセンスメイキングの力が必要と考えています。
トップは10年続けなくては結果を出せない
長期的な課題に向き合うためには、時間も必要です。経営者に当てはめると、日本では過去の慣例を踏襲し、社長の任期は2期4年、長くても3期6年が一般的で、これでは大きな変革をできるはずはありません。
銀行でも頭取の任期は短く、今になって先送りしてきた問題がFinTechへの対応の遅れとして明らかになっています。10年前からFinTechの登場は予測されていたことであり、今頃になって慌ててリストラに踏み切っているようでは、遅きに失すると言わざるを得ません。日本人の中でもとくに優秀なエリートを集めたはずの銀行でさえこの状況ですから、トップの任期の短さは大きな国家的損失につながっていると思います。
私が思うに、トップは最低10年続けなくては結果を出せません。アメリカでは結果を出せなければ社長であっても解雇される一方、多くの場合10年以上同じ経営者がトップに座っています。私もネスレ日本の社長を10年続けるものとして取り組んでいますが、長期的な視点でイノベーションに取り組む姿勢こそが、日本にとって必要なことなのではないでしょうか。
イノベーションを起こせる人材の開発に必要な“顧客の諦めている、もしくは気づいていない問題発見能力”は、このセンスメイキングに通ずるものです。だからこそ高岡イノベーションスクール(TIS)により、次世代を担う若手管理職中心にイノベーションセミナーを開催しています。
----------
高岡 浩三(たかおか・こうぞう)
ネスレ日本社長
1983年、神戸大学経営学部を卒業後、ネスレ日本入社。2005年、ネスレコンフェクショナリー社長に就任。10年、新しい「ネスカフェ」のビジネスモデルを構築。同年11月からネスレ日本社長兼CEO。
----------
(ネスレ日本社長 高岡 浩三 構成=小林義崇 撮影=原貴彦)
- PRESIDENT Online
- プレジデント社の新メディアサイト。



