記事
- 2019年01月25日 09:10
日本と韓国は“危機”のエスカレーションを登ったのか?
2/2誤解・誤算を避けるために
武力衝突を回避できたとしても、相手の攻勢を止められなかったり、原状回復ができなかったりすれば、それもまた危機管理の失敗です。危機管理を行う上で難しいのが、武力衝突の回避と原状回復のジレンマの克服ですが、どちらを優先させるかはその時の状況やアクターによって様々です。アレクサンダー・ジョージは、武力衝突を回避する条件として以下の事を挙げています。第一に、強制するための条件として;
- 強い動機がある、
- 相手の動機より強い、
- 目標が明瞭、
- 相手に緊迫感があること、
- 国内世論の支持があること、
- 軍事行動をとる選択肢があること、
- 相手にエスカレーションの恐怖があること、
- 危機収拾の条件が明確であること、
- 相手に最後通牒と受け取られ、相手を挑発していないか、
- 強制政策と戦争回避の政策の間に衝突が起きていないか、
- 相手は強制側の決意を理解しているか、
- 相手が強制側の決意を理解するまで交渉を遅らせられるか、
- 相手が要求を受け入れやすくするための「ニンジン」は与えられているか、
- 相手が反撃の決意を固める前に「ニンジン」と「ムチ」をタイミングよく適用されたか、
戦時に戦場の霧が発生するのと同様に、危機においても不測の事態が潜んでいます。とりわけ、強制する側とされる側の誤解・誤算は、危機を戦時へとエスカレートさせる大きな原因となり、結果として「意図せざる不注意な戦争(inadvertent war)」を招きます。
レーダー照射問題を観察する際、「意図せざる不注意な」武力衝突どころか、挑発的な武力行使の意図を示した韓国の姿勢は危機管理上適切ではありません。
北朝鮮を超える韓国の「予測不可能性」と「制御不可能性」
ケネス・ウォルツの「3つのイメージ」でいうところのサード・イメージ(国際関係)では本件を理解し難く、セカンド(国内政治)やファースト(人間の本性や行動)イメージでアプローチする方が適切なのかなと愚考します。システム(国際体系)レベルよりも、ユニット(国家・政府)レベルでとらえる方がクリアになるのではないでしょうか。本稿で言うと、「危機におけるリーダーの心理」、「危機の意思決定」で言及したあたりが、ユニット・レベルに該当します。システムレベルでは、文政権の対日姿勢は一種迷走にも見えます。しかし、その本質は、「文在寅をはじめとする韓国の今日の政治家にとって、対日強硬政策を取り関係を悪化させることで得られる利益がほとんどない」※8という木村幹氏の分析が実際のところなのだと思います。
日本のことなど考えてないのでしょう。「事態を誰も統制しておらず、統制するための真剣な努力もなされていないことである。しばらくは韓国の対日政策は漂流を続ける」※9という木村氏の観測が正しければ、日本にとって韓国は北朝鮮よりも「予測不可能性」と「制禦不可能性」が高いということになります。
北朝鮮は、慣習法や国際法、そして国連決議に背いた立派なならず者国家です。その挑発行動の動機付けは対米核抑止の確立であり、核開発と弾道ミサイル実験は目的を達成するための手段です。この場合、強制外交の相手が明確であり、極めて危険ながら、システムレベルでの「予測不可能性」と「制禦不可能性」は危機管理政策上、決して高くありません。
本件レーダー照射問題の場合、韓国は日本に対する無関心(ユニットレベル)のあまり、自らの行動が日本に対する強制外交となっている事さえ理解できていないようです。そして、ごめんなさいが言えずに嘘を重ねた結果、引くに引けずに前に出た、という危うい外交行動(システムレベル)をとっているのではないでしょうか。本件ではかなり贔屓目に韓国擁護をしたとしても、対日危機管理・グレーゾーン対処における稚拙さが北朝鮮を超えると言わざるを得ません。
竹島問題よりも危機管理上はリスク増大か
そもそも、竹島を占拠されている時点で日韓関係を「純然たる」平時と規定するわけにはいきません。仮に竹島に対して日本が自衛隊を用いた行動をとれば、韓国軍が自衛権的措置、すなわち武力を行使するのは明白です。したがって、レーダー照射事件発生以前に日韓はすでに初期的な危機レベルにあったわけですが、その危機は、A・ジョージが定義したような武力衝突回避のための諸条件をそろえた管理されたものでした。ところが、レーダー照射問題では武力衝突を回避するにあたって、韓国の「目標が明瞭」でなく、「危機収拾の条件が明確」でないことから、いわゆる落としどころを日本側からはうかがえません。日本側の目標は明瞭です。まず火器管制レーダー照射という危険行動に抗議し、再発防止を目的とし、「危機収拾の条件」は、意図せざる不注意な衝突回避策を双方で再確認することです。
一方、韓国は今後同じ状況が発生すれば武力を行使するという発言から、危機を増大させようという態度ははっきりしているものの、その目的や事故再発予防対策は聞こえてきません。したがって我が国が抑止のための防衛力を増強するにしても、韓国の動機を読めないまま進める事になり、リソースの無駄遣いになりかねません。
自衛隊の行動は、国際法や日韓両国も合意国である海上衝突回避規範(CUES)を遵守しています。韓国は彼らが主張するような自衛隊の危険行動を証明できてはいません。こうした状況の下、意識的にせよ無意識的にせよ韓国が竹島問題よりも管理できない危機の生起を自ら示していると考えると、日韓の危機レベルはエスカレートしたと言えるでしょう。
注※1 日本の挑発に対する国防部の対応行動守則とは、ハンギョレ、2019/1/24.
注※2 日本の挑発に対する国防部の対応行動守則とは、ハンギョレ、2019/1/24.
注※3 土山實男、『安全保障の国際政治学 -- 焦りと傲り 第二版画像を見る』、256-257ページ。
注※4 ブルース・M・ラセット、『安全保障のジレンマ―核抑止・軍拡競争・軍備管理をめぐって画像を見る』、155-178ページ参照。
注※5 土山實男、『安全保障の国際政治学 -- 焦りと傲り 第二版画像を見る』、259ページ。
注※6 韓国外相、河野氏に「低空飛行続いている。憂慮し遺憾」、朝日新聞、2019/1/23.
注※7 土山前掲書、264-265ページ。
注※8 木村幹、漂流する日韓関係 「ニッポン軽視」文在寅が抱えた政治リスク、iRONNA、2018/11/29.
注※9 木村幹、漂流する日韓関係 「ニッポン軽視」文在寅が抱えた政治リスク、iRONNA、2018/11/29.



